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由良川の水害と闘ってきた京都・福知山。福知山市防災センターに聞いた「防災への備え」

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▲取材に対応してくださったのは、(左から)福知山消防署 予防課の清水さん、田辺さん、塩見さん。塩見さんは福知山消防署のOBとして防災センターの施設解説を行っている

“暴れ川”と呼ばれる由良川の氾濫と闘ってきた福知山

▲《福知山市防災センター》外観。過去の災害を振り返りながら、災害に対する危機意識や自助共助の重要性を再認識し、災害から命を守る方法を積極的に身につける施設として平成24(2012)年にオープンした

京都府北部の中丹地方に位置する福知山市は、“暴れ川”と呼ばれる由良川の中流部から下流部にあり、昔からたびたび大きな水害に見舞われてきた。最も古い洪水の記録は寛永12(1635)年で、江戸期だけでも106回。明治期には市街地が崩壊するほどの大洪水が2度発生し、本格的な由良川築堤工事が行われた。

しかし、堤防が整備された後の昭和28(1953)年9月にも想定規模を上回る大災害「二十八災」が発生。さらに平成16(2004)年10月には台風23号による大雨で由良川流域一帯に甚大な被害が生じるなど、福知山市民にとって水害は“常にすぐそこにある危機”だった。

こうした土地の歴史を受け、福知山市は「災害を忘れず、自主的に防災活動を推進する力を生み出すための施設」として《福知山市防災センター》を平成24(2012)年に開設。全国的にも珍しい消防本部・市民防災研修施設・災害対策施設の3つの機能を備えた体験型防災センターであることから、開業から12年が経過した今も見学に訪れる人が絶えないという。
福知山市は国土交通省の防災コンパクト先行モデル都市にもなっている。

令和7(2025)年も、いよいよ線状降水帯による集中豪雨や台風発生のシーズンに突入する。そこで今回《福知山市防災センター》を訪れ、福知山市に倣うべき防災への取り組みと備えについて話を聞いた。

▲JR「福知山」駅の南口ロータリーに降り立つと真正面に「しょうぼう」の文字が。海抜は約42m、市街地の中でも最も高い場所に位置しているため、万一の水害発生時には市民の緊急避難場所としても利用できる
▲取材に対応してくださったのは、(左から)福知山消防署 予防課の清水さん、田辺さん、塩見さん。塩見さんは福知山消防署のOBとして防災センターの施設解説を行っている

川の流れが悪い地形条件になっていることが水害の要因に

▲福知山市防災センターのオリジナルキャラクター「シュワット君」は消火器がモチーフになっている

「平成16年の台風23号による由良川氾濫時、下流の舞鶴市で観光バスが水没し、バスの屋根から観光客が救助されたニュースを記憶されている方も多いと思います。

あの水害を教訓として輪中堤や宅地のかさ上げなどが実施され、福知山消防本部も由良川から離れた高台へと移転したのですが、その後も平成25(2013)年9月、平成26(2014)年8月と連続して内水氾濫や土砂災害に見舞われました。

そのため毎年雨のシーズンがやってくると、私たち署員の間でも、いつにも増して緊張が走ります」と、清水さん。

実は福知山でたびたび大規模水害が発生するのは地形的理由がある。

「由良川の上流部は比較的勾配があって、川の水はスムーズに下流へと流れていくのですが、福知山市内の中流部では大きな2本の河川が合流します。さらに、日本海に近くなる下流部は勾配が非常に緩く、山が迫り、川幅が狭くなることから非常に水が溜まりやすい地形になっています。これが、これまで多くの水害に見舞われてきた要因となっているのです」

▲福知山はかの明智光秀ゆかりの地。由良川と土師川の合流地点に堤防を築き、福知山城を築城して城下町を整備した。現在も市役所をはじめとする行政関連施設は「お城通り」と呼ばれる福知山城周辺に集積しているが、度重なる水害を受けて消防本部は高台へと移転された※福知山市地図/福知山観光パンフレットより引用
▲消防本部と防災公園を併設した《福知山市防災センター》の模型。市内全小学3年生の社会見学のほか、幼稚園の園児、老人ホームのお年寄り、自治体関係者の団体視察など、連日のように見学者が訪れている(火曜日定休/10名以上は要予約)

