「社内を下着姿で歩く」「女性社員へのセクハラ疑惑」渋谷店が〈売上世界一〉記録した人気ブランドの真実
ゼロ年代の象徴「アメアパ」の光と闇
2000年代に一世を風靡したブランド、<アメリカン・アパレル(American Apparel)>を記憶しているのはアラサー以上の世代になるだろうか。
通称<アメアパ>は「Ethically Made – Sweatshop Free(倫理的に製造、搾取なし)」を掲げ、アメリカ国内での生産と移民労働者への高賃金を特徴とするブランドとして注目を集めた。日本には2005年に初上陸し、代官山や渋谷、大阪・アメリカ村などに店舗を展開。とくに渋谷レディース館は2012年に世界一の売上を記録した店舗として話題になったほど、日本でも熱狂的なファン層を築いた。
しかし、その理想的なイメージの裏側には、創業者でありCEOだったドヴ・チャーニーによる職場環境の悪化やセクハラ・パワハラ疑惑が潜んでいた。
セクハラ、パワハラ、奇行が横行した異様な社風
Netflixで独占配信中の『とんでもカオス! American Apparelのカルト性』は、ブランドの急成長と崩壊の過程を、元従業員の証言や内部資料を通じて描いたドキュメンタリー。番組では、チャーニーが従業員に対して「morons(バカ)」とか「fool of the week(今週の愚か者)」といった侮辱的な言葉を使っていたことや、36時間連続勤務を強いられたという証言が紹介され、職場の過酷さが浮き彫りになる。
さらに、複数の元女性従業員がチャーニーによる性的嫌がらせを訴えている。2011年には5件のセクハラ訴訟が起こされたが、いずれも裁判所で棄却されるか、仲裁に回され、チャーニーが法的責任を問われることなかった。『とんでもカオス!』では、チャーニーが従業員と性的関係を持っていたことが「公然の秘密」だったと語る元従業員の証言や、彼が工場内を下着姿で歩いていた映像も紹介される。
しかしチャーニーは一貫してこれらの疑惑を否定しており、同番組に対しても「感情的に誇張された、長年否定されてきた主張を再演している」と代理人を通して反論。また、チャーニー自身は「工場労働者とは恋愛関係になったことはない」と主張しているものの、「クリエイティブな対等な立場の人とは関係を持ったことがある」と証言している。
渋谷店は売上世界一に! 問題のCEOは新ブランドで日本再上陸
アメアパは2010年代半ばから経営悪化が影響し、2014年に取締役会は「継続的な不正行為の調査」を理由にチャーニーを解任。その後ブランドは経営難に陥り2015年に破産申請、2017年に<Gildan Activewear>に買収された。
なお2016年には日本を含む海外店舗の閉鎖も決まり、渋谷・代官山・大阪の店舗も同年12月18日までにすべて閉店した。閉店前には「Back to Oldies」と題したイベントが開催され、ファンが詰めかけたことを覚えている人もいるかもしれない。
『とんでもカオス! American Apparelのカルト性』は、カリスマ性と混沌を併せ持つチャーニーの人物像と、若者たちが憧れたブランドの裏側に潜む“ファッション・カルト”の実態を暴き出している。倫理的な理念を掲げながらも、内部では“独裁者”さながらの権力の濫用、そして企業経営におけるあらゆる境界が曖昧になっていたことが、ブランドの崩壊につながったのだろう。
ちなみにチャーニーは<ロスアパ>こと新ブランド<Los Angeles Apparel>を立ち上げ、2019年には日本法人を設立し再び国内展開を試みている。この事件を知ると、今後ロスアパのスウェットシャツに袖を通すことにモヤりを感じるかも……?
Netflixドキュメンタリー『とんでもカオス! American Apparelのカルト性』独占配信中