橋野鉄鉱山含む「明治日本の産業革命遺産」とは? 世界遺産登録10周年を前に市立図書館で講座
釜石市の橋野鉄鉱山を含む「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」(8県11市23資産)は来年、世界遺産登録から10周年を迎える。これを前に同遺産の内容を学ぶ講座が1日、釜石市立図書館で開かれた。「鉄の記念日」に合わせた市民教養講座として同館が企画。同市世界遺産室の森一欽室長が講師を務め、市民ら20人が聴講した。
日本における製鉄・製鋼、造船、石炭産業の急速な発展(1850年代~1910年)を物語る遺構が「顕著な普遍的価値」を有するとして、世界遺産に登録された同遺産。日本の産業革命は非西洋地域では初めて、さらには約60年という短期間で達成されたことから「東洋の奇跡」とも呼ばれる(英産業革命は200年を要した)。
「日本の産業革命はその過程が独特」と森室長。1857(安政4)年、釜石・大橋で日本初の洋式高炉による連続出銑に成功した大島高任は、現物を見ずして蘭学書を頼りに高炉建設を実現した。試行錯誤の挑戦は世界遺産の鹿児島(旧集成館)、韮山、萩の反射炉建設でも象徴される。後に外国人技術者の招へいや留学から戻った日本人の活躍で、長崎、三池の造船、石炭産業を中心に西洋の科学技術導入が進む。明治末期までに官営八幡製鉄所が軌道に乗り、三菱長崎造船所や端島炭鉱(長崎)、三池炭鉱(福岡)の近代化で日本の産業基盤が確立されていった。
世界遺産の構成資産以外にも重工業の産業革命に関連する資産は数多くあるものの、登録には「完全性」と「真実性」が求められるため、「“本物”が残っていないものは世界遺産にはならない」と森室長。近代製鉄発祥の地とされる釜石でも、最初に操業に成功した大橋の高炉は現物が残っていないため、翌年から稼働した橋野鉄鉱山(国内現存最古の洋式高炉がある)が世界遺産になったことを明かした。
森室長は3分野の資産の相関図も示した。製鉄・製鋼の分野では、釜石(大橋、橋野)で成功した鉄鉱石を原料、木炭を燃料とした連続出銑、官営釜石製鉄所の失敗、釜石鉱山田中製鉄所のコークス燃料での大量生産実現が、後の官営八幡製鉄所(銑鋼一貫)の成功につながっていった歴史を紹介。八幡製鉄所の高炉建設では大島高任の息子、道太郎が技監を務め、釜石の田中製鉄所から技術者や熟練労働者が派遣された。八幡ではドイツの最新技術が導入されたものの相次ぐトラブルで操業停止に追い込まれ、高炉の改良や本格的なコークス炉の導入で操業を可能にしたのは、釜石でコークス操業技術を確立した野呂景義の尽力によるものだった。
森室長は全国8エリアに分類される各地の構成資産についても説明した。釜石と他地域の資産とはつながりも多く、韮山のれんがが釜石の官営製鉄所で使われたり、釜石で作られた鉄が長崎で造船の原料になったり、釜石で採掘された銅の精錬に三池の石炭が使われていたり…。あまり知りえない話に聴講者は興味をそそられながら聞き入った。
市立図書館では1日から「鉄の記念日図書展」も開催中。ユネスコに提出した「明治日本の産業革命遺産」世界遺産推薦書の原本のほか、釜石の鉄の歴史に関する著作、鉄がどうやってできるかを記したものなど、さまざまな視点の鉄に関する本が並ぶ。ほとんどが貸し出し可能。川畑広恵館長は「釜石のものづくりの精神が世界遺産に結実したのが10年前。身内が製鉄業に携わっていたという方も多いと思う。普段、手が出ない分野という方もこの機会に手に取っていただき、理解を深めてもらえれば」と来館を呼び掛ける。図書展は15日まで開催されている。