Plastic Tree 「30年のキャリアの中でもちょっと実験的なライブになってます」、特別公演『モノクロームシアター』レポート
Plastic Tree 結成30周年“樹念”特別公演「モノクロームシアター」
2024.11.16 EX THEATER ROPPONGI
不朽の名画、ふたたび。先だって11月16日にEX THEATER ROPPONGIにおいて繰り広げられた『Plastic Tree 結成30周年“樹念”特別公演「モノクロームシアター」』は、さかのぼること28年前に『TOUR 「モノクロームシアター」』のツアーファイナルとして1996年11月3日に開催された渋谷Egg-manでのワンマンライブを、2024年の今に実演する場として企画されたものだった。
「今日のライブは、我々の30年のキャリアの中でもちょっと実験的なライブになってます。最初は28年前の完全再現をしようかなとも思ったんですが、今回は第1部と第2部に分けつつ第1部では当時のセットリストから抜粋したかたちでやっていきながら、みんなに当時の雰囲気を味わってもらおうかなと」(長谷川正)
これは当夜のアンコールにおいて正が発した言葉。ちなみに、Plastic Treeはこれまでにも2010年5月に東名阪ツアーというかたちでの『Strange Fruits -奇妙な果実-15周年・追懐公演』、そして2012年12月にはTOKYO DOME CITY HALLにての『メジャーデビュー十五周年“樹念"「Hide and Seek」-追懐公演-』、また2017年6月にもメジャーデビュー20周年のタイミングで『Plastic Treeメジャーデビュー日"樹念"再現公演「1997.09.15」』を横浜ベイホールにおいて催行しており、バンドとしての大切な節目にはその都度過去と真摯に向き合ってきた経緯がある。しかも、彼らが織りなす“あの頃”はいずれも観る側の脳内想い出補正機能(過去は美化されやすいというアレ)を凌駕してくるのが大きな特徴で、今回の『モノクロームシアター』についてもその期待が裏切られることは皆無だったと言っていい。
単なるリバイバル上映でもなければ、4Kデジタルリマスター的な策を施すことにより解像度だけを向上させたわけでもない。2024年版『モノクロームシアター』は、最新技術で過去の名画を精巧かつ忠実に新撮した素晴らしいリメイク作品として、今宵の我々を深く心酔させてくれることになったわけだ。
なお、演奏が始まる前のオープニングSEとしてまず場内に響き出したのはPlastic Treeの1stオリジナルアルバム『Starnge fruits -奇妙な果実-』(1995年12月発売)収録の「Rusty」を元に作られた独自インストルメンタルだったようで、その音とともにステージ上にしつらえられた大型ヴィジョンでは、それこそモノクロ映画のごとき映像が上映されていくことに。
そうした流れを受けての1曲目は、パンキッシュなザラつき感とカオティックな詞世界が交錯する「アブストラクト マイ ライフ」。激しさを持った楽曲であるにも関わらず、敢えてマイクスタンドを前にどこか無表情に近い面持ちでこれを歌うのは、有村竜太朗というよりも……むしろRyutaro??
黒いスモックフロックに、大きなピーターパンカラーをあしらった白ブラウスと、真っ赤なリボンタイをあわせた暗黒幼稚園児スタイル。それは、かつて竜太朗がRyutaroという表記を使って活動していた頃の姿を彷彿とさせる出で立ちで、まずはそのヴィジュアル面での完成度に目を奪われた人も多かったのではなかろうか。
もちろん、見た目のみならずサウンドや歌の面でもPlastic Treeがこの場で表現してくれたのは、つまり“あの頃のようでいてあの頃よりも進化した”あれこれ。たとえば、ナカヤマアキラの奏でる繊細なトーンのギターフレーズから始まる「twice」に関しては、アレンジが2001年に発表されたベストアルバム『Cut ~Early Songs Best Selection~』に収録されていた「twice『Cut』ver.」に準拠していたようであったし、だいぶ久しぶりに演奏された気がする「銀の針」では、長谷川正の紡ぐベースラインをはじめとして当時よりもはるかにボトム部分が強化された音を堪能することができた。
さらに、ボトム部分といえば。今回のライブにおいて全編にわたり頼もしいリズムを提示してくれていたのは佐藤ケンケンにほかならないものの、彼の場合は2009年7月に加入した事実上の5代目ドラマーであるため、1996年あたりにPlastic Treeが演奏していた曲たちについても全て後追いで身に着けていったものばかりとなる。当然、前任ドラマーたちが叩いてた曲を新任ドラマーが叩くとなれば、さまざまな課題が発生するのはありがちな話で、彼とてこれまでにどれだけ努力しながらプレイヤーとしてのアイデンティティを確立してきたかは想像に難くない。おまけに、彼はしっかりと“ここぞ”というポイントだけはオリジナルのニュアンスを尊重したうえで叩いてくれるドラマーであるがゆえ、この夜のライブでも「リラの樹」などは幹を何周りも太くしてくれていた一方、樹そのものとしてのフォルムはしっかりと保ったかたちでの演奏を顕示してくれていたように思う。
