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「坂本龍一|音を視る 時を聴く」展

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連日満員にご注意

東京都現代美術館で2025年3月30日まで開催されている「坂本龍一|音を視る 時を聴く」展を訪れた。本展は、音楽家・アーティストとして世界的に活躍した坂本龍一(1952-2023)の創作活動を包括的に紹介する、日本初の大規模な個展である。坂本は音楽の枠を超え、インスタレーション作品の制作や社会問題への関与など、多岐にわたる活動を展開してきた。本展では、彼が生前に構想していた個展プランを基に、彼の先駆的・実験的な創作活動の軌跡をたどる。

これらの作品を通じて、坂本の音楽は単に耳で聴くものではなく、空間や視覚、さらには身体的な体験を伴う芸術であることを再認識させられた。彼の音楽は、固定された形ではなく、常に変化し続け、観る者の意識に作用しながらその都度異なる意味を持つ。その意味で、本展は坂本龍一の音楽を深く理解するための貴重な機会であった。

なお、連日大変多くの来場で賑わっているという「坂本龍一 | 音を視る 時を聴く」展は、混雑状況を鑑み、来場者の安全確保のためオンラインチケット(日付指定)推奨、臨時夜間開館の対応を行っている。

【オンラインチケット(日付指定)】
1/29(水)販売分より、日付指定なしのオンラインチケットから、日付指定に変更とさせていただきます。
・オンラインチケットを購入済の方でも展示室入場に際して、混雑状況によってお待ちいただく場合がございます。入場優先チケットではありません。
・土日祝は大変混雑致します。平日のご来館を推奨します。

【臨時夜間開館】
3月の下記5日間、臨時夜間開館を実施致します(MOTコレクション展、MOTアニュアル展含む)。
実施日:3月7日(金)、14日(金)、21日(金)、28日(金)、29日(土)
開館時間:10:00-20:00(展示室入場は19:30まで)

レストラン「100本のスプーン」:11:00−20:00(ラストオーダー 19:00)
カフェ&ラウンジ「二階のサンドイッチ」:10:00−20:00(ラストオーダー 19:30)
ミュージアムショップ「NADiff contemporary」:10:00-20:00
坂本龍一展特設ショップ:10:00-20:00

「坂本龍一 | 音を視る 時を聴く」展の混雑対応による変更点についてのお知らせ
https://www.mot-art-museum.jp/news/2025/01/20250117144701/

作品紹介:坂本龍一+高谷史郎《TIME TIME》

本作は、2021年にホランド・フェスティバル(オランダ・アムステルダム)で初演されたシアターピース『TIME』を基に、新たに制作されたインスタレーションである。『TIME』では、坂本がアルバム『async』で探求した「非同期性」をさらに発展させ、「時間とは何か」という根源的な問いが、夢幻能という能の形式を用いて表現された。

本作のインスピレーション源として、夏目漱石の『夢十夜』や能の『邯鄲(かんたん)』、荘子の『胡蝶の夢』が挙げられる。一瞬と永遠、夢と現実、そして時間の概念そのものを問い直す試みがなされている。また、人間が圧倒的な自然の力に抗いながらも、最後にはそれに屈する姿が象徴的に描かれた。

本展示では、水という坂本にとって重要な要素が舞台として設えられ、高谷が撮影した富田まゆみの笙の演奏映像や、『TIME』に登場する「道を作る」「邯鄲」「夢+夜」といった3つの要素が三画面で構成されている。坂本の音楽がそれらの間を行き交い、始まりも終わりもない時空間が広がる。

坂本龍一+高谷史郎《water state 1》

本作は、坂本と高谷によるインスタレーション作品に繰り返し登場する「水」という要素に焦点を当てた作品である。水がその状態を変化させながら循環していく様子を、自然環境の縮図のように表現している。

展示室の中央には、一見すると鏡のように見える黒い水盤があり、その周囲には大きな石が配置されている。天井には気象衛星のデータを基にした装置が設置されており、展示空間の位置に応じた年間の水量データをもとに雨を降らせる仕組みが施される。また、水滴が水面に落ちることで生まれる波紋が音へと変換され、時間の経過とともに空間全体が変化していく。

