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「黒歴史」の語源は、機動戦士ガンダム放送20周年アニメ作品『∀(ターンエー)ガンダム』だった!?

アットエス

SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回は『∀ガンダム』から出てきた「黒歴史」についてお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん

「黒歴史」…きっかけになったアニメはこれ

黒歴史という言葉が初めて使われたのは、1999年に放送が始まった、機動戦士ガンダム放送20周年作品の『∀(ターンエー)ガンダム』というアニメ作品です。

これまで富野由悠季監督が手掛けた『ガンダム』作品は、ずっと「宇宙世紀」という世界を舞台にしてきましたが、『∀ガンダム』は遠い未来という設定です。かつての戦乱の時代は終わり、地球では文明がリセットされ、新たな文明が発生してからもうだいぶ長い時間が経っているという状態。物語が始まった時点で人類の文明レベルは、飛行機がようやく出てくるような、19世紀後半から20世紀初頭ぐらいの水準です。

人々は、かつての戦乱の歴史は伝え聞いているけど、神話や伝説の類のように受け止めていて、くわしいことはよくわからないという状態。この「封印された戦乱の歴史」を指すのが「黒歴史」という言葉です。

人類が「封印された歴史」を持っているというのは富野監督の考えたアイデアのひとつです。ちょうど企画時、富野監督は『平気でうそをつく人たち:虚偽と邪悪の心理学』という、嘘をつく人の心理を追った本を読んでいたそうです。そこには、個人がウソをつくだけでなく、組織・集団も何か嫌なことがあったときに、その出来事を封印して組織として忘却しようとする、なかったことにしてしまうということが指摘されていました。

富野監督は、組織においてそういうことが起こるのであれば、人類や文明においても同じように起こるのではないかと想像を広げたわけです。

そして過去の戦乱という人類における過ちが、ある種の形で封印されて、それを黒歴史という名前でひとくくりにされることで、過ちを直視しないまま時代が経ってしまった。その結果、現代に生きる人々は過去の歴史を知らないで生きているという設定を組み立てたわけです。

『∀ガンダム』は、全ての『ガンダム』作品を肯定するというコンセプトの作品です。なので過去の『ガンダム』に関する事物ががすべて、「黒歴史」として大地の中で眠っているとされています。

これはすべての作品がひとつながりの歴史であるとリアルに考えるというよりは、これまで『ガンダム』シリーズが作られてきたその積み重ねを、「過去の歴史」として扱っているというイメージです。そして過去の戦争で使われていたモビルスーツなどが眠っている場所は、マウンテン・サイクルと呼ばれ、地球上の各地にあることになっています。

富野監督は『∀ガンダム』のテーマを「巡ること」と決めていたので、生まれて死ぬという命のサイクル、四季の巡りという1年間の季節のサイクル、一つの文明が起きて滅んでまた新しい文明が起きるというさらに大きなサイクル、その辺りの思いを込めて、過去の歴史が埋まっている場所がマウンテン・サイクルと呼ばれているわけです。

つまり『∀ガンダム』では、嫌なことを封印して忘れるだけではなく、そういうことを何度も繰り返しながら、文明は続いていくのだということを表しています。

作中では、「黒歴史」をただ見ないことだけにしてるわけにはいかず、「黒歴史」の真相が明らかになるというエピソードも登場します。地球から移住して月に長く暮らしている「ムーンレイス」と呼ばれる人々は、「冬の宮殿」という施設を持っていて、ここに「黒歴史」が封印されているのです。

「黒歴史」のデータを見ることは、人類の闘争本能を刺激し、また戦争を行うようになってしまうため、封印を解くことは禁忌となっています。しかしついに、その封印が解かれる瞬間が出てきます。そこでさまざまな映像が出てくるのですが、ここで過去の『ガンダム』シリーズの映像が使われています。ここで、全てのガンダムを肯定する、というコンセプトが映像としてはっきり示されたわけです。

以上、今回は『∀ガンダム』の黒歴史が、どういうアイデアで生まれ、どういう風に作品で使われたかということをお話しました。

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