全国一斉<ウニの発生体験>に参加してみた 試行錯誤しながら海の生態系を学ぶ
高級食材のウニが今、一部地域では「嫌われ者」と化しているらしい。
海流の変化や気候変動により、海水温も徐々に上昇し、ウニの活動が活発になっているのだそう。すると当然、ウニの発生率が増える。
ウニが増えればエサである海藻たちが減っていく。仕方なくウニ達は駆除されている。
そんなウニの受精体験が家庭でもできると聞いて、参加することに。海の生態系を学ぶ機会として、ウニの受精実験に挑戦した。
果たして、そんなに簡単にウニは誕生するのだろうか。
全国一斉ウニの発生体験に参加してみた
今回「【海と日本PROJECT】全国一斉ウニの発生体験」の機会を得てウニの受精に挑んだ。
これは、お茶の水女子大学湾岸生物教育研究所から全国各地にウニの受精実験教材を一斉発送し、利用者同士をオンラインで繋いで一体感を持ちながら海を学んでもらうイベントである。
バフンウニの卵と精子が冷蔵にて送付される。海水や実験器具もセットになっているので、自宅では顕微鏡だけを用意すればよい。
実験の成功だけでなく、その過程で何が起こるのかを観察し、学びを深めたいと考えた。
ウニの受精は緻密な手順が求められるため、一つひとつの工程が重要になる。その積み重ねが、この体験をより価値のあるものにすると感じた。
クール便で届けられた実験キットには、ウニの未受精卵と精子、海水などが含まれており、本来はこの中にある珪藻をすぐに培養する必要があった。珪藻とは、ウニのエサとなる植物性プランクトンの一種である。
受精キットが届いてすぐに培養を開始することができず、結果として数日遅れてしまった。
変化のない<珪藻培養液> 日光培養に切り替え
オンライン説明会の日には、珪藻培養液が茶色に変化しているはずなのだが、まったく変化が見られない。
事情があり、オンライン説明会は後からアーカイブ配信を見ることになったのも、変化の遅れに拍車をかけてしまったようだ。
やっと時間ができて、アーカイブ配信を見たところ、そこでは蛍光灯の使用を推奨していた。しかし我が家では、インテリア照明を使用していたのが良くなかったかもしれない。
このとき、すでに2月21日、未受精卵と精子が届いてから10日近くが経っていた。
慌てて自然光を利用した培養への切り替えることに。これが停滞していた状況を好転させるきっかけとなったと思われた。
珪藻培養に適した水温は13~14度と言われているため、直射日光だと水温が上がりすぎてしまう。南向きの窓は外側に紫外線防止フィルムを張っているので直射日光にはならず、水温も適温を保つことができたようだ。
「巻き返す可能性はある」
本気になった息子はなぜか自信満々に言った。
日光培養に切り替えると、たった2日で培養が進み、この後珪藻水はどんどん茶色になっていった。
本来、蛍光灯の元で育つ珪藻は5~7日で完成に近づくという。
なかなか育たなかった珪藻は、自然光に当てることで4日程度で挽回したと思われた。これは、晴天に恵まれたことも起因している。
しかし、ここまで冷蔵保存していた未受精卵は劣化していないかなど、まだ不安は尽きない。
「植え継ぎ」と「エサやり」
2月26日、「珪藻培養液の色が茶色になりすぎる前に受精をするべき」ということで、この日に受精を行うこととした。それは本当に細かい作業だった。
まず、「植え継ぎ」と「エサやり」。5ミリリットルを別のキレイなペットボトルに移す。残りは今後のエサとして使用する。
キットに入っていた「メタケイ酸ナトリウム」という白い粉末を耳かき1杯程度、「KW21」という赤い液体を0.3ミリリットル、それぞれ人工海水300ミリリットルの中に入れる。
計量は11歳の子ども一人では難しく、親も手伝った。
その間、お湯を80度に保つ準備をする。先ほど調整した人工海水を80度のお湯で20分間湯煎し、滅菌するのである。
いよいよ受精実験開始!
未受精卵の様子を見ると、本来はまだ透明なはずであるのに、オレンジ色に変化していた。明らかに変異が見られた。
未受精卵を小型シャーレ(直径3~6センチ)に移し、そこにキットの中にあった海水を入れる。それを優しく攪拌し、未受精卵が均一になったところで、未受精卵用のピペットという検視官に蓋が付いたようなものに入れる。
しかし、この未授精卵が均一になったのかどうかの判断がつかず、攪拌し過ぎたのか足りなかったのか、今でも分からない。
しかし、なんとか実験の一番楽しいところまでたどり着いた。
説明書の「適当にアレンジしてください」に苦戦
均一になったであろう未受精卵の入ったシャーレに、希釈精子を少量加えるのだが、これが実は一番苦労した。
ようやく、実験が軌道に乗ってきたというのに、またここで精子をシャーレで100倍に希釈するという。
100倍? どうやったら100倍と分かるのだろうか。アバウト過ぎる。
しかしここまで来たらやるしかない。なぜなら説明書には「適当にアレンジしてください」と書いてあるのだ。
適当に100倍にした。これが結果にどのように及ぼしたか、私たちには分からない。
お待ちかねの受精だったが……
そして、いよいよ希釈精子を未受精卵に加える。親子でそれぞれ試した。
その後はお待ちかねの顕微鏡観察だ。
卵子は確認できた。精子もちゃんと希釈してある。きっと受精しているはずだ。
しかし……確認までは至らなかった。
こうして残りの受精卵たちをシャーレに入れてひと晩様子を見た。本来なら、ここで孵化して浮上してきた受精卵を選別する。
しかし、我が家の受精卵はひとつも上にあがっていなかったし、受精の証拠となる受精膜がみられなかった。そして、その周囲に精子も見当たらなかった。
どうして精子が消えたのか、あるいは受精していなかったのか、今でもわからない。おそらく時間経過による劣化ではないだろうかと、家族で話した。
「小学校での実験とは比べ物にならないほど緻密な作業だった」と息子は振り返った。
「なぜ」と考え続けることが大切
ところでなぜ、蛍光灯ではなく自然光で培養速度が上がると思ったのかを息子に聞いた。
我が家はベランダで淡水魚のカジカを飼っている。
日当たりのいい我が家のカジカの住処(人口水流付きのトロ舟)が、あっという間にグリーンになったのを思い出したそう。あれは珪藻ではなく藻かもしれないが、同じ理屈が通るのでは、という仮説を立てたようだ。
今回の体験で、息子は環境と生き物の関係に興味を持つようになった。今では、自宅で培養環境の違いによる変化を試している。
(サカナトライター:栗秋美穂)