由良川の水害と闘ってきた京都・福知山。福知山市防災センターに聞いた「防災への備え」
“暴れ川”と呼ばれる由良川の氾濫と闘ってきた福知山
京都府北部の中丹地方に位置する福知山市は、“暴れ川”と呼ばれる由良川の中流部から下流部にあり、昔からたびたび大きな水害に見舞われてきた。最も古い洪水の記録は寛永12(1635)年で、江戸期だけでも106回。明治期には市街地が崩壊するほどの大洪水が2度発生し、本格的な由良川築堤工事が行われた。
しかし、堤防が整備された後の昭和28(1953)年9月にも想定規模を上回る大災害「二十八災」が発生。さらに平成16(2004)年10月には台風23号による大雨で由良川流域一帯に甚大な被害が生じるなど、福知山市民にとって水害は“常にすぐそこにある危機”だった。
こうした土地の歴史を受け、福知山市は「災害を忘れず、自主的に防災活動を推進する力を生み出すための施設」として《福知山市防災センター》を平成24(2012)年に開設。全国的にも珍しい消防本部・市民防災研修施設・災害対策施設の3つの機能を備えた体験型防災センターであることから、開業から12年が経過した今も見学に訪れる人が絶えないという。
福知山市は国土交通省の防災コンパクト先行モデル都市にもなっている。
令和7(2025)年も、いよいよ線状降水帯による集中豪雨や台風発生のシーズンに突入する。そこで今回《福知山市防災センター》を訪れ、福知山市に倣うべき防災への取り組みと備えについて話を聞いた。
川の流れが悪い地形条件になっていることが水害の要因に
「平成16年の台風23号による由良川氾濫時、下流の舞鶴市で観光バスが水没し、バスの屋根から観光客が救助されたニュースを記憶されている方も多いと思います。
あの水害を教訓として輪中堤や宅地のかさ上げなどが実施され、福知山消防本部も由良川から離れた高台へと移転したのですが、その後も平成25(2013)年9月、平成26(2014)年8月と連続して内水氾濫や土砂災害に見舞われました。
そのため毎年雨のシーズンがやってくると、私たち署員の間でも、いつにも増して緊張が走ります」と、清水さん。
実は福知山でたびたび大規模水害が発生するのは地形的理由がある。
「由良川の上流部は比較的勾配があって、川の水はスムーズに下流へと流れていくのですが、福知山市内の中流部では大きな2本の河川が合流します。さらに、日本海に近くなる下流部は勾配が非常に緩く、山が迫り、川幅が狭くなることから非常に水が溜まりやすい地形になっています。これが、これまで多くの水害に見舞われてきた要因となっているのです」
過去の水害を教訓として“防災を楽しく学ぶ”体験型展示が評判
福知山市が今も教訓としている台風23号災害では、災害対策本部から避難勧告や避難指示が出されても多くの市民が自宅にとどまり、実際に避難したのは指示世帯のわずか8.59%だった。そこで「市民の危機意識を高めたい」との思いから設立されたのが《福知山市防災センター》だ。
同センターでは、パネル展示だけでなく多彩な体験型施設が揃っているため、見学者からは「実際に体験して防災への意識が大きく変わった」との声が聞かれる。
例えば、見学コースの最初に登場する「防災シアター」では、水害の歴史を振り返る映像に合わせてシートが地響きのように振動する仕組みになっており、豪雨や洪水の恐ろしさをリアルに体感できるほか、台風23号災害で多くの車が市内各所の冠水道路に進入し、車内から脱出できなくなった経験を受けて「水圧体験車」を展示。水圧がかかった車のドアを押し開けることが“いかに大変か?”を実体験できる。
「水害対策を中心に地震対策・火災対策の3つのコーナーに分けて展示を行っており、見学コースの所要時間は約1時間30分です。また、こちらのセンターには福知山消防署が併設されておりますので、消防士の装備や訓練の様子、消防車や救急車の見学も行っていただけます。
特に小学生の男の子たちは、消防車をすぐ近くで見ることができるので“楽しかった、また見学に来たい!”と喜んで帰っていく子が多いですね(笑)。防災について楽しく学んでいただくというのもこのセンターの狙いです」と塩見さん。