「隠れてる子、出ておいでー」(竜太朗)
あの頃とまるで変わらないこの口上から始まり、曲の冒頭では竜太朗ならぬRyutaroが照明器具を担ぎ上げてサーチライトのように使ってみせた「クローゼットチャイルド」では、《ホコリだらけの映写機が音をたてて》《みんなが好きな同じシーン くりかえすんだ》といった歌詞たちが、ことさらに『モノクロームシアター』感をより色濃くしていったこの夜。1996年の翌年にメジャーデビュー曲として世に出た「割れた窓」や、ライブでの鉄板曲として愛されていた当時のみならず今に至っても人気曲を募ると必ず上位に食い込む「エンジェルダスト」、「サイコガーデン」と、ほぼMCもなく曲たちが次々とたたみかけられていった中、ひとつの帰着点としてこのあとに奏でられたのは「サーカス」。
これはのちに2ndアルバム『Puppet Show』(1998年8月発売)に収録されることになった曲であると同時に、Plastic Treeがロックバンドとして内包する深遠さと深淵が凝縮して詰め込まれた、ひとつのマスターピースと呼んで差し支えない曲でもある。つい先ほどまで髪を振り乱し、歓声をあげながら盛り上がっていた海月(※ファンの総称)たちの間に重い沈黙をもたらす様はある種の魔力に近い何かを感じるほどで、天幕の下で起きる無常な悲劇を描いたこの「サーカス」は、結果としてこの『モノクロームシアター』の第1部を締めくくる曲とあいなった次第だ。
その後、モノクロのサイレントフィルムがインターミッションとして5分ほど上映されてから始まった第2部は、プラトゥリ流シューゲーチューンの「Thirteenth Friday」からスタート。わかりやすかったのは、竜太朗が1部とは全く異なる昨今スタイルのルックスにお色直しをしていた点と、彼がこの曲を筆頭にほとんどの場面でギター&ボーカルとしてのステージングを展開していた点で、感覚的には名画のリメイク作品を観たあとに同じ監督の最新作を観るのに近いところがこの第2部にはあったかもしれない。
実際に選曲も比較的近年のもので固められていた印象で、アンコールのMCにて正が解説していたところによると、なんでも第2部は「ケンケンが加入して以降の曲」たちで構成されていたとのこと。確かに、この第2部で演奏された最も古い曲は「梟」で、振り返れば2009年6月10日に代々木公園野外ステージで行われたシングル「梟」の発売記念フリーライブは、まだサポートドラマーだったケンケンの存在が初めてお披露目された日だったと記憶している。(※1ヶ月後の7月には正式加入)
逆に、最も新しい曲は最新アルバム『Plastic Tree』の中で美しく儚い響きを聴かせてくれている「メルヘン」で、音楽性の面で言えば第1部に奏でられていた楽曲たちよりも豊潤さや成熟ぶりを感じる反面、詞からそこはかとない寂しさや切なさを感じる精神性の部分については、28年ないし30年が経ってもやはりPlastic TreeはPlastic Treeであり続けているのだな、とあらためて感じてしまったのは何も筆者だけではあるまい。
ところで。今回の『Plastic Tree結成30周年“樹念”特別公演「モノクロームシアター」』が行われた11月16日は、スーパーリーダー・正の誕生日だったこともここに特筆しておくべきだろう。第1部と第2部に次いでのアンコールではサプライズ演出ありきのバースデーセレモニーが執り行われ、このライブは二重にめでたい特別な夜となったのである。
「正くん、お誕生日おめでとう!!」(有村竜太朗)
「ありがとうございます(照笑)」(長谷川正)
客席フロアから♪ハッピーバースデートゥーユー♪の歌が贈られたり、竜太朗がうながすかたちで海月たちから「長生きしてね♡」の声が投げ掛けられたりもしつつ、ここからのアンコールでは「バンビ」と「エンドロール。」の2曲をなんとも仲睦まじそうにプレイし、またも場内をおおいに沸かせてくれたPlastic Tree。
「30周年の特別な日に、この場所でPlastic Treeの佐藤ケンケンとしていることができてとても光栄に思ってます。ありがとうございました!」(佐藤ケンケン)
「今日のこれが30周年ってことは、こういうライブは次だと10年後っすかね。40周年の時にでもまたやるのかな(笑)」(ナカヤマアキラ)
かのローリングストーンズ(The Rolling Stones)が50周年記念ライブを見事に成功させていることを思えば、むろんそれとて夢物語ではないはず。近々でいけば、来る12月24日には神奈川県民ホール・大ホールでの『Plastic Tree 結成30周年“樹念”年末公演2024 ゆくプラくるプラ ~Merry Christmas,Dear Kurage~』が行われていることになっているが、今回の公演で最後の最後に「エンドロール。」に続いてのリアルなエンドロールが上映されて、その末尾に映し出されたのは“The end?”の文字。
すなわち。海月の皆様方におかれましては、不朽の名作を生み出し続ける巨匠・Plastic Tree先生の次作に今後ともいっそうのご期待をいただきたい。
取材・文=杉江由紀 撮影=上野留加