20世紀クィアの歴史を振り返るエロティックアート展が渋谷で開催中
トム・オブ・フィンランド財団設立40周年を祝した特別展「FORTY YEARS OF PRIDE」が、渋谷の「ディーゼル アートギャラリー(DIESEL ART GALLERY)」で2024年8月14日(水)まで開催中だ。
「ゲイアートの先駆者」と知られるトム・オブ・フィンランド(Tom of Finland) は、第二次世界大戦後の1957年にアメリカのゲイ雑誌の表紙を飾ったことから評判を呼び、現在のLGBTQ+ムーブメントにつながるゲイ解放運動に大きな影響を与えたアーティストである。
まだセクシャルマイノリティへの偏見と差別が強烈だった時代に、トムの描く官能的で筋肉質なゲイ男性たちの開放的な雰囲気で性を謳歌(おうか)する姿は、当時の人々に勇気と自己表現の重要性を気づかせ、多分野のアーティストたちにも影響を与えた。
イギリスのロックバンド「QUEEN」のフレディ・マーキュリーをはじめ、ポップアートの旗手、画家・版画家のアンディ・ウォーホル、ジャン=ポール・ゴルチエ、トム・フォードなど。漫画家でゲイ・エロティックアーティストの田亀源五郎も影響を受けた一人。「FORTY YEARS OF PRIDE」ではトムの象徴的作品が数多く展示されており、さまざまな文化の源泉を感じることができるはず。
日本初披露のVRでまるでロサンゼルスに旅気分
注目は日本初公開となるVR作品「TOM House the VR Experience」だ。トムが晩年過ごしたロサンゼルスの住居「トムハウス」の中を巡りつつ、交流のあった人々との写真や作品に触れられる。
館内にあるVRゴーグルを使って体験できる本作は、コントローラーの操作で、部屋を移動しながら、各室内で写真や作品、未完成のドローイングを鑑賞しつつ、解説を聞くことができる。まるで、実際に見学しているような感覚になるだろう。
展示はトム・オブ・フィンランド作品がいかに20世紀のプライドシーンに影響を与えたかが軸となっている。それは、トムの作品を管理するトム・オブ・フィンランド財団のエロティックアートに対する真摯(しんし)な思いからだ。
新しいゲイ男性像が社会変革の原動力に
この展覧会は、トム・オブ・フィンランド財団が「The 2024 Diesel x Tom of Finland Foundation Pride」と題し、ドイツのベルリン、アメリカのニューヨーク、フィンランドのヘルシンキで行ってきた、多様なイベントの一環として開かれている。
財団は、トムの作品の管理だけでなく、世界のエロティックアートの収集や次世代アーティストの育成を行うが、それはエロティックアートが、人々が「プライド」を持つ上で、大きな意味があるとの思いからである。
トムとともに同財団を創設したダーク・デイナーによれば、「何百年もの間、社会から容認されていない関係を持ってきた」性的少数者にとって、エロティックアーティストは、思いを体現する「シャーマンであり、精神的なガイド」だ。その作品はありのままの自分でいいと思わせてくれる尊厳・プライドを取り戻すアイコンであり、誇りを感じられる空間を作り出すものと捉えているという。
実際、同性愛が違法であった時代にトムが描いたエロティックファンタジーは、当時の社会やゲイ男性自身に、開放的で新しいゲイ男性像を与えた。そして抑圧を払拭(ふっしょく)し、自由を獲得するためのアイコンとして大きな役割を果たしてきた。この展覧会では、そんなアートと社会の関係を体感できるはずだ。
「ディーゼル アートギャラリーでの展示は、自分たちが何者であるか、そして自分たちの文化に誇りを持っていることを表明し、祝福するものです」。そう話すデイナーは「日本のクィアたちは、過去のエロティックアーティストや、現在作品を作っているアーティストを知り、彼らをサポートする必要がある」とも語った。
会場では、トム・オブ・フィンランド財団とディーゼルのコラボレーションによるプライドコレクションもあり、アートを身に着けて楽しむこともできる。
2024年は「東京レインボープライド」も30年の節目の年でもある。トム・オブ・フィンランド作品に触れながら、ぜひプライドシーンの歴史を振り返ってみてほしい。
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