過去の水害を教訓として“防災を楽しく学ぶ”体験型展示が評判

▲防災センターでは①災害の体感→②防災対策体験→③日頃の防災活動へとつなげるための展示が行われている。「防災行政無線には全国共通のパターンがあって、高齢者避難の場合は10秒鳴って15秒休む、避難指示の場合は10秒鳴って5秒休む、災害発生時には1分間鳴り続ける…とサイレンの鳴り方が決まっています。このサイレンの違いについても実際に体験していただけます」

福知山市が今も教訓としている台風23号災害では、災害対策本部から避難勧告や避難指示が出されても多くの市民が自宅にとどまり、実際に避難したのは指示世帯のわずか8.59%だった。そこで「市民の危機意識を高めたい」との思いから設立されたのが《福知山市防災センター》だ。

同センターでは、パネル展示だけでなく多彩な体験型施設が揃っているため、見学者からは「実際に体験して防災への意識が大きく変わった」との声が聞かれる。

例えば、見学コースの最初に登場する「防災シアター」では、水害の歴史を振り返る映像に合わせてシートが地響きのように振動する仕組みになっており、豪雨や洪水の恐ろしさをリアルに体感できるほか、台風23号災害で多くの車が市内各所の冠水道路に進入し、車内から脱出できなくなった経験を受けて「水圧体験車」を展示。水圧がかかった車のドアを押し開けることが“いかに大変か?”を実体験できる。

「水害対策を中心に地震対策・火災対策の3つのコーナーに分けて展示を行っており、見学コースの所要時間は約1時間30分です。また、こちらのセンターには福知山消防署が併設されておりますので、消防士の装備や訓練の様子、消防車や救急車の見学も行っていただけます。

特に小学生の男の子たちは、消防車をすぐ近くで見ることができるので“楽しかった、また見学に来たい!”と喜んで帰っていく子が多いですね(笑)。防災について楽しく学んでいただくというのもこのセンターの狙いです」と塩見さん。

▲本格的な振動装置を備えたシアター。上映時間約10分の映像の中では過去の福知山の水害を振り返りながら、防災センターのキャラクター、シュワット君・シュワ子ちゃんと共に災害に対する「自助力」と「共助力」について考えることができる
▲冠水した道路で水かさが増すにつれて「どれぐらいドアが重くなるか?」を体験できる水圧体験車。「車が半分以上水に浸かってしまったら、大人の男性の力でもドアを簡単に開けることはできません。仮にドアを開けることができたとしても、そこから水が入ってきますから相当な恐怖です。ドアが開かない場合に備え、先の尖ったハンマーなどを車内に用意しておくこと。尖ったモノがない場合は、シートのヘッドレストを引き抜いて金属の部分を使ってガラスを打ち割ってください」と塩見さん。この体験を咄嗟に思い出せるかどうか?で災害時の避難行動が大きく変わってくる

大雨と地震では避難行動が異なることは、意外に知られていない

▲水害への備えとして日頃から用意しておきたいもの。大地震の発生を想定した非常用持ち出し袋では、数日分の非常食や飲料水の用意が基本とされているが、水害の場合は極力身軽な状態で避難することが望ましい

各展示を体験させてもらったが、改めて痛感したのは「避難行動に関する思い違い」だ。
特に「大雨」と「地震」では災害時に取るべき行動が大きく異なる。

仮に、集中豪雨による氾濫危険情報が出て、警戒レベル4の「避難指示」が発令されたとする──そのとき、皆さんはどんな靴を履いて家から避難するだろうか?この場合「長靴」をイメージする人も多いと思うが、実はそれは間違いだ。

「長靴の中に水が入ると動きが抑制されてしまうので、大雨のときの避難行動には適しません。ビーチサンダルも同じです。意外かもしれませんが、しっかりと紐を締めて固定でき、足を守ることができるスニーカーのような靴のほうが良いですね。

また、地震への備えとして日頃から非常用持ち出し袋を用意しているご家庭も多いと思います。もちろん、それを持ち出すことができれば良いのですが、大雨の中では側溝が水没して見えなくなっていることも多く、竿のようなものを持って足元を一歩一歩確認しながら避難しなくてはいけませんし、夜間になると懐中電灯を持ちながらの移動で両手が塞がってしまいますから、極力身軽な状態で避難したほうが安全です。さらに、暴風雨の中では傘をさして移動することも困難になるため、レインウェアでの避難を推奨しています」と清水さんは話す。

