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【やまとさんの湯湯自適の記】#4 久乃家(富山市水橋地区)連載とやまのおふろ

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【やまとさんの湯湯自適の記】#4 久乃家(富山市水橋地区)連載とやまのおふろ

この連載は、富山県公衆浴場業生活衛生同業組合が行ったスタンプラリーで全45軒を制覇し、「富山銭湯マイスター」の称号を手にした会社員「やまとさん」が、日々の銭湯めぐりや強く惹かれた入浴体験をつづる不定期連載のコラムです。

#4 久乃家

ようやく残暑も落ち着きを見せ始めた日だった。昨日までとは違う、いくらか涼しい風を感じながら、帰る方向とは真逆の東方向に車を走らせることにした。夏の陽気や興奮をまだ宿している浜黒崎キャンプ場を過ぎ、常願寺川を渡る。夜の富山湾を眺めながらたどり着いたのは、この日の目的地、富山市水橋地区にある「久乃家」だ。

前回訪れた「鯰温泉」と同様、ここ久乃家も地元でとれる新鮮な魚料理が味わえる旅館。そして、やはり日帰り温泉を楽しむこともできる。


鯰温泉は赤褐色の見た目に熱めの温度、鉄っぽい匂いの「鉄泉湯」が象徴的だったが、久乃家の湯はまるで対極。やさしい湯ざわりの準天然・光明石温泉で、湯は白濁としている。まるで入浴剤を入れたかのような湯の正体は、超微細なマイクロバブル。

「浸かるだけで全身エステ」「つるつる素肌の湯」を謳う湯に、身体が浄化されていく気分だ。


そしてもうひとつ、久乃家の名物といえるのが、ミストサウナである。古くから営業するこの手の浴場は、昔ながらのストロングスタイルなドライサウナを備えていることが多いのだが、ここでも鯰温泉とは対極、久乃家はアロマの香りを漂わせるミストサウナなのだ。

全身に細かいミストと芳香をまといながら、ゆとりをもって並ぶ3脚の椅子のひとつに腰を下ろす。サウナ室の中に時計は、ない。じっくり、自分と向き合おうじゃないか。

 

ーーー


しかし、どこか懐かしい、やさしい香りのアロマだ。どこかで嗅いだことのある香り……記憶を辿って、辿って、その果てでそれを「仏壇の匂い」としか表現できないのは、己の語彙力のなさを恨むしかない。


何分ほど経っただろうか。もはや身体をまとうそれが汗なのかミストなのかもわからない。ぬぐい切れない、空間に溺れるような頃合いに、ドアを開けた。体にまとわりつく水気を流し、ぴったりおひとりさまサイズの水風呂に浸かる。冷たすぎない水温が、ミストサウナ明けの身体にちょうどいい。


身体をひと通り拭き、内気浴用の椅子に座ると、ゆっくりと、それでいてしっかりと、身体全体が脈打っていく。タイミングに恵まれ、自分と、後から来たお客さんとのふたりしかいない落ち着いた空間も、ととのいの要素となる。

 

ーーー

 

やはり、久乃家は違う。

 

実は、「ミストサウナはサウナにあらず」と思っている時期があった。恥を承知で告白すれば、「ミストサウナではととのうことはできない」とさえ思っていた。だが、久乃家でその固定観念が見事に壊された。アロマの効果か、ミストの質か、あるいはミストサウナにしては少し高めの温度によるものなのかはわからないが、とにかくここのミストサウナは、やみつきになるものがある。


やがて、もうひとり、お客さんがやってきた。


「あぁ、どうもどうも」
「やっとちょっこ涼しなったねぇ」
「いやぁ、まだまだ暑いちゃ」


顔見知りなのだろうか、話が弾む。
地域の銭湯に行くたび、こういった地元の住民同士のコミュニケーションには心和むものがある。そして、つくづくいいなぁと思う。と同時に、自らのアウェイ感に、ちょっとだけ寂しいような気にもなる。小さいころから校区外の中学校や県外の高校に通うなどして、「地元」というものに縁遠かった自らの出自も、多少影響しているかもしれない。


「いいさ、俺は孤独の銭湯マイスター」


心の中で強がってみせながら、霧中でもう1セットをキメることにした。

【久乃家】
住所 富山県富山市水橋山王町1605
営業時間 日帰り湯 12:30~21:00(21:30閉館)
定休日 火曜、不定休あり

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