大雨と地震では避難行動が異なることは、意外に知られていない
各展示を体験させてもらったが、改めて痛感したのは「避難行動に関する思い違い」だ。
特に「大雨」と「地震」では災害時に取るべき行動が大きく異なる。
仮に、集中豪雨による氾濫危険情報が出て、警戒レベル4の「避難指示」が発令されたとする──そのとき、皆さんはどんな靴を履いて家から避難するだろうか?この場合「長靴」をイメージする人も多いと思うが、実はそれは間違いだ。
「長靴の中に水が入ると動きが抑制されてしまうので、大雨のときの避難行動には適しません。ビーチサンダルも同じです。意外かもしれませんが、しっかりと紐を締めて固定でき、足を守ることができるスニーカーのような靴のほうが良いですね。
また、地震への備えとして日頃から非常用持ち出し袋を用意しているご家庭も多いと思います。もちろん、それを持ち出すことができれば良いのですが、大雨の中では側溝が水没して見えなくなっていることも多く、竿のようなものを持って足元を一歩一歩確認しながら避難しなくてはいけませんし、夜間になると懐中電灯を持ちながらの移動で両手が塞がってしまいますから、極力身軽な状態で避難したほうが安全です。さらに、暴風雨の中では傘をさして移動することも困難になるため、レインウェアでの避難を推奨しています」と清水さんは話す。
清水さんによると、防災への備えとして私たちが日頃から心がけるべきことは以下の3つだ。
① 避難用の物品を準備しておくこと
特に水害への備えとしては、レインウェア、懐中電灯、竿(杖)、軍手などが必要。飲料水や非常食を持参することは難しいので、常備薬など本当に必要なものだけを小さなリュックにまとめておくと良い。また、アルミシートがあると雨に濡れて冷えた身体を暖めることができるほか、避難所で毛布代わりに使えるため便利。
② 指定緊急避難場所や地域の避難所をハザードマップで確認しておくこと
避難所の中にも、大雨のときは避難できない場所や土砂災害の恐れがある場所があり、ハザードマップに明示されている。水害のとき、地震のとき、それぞれどこへ避難すれば良いかを確認しておくこと。また、避難所までの道のりにも危険な場所があるため、水害と地震のパターンで視点を変えながら避難経路を見ておくと良い。
③早め早めの行動を心がけること
台風や大雨は、地震と違って事前にある程度の予測ができる災害。避難する前にどれだけの準備ができているか?が本当の防災行動となるため、上記①②の準備に加えて避難指示が出たら直ちに避難を行うなど、早めの行動を心がけること。
官民一体となった減災への取り組みは地域価値を守ることにつながる
「防災センター内には、消防署、訓練棟、ヘリポートのほか、一般市民の方も利用できる防災公園を併設しています。
防災公園は近所のお子さんたちの遊び場になっていますが、非常時にはかまどベンチやマンホールトイレが使える緊急避難場所に早変わりします。
このように防災センターを気軽に利用していただき、実際に体験していただいて、ご家族やお友達にもその体験談を伝えてほしい。そして、万一災害に遭ったときの行動を日ごろからイメージすることで自助能力を高め、実際の避難行動に生かしてほしい──これが私たち福知山消防署員の願いであり、防災センターの役目だと考えています」(清水さん談)
気象庁の統計によると、1時間あたりの降水量が100mmを超える集中豪雨の全国平均日数は、この10年間で約1.8倍に急増。福知山の水害の歴史はもはや他人事ではない。
こうして平常時から災害への備えを呼びかけ、行政・消防だけでなく市民一人ひとりが危機管理意識を高め、減災への取り組みを行うことは、将来的な「地域価値」を守ることにもつながっていくはずだ。福知山市防災センターの「早め早めの取り組み」をお手本として、私たちも防災への心構えを新たにしたいものだ。
■取材協力/福知山市防災センター
京都府福知山市東羽合町46-1
電話番号/0773-23-5119
https://www.city.fukuchiyama.lg.jp/site/syoubou/16969.html