清水さんによると、防災への備えとして私たちが日頃から心がけるべきことは以下の3つだ。

① 避難用の物品を準備しておくこと
特に水害への備えとしては、レインウェア、懐中電灯、竿(杖)、軍手などが必要。飲料水や非常食を持参することは難しいので、常備薬など本当に必要なものだけを小さなリュックにまとめておくと良い。また、アルミシートがあると雨に濡れて冷えた身体を暖めることができるほか、避難所で毛布代わりに使えるため便利。

② 指定緊急避難場所や地域の避難所をハザードマップで確認しておくこと
避難所の中にも、大雨のときは避難できない場所や土砂災害の恐れがある場所があり、ハザードマップに明示されている。水害のとき、地震のとき、それぞれどこへ避難すれば良いかを確認しておくこと。また、避難所までの道のりにも危険な場所があるため、水害と地震のパターンで視点を変えながら避難経路を見ておくと良い。

③早め早めの行動を心がけること
台風や大雨は、地震と違って事前にある程度の予測ができる災害。避難する前にどれだけの準備ができているか?が本当の防災行動となるため、上記①②の準備に加えて避難指示が出たら直ちに避難を行うなど、早めの行動を心がけること。

▲こちらは消火体験コーナー。オフィスや家庭に消火器は備えてあっても、意外に「使ったことがない」という方も多いのでは?「消火器は初期消火の一番有効な手段です。火災のときの鉄則は3つ。まずは大きな声で早く知らせること。次に早く消すこと。そして、自分で消火できないと判断した場合は早く逃げること。ちなみに、消火器は安全栓を抜いて、ホースの先を持ち、狙いを定めて噴射します。このとき、炎の上ではなく下の火元部分に向かって噴射しないと火はなかなか消えません」(塩見さん談)
▲見学者から“想像以上に怖かった”と反響があるという「煙体験室」。筆者も田辺さんの先導で体験してみたが、煙の中で口を覆いながら中腰になって移動すると、方向感覚を失ってしまう。「こちらの体験室では人体に無害な煙を使っていますが、実際の現場では真っ黒な煙がたちこめるので、前がまったく見えなくなりパニックに陥ります。万一火災に遭ったらとにかく“横移動”が鉄則。腰を低くして、濡れたハンカチなどで口を覆い、壁づたいに移動してください」(田辺さん談)

官民一体となった減災への取り組みは地域価値を守ることにつながる

▲消防車、はしご車、指揮車、救急車など消防署の緊急車両がズラリ。消防署内や消防士の仕事について見学できる点も子どもたちに好評だ

「防災センター内には、消防署、訓練棟、ヘリポートのほか、一般市民の方も利用できる防災公園を併設しています。

防災公園は近所のお子さんたちの遊び場になっていますが、非常時にはかまどベンチやマンホールトイレが使える緊急避難場所に早変わりします。

このように防災センターを気軽に利用していただき、実際に体験していただいて、ご家族やお友達にもその体験談を伝えてほしい。そして、万一災害に遭ったときの行動を日ごろからイメージすることで自助能力を高め、実際の避難行動に生かしてほしい──これが私たち福知山消防署員の願いであり、防災センターの役目だと考えています」(清水さん談)

▲防災公園内には、災害時の炊き出しに使える「かまどベンチ」や「マンホールトイレ」「仮設テント」のほか、河川氾濫時に袋詰めして「土嚢」として使うための広大な砂場も用意されている。一見すると穏やかな高台の公園だが、様々な機能が設けられている

気象庁の統計によると、1時間あたりの降水量が100mmを超える集中豪雨の全国平均日数は、この10年間で約1.8倍に急増。福知山の水害の歴史はもはや他人事ではない。

こうして平常時から災害への備えを呼びかけ、行政・消防だけでなく市民一人ひとりが危機管理意識を高め、減災への取り組みを行うことは、将来的な「地域価値」を守ることにもつながっていくはずだ。福知山市防災センターの「早め早めの取り組み」をお手本として、私たちも防災への心構えを新たにしたいものだ。

■取材協力/福知山市防災センター
京都府福知山市東羽合町46-1
電話番号/0773-23-5119
https://www.city.fukuchiyama.lg.jp/site/syoubou/16969.html

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