水面に映る波紋は、時には海の表面のように見えたり、また時には雨粒が落ちる水たまりのようにも見える。鑑賞者はこの幻想的な空間の中で、自然のサイクルや水の持つ静寂と動きを直感的に感じ取ることができる。

坂本龍一 with 高谷史郎《IS YOUR TIME》

本作は、2011年の東日本大震災で津波被害を受けた宮城県農業高等学校のピアノを中心にした作品である。坂本はこのピアノを「自然によって調律されたピアノ」と捉え、作品化した。

展示室の奥には、水盤の上に静かにピアノが置かれ、その上に空を切り取るようなスクリーンが吊るされている。スクリーンには雪が舞う映像が映し出され、静謐な雰囲気が漂う。

2017年にNTTインターコミュニケーション・センターで発表された際には、坂本のアルバム『async』を中心とした音楽とともに、世界各地の地震データをもとにした演奏がスピーカーを通じて鳴り響いた。展示空間全体が音と光の立体的な移動を体験できる構成になっていた。2023年の成都での展示では、雪空の映像と水盤が追加された。本展では、坂本自身の意向により、余分な要素を削ぎ落とし、シンプルに被災したピアノの存在感に焦点を当てた展示となっている。

カールステン・ニコライ《PHOSPHENES》《ENDO EXO》

カールステン・ニコライは、視覚表現とサウンドを組み合わせた作品を制作するアーティストである。坂本とは2002年以降、さまざまなコラボレーションを行い、共同アルバムのリリースやライブツアーを実施してきた。

本展では、ニコライが長年構想してきた長編映画『20000』の一部が映像作品として公開される。それぞれの映像には、坂本の最後のアルバム『12』から「20210310」と「20220207」の楽曲が使用されている。

「PHOSPHENES(眼内光)」は、目を閉じた際に見える残像のような光を指す言葉である。本作では、坂本のシンセサイザーの音とニコライの抽象的な映像が交錯し、夢と現実、意識と無意識の境界を曖昧にするような表現がなされている。

一方、「ENDO EXO」では、ヨーロッパの博物館に所蔵されている剥製や脊椎動物の骨格標本が映し出され、坂本のピアノが静かに響く。タイトルにある「ENDO(内)」と「EXO(外)」は、秘められたものと明るみに出るものを対比させるコンセプトを表している。

坂本龍一+アピチャッポン・ウィーラセタクン《async - first light》《Durmiente》

本作は、タイの映画監督アピチャッポン・ウィーラセタクンと坂本龍一のコラボレーションによる映像作品である。坂本のアルバム『async』を自身にとって「私的な作品」と捉えたウィーラセタクンは、愛用する小型カメラ「デジタルハリネズミ」を親しい人々に渡し、彼らの日常風景を撮影させた。その映像は解像度が低く、温かみのある色合いを持ち、個々の記憶の断片が集積されたような印象を与える。

音楽との関係においては、ウィーラセタクンが坂本の音源をじっくり聴き込み、「disintegration」と「Life, Life」の2曲を選び、映像に組み合わせた。映像の編集では、シーンの断片が繰り返され、変化しながら徐々に次の曲へと移行していく構成がとられている。映像の終盤では、ウクライナの詩人アルセニー・タルコフスキーの詩が朗読される中、人々が眠りにつく様子が映し出される。この流れは、夢と現実、昼と夜、覚醒と眠りが交錯するような感覚をもたらし、観る者を瞑想的な状態へと導く。

《Durmiente》(スペイン語で「眠る人」)は、ウィーラセタクンの映画『メモリア』に関連した作品であり、《async - first light》と合わせて上映される。主人公の女性が静かに眠りにつく姿を描いたサイレント映像は、夢と現実の境界を曖昧にしながら、坂本の音楽が持つ時間の流れと共鳴する。ウィーラセタクンは、坂本の音楽を「初めて触れる自然界の音のようだ」と評し、「朝、目覚めた瞬間に目に映る最初の光やイメージのように心に刻まれる」と述べている。

本作は、坂本の音楽と映像が互いに干渉し合いながら、鑑賞者を意識と無意識の狭間へと誘う作品であり、時間や記憶、夢というテーマが繊細に織り込まれている。

坂本龍一+高谷史郎《async - immersion》

《async - immersion》は、坂本と高谷史郎が2017年に発表した《async - drowning》をはじめとする「async」シリーズの延長線上にある作品である。音楽を空間に立体的に設置する「設置音楽」という概念に基づいて制作された本作は、2023年にAMBIENT KYOTOで発表されたものを、東京都現代美術館の展示空間に合わせて再構成した大型インスタレーションである。

本作の空間に足を踏み入れると、14台のスピーカーから12.2チャンネルの高解像度な音響が流れ、鑑賞者は四方から音に包み込まれる感覚を味わうことができる。展示空間の正面には、長さ18メートルのLEDウォールが設置されており、高谷による映像がリアルタイムで生成される。映像には、坂本のニューヨークのスタジオにあったピアノや書籍、打楽器、庭の植木鉢など、彼の創作の場にあった物たちが登場する。

本作の映像表現は極めてユニークであり、静止画がスキャンされるように一列ずつ生成され、やがて全体像を成すが、その後、時間の経過とともに細い横線へと分解されていく。まるで音楽のリズムが可視化されたかのような映像演出は、坂本の音楽が持つ時間的な流れと緻密にシンクロしている。

《async - immersion》では、坂本のアルバム『async』から「fullmoon」や「Life, Life」の朗読が加えられ、音と映像が同期することなく独自のリズムを刻む。このインスタレーションは、坂本の音楽を単なる聴覚的体験に留めるのではなく、視覚的・空間的に拡張させ、まったく新しい形の音楽体験を提供する作品となっている。

坂本龍一+高谷史郎《LIFE-fluid, invisible, inaudible》/坂本龍一✕岩井俊雄《Music Plays Images X Images Play Music》

本展を通じて、坂本龍一が追求した音楽の本質、そして時間や空間に対する彼の独自のアプローチを深く体感することができた。特に印象的だったのは、音響や映像の難解さと、それを包み込む洗練された美しさのコントラストである。坂本の作品は、一般的な音楽の形式にとらわれず、視覚と聴覚、さらには空間そのものを用いて時間を描き出そうとするものであった。

展示空間に広がる音は、調和と不協和の境界を曖昧にし、リズムの有無さえも判断しにくいほど流動的だった。これによって、私たちは通常の音楽鑑賞では得られないような、聴覚と感覚を最大限に研ぎ澄ませた状態に導かれる。音は固定された形ではなく、空間に溶け込み、観る者自身の意識によって異なるものとして知覚される。このような作品に向き合うことで、音楽が単なるメロディやリズムではなく、知覚の中で変容する芸術であることを改めて実感した。

《TIME TIME》《water state 1》《IS YOUR TIME》などの作品では、時間や自然の流れと音楽が結びつき、視覚と聴覚の境界が曖昧になっていた。《PHOSPHENES》《ENDO EXO》や《async - first light》では、映像と音が交錯し、生と死、意識と無意識のはざまを漂うような感覚を味わえた。また、《LIFE-WELL TOKYO》では霧と音の相互作用による幻想的な空間が広がり、知覚の拡張が試みられていた。

そして最後に、坂本龍一✕岩井俊雄《Music Plays Images X Images Play Music》にて坂本のホログラム映像とともに響いた美しいピアノの旋律は、本展の締めくくりとして非常に象徴的であった。抽象的な作品を通して坂本の哲学に触れた後、音楽の根源的な美しさを改めて実感する瞬間となった。本展は、坂本龍一の音楽が持つ問いかけと、彼の芸術が今なお響き続けていることを強く感じさせるものであった。

坂本龍一 | 音を視る 時を聴く

会期:2024年12月21日(土)~2025年3月30日(日)

開館時間:10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
※3月7日(金)、14日(金)、21日(金)、28日(金)、29日(土)は20:00まで臨時夜間開館

休館日:月曜日(1月13日、2月24日は開館)、12月28日~1月1日、1月14日、2月25日

会場:東京都現代美術館 企画展示室 1F/B2F ほか

観覧料:一般2,400円(1,920円)/大学生・専門学校生・65 歳以上1,700円(1,360円)/中高生960円(760円)/小学生以下無料
※詳細は東京都現代美術館ウェブサイトをご参照ください。

東京都現代美術館ウェブサイト 坂本龍一 | 音を視る 時を聴く
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/RS/

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