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【あんぱん】「生きて帰って」嵩(北村匠海)が戦争へ。朝ドラ過去作と比べて「異例」な2つの描写

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【あんぱん】「生きて帰って」嵩(北村匠海)が戦争へ。朝ドラ過去作と比べて「異例」な2つの描写

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「のぶの心の揺れ」について。あなたはどのように観ましたか?



※本記事にはネタバレが含まれています。



『アンパンマン』の原作者で漫画家・やなせたかしと妻・小松暢をモデルとする今田美桜主演の朝ドラ『あんぱん』第10週「生きろ」が放送された。


今週は軍国主義に染まったのぶ(今田)の心の揺れ、迷い、疑いを描く重要な週。その変化をどう描くのか。



陸軍に乾パンを納め、朝田家から去っていく草吉(阿部サダヲ)を引き留めようとするのぶ。釜次(吉田鋼太郎)にこれ以上苦しめるなと言われると、この期に及んで「苦しめる?」とキョトンとするのぶに、釜次は草吉が語った過去を話して聞かせる。



銀座のパン店で修業していた頃、パン作りの腕を上げるために密航船に潜り込み、当時イギリス領だったカナダに渡った草吉は、欧州大戦(第一次世界大戦)で英国軍の日本人義勇兵として戦場に送りこまれたのだった。



弾丸が飛び交い、どんどん人が死ぬ中、「一番つらいのは腹が減ること」「死んでいく者の横で腹が鳴ること」と語った草吉。飢えに苦しむ草吉は、死んだ者の乾パンも泣きながら貪った。乾パンを焼くことを固辞したのは壮絶な戦争体験によるものだった。



しかし、もともと風来坊の草吉が10年も朝田家にいたのは、去ろうとする草吉を幼き日ののぶが引き留めたこと、その言葉が「こそばゆかった」ことがきっかけだったと明かされる。



窯の中から草吉の乾パンレシピが見つかり、喜ぶ朝田家の姿に「作り方を覚えろと言われてたのに」「羽多子(江口のりこ)が草吉にパンの作り方を教えてくれと頼んだところから10年も経つのに誰も学ばなかったのか」などと思わなくもないが、かくして朝田家は乾パン作りをすることになった。



のぶは教え子達にも「陸軍の御用達」「なんと立派なお役目や」と称賛され、今できることは国民が1つとなって、1日も早く日本が勝つことと子ども達に教える。しかし、その表情には若干の曇りが見え始める。そうした微妙な心情変化を目の表情で段階的に見せる今田美桜の芝居が光る。



1941年12月8日。日本がハワイの真珠湾を攻撃、太平洋戦争が勃発する。健太郎(高橋文哉)は取引先の食堂から材料を特別に分けてもらったと言い、涙を流しながら玉ねぎを刻み、カレーライスを作って嵩(北村匠海)と食べる。実は健太郎に赤紙が届き、故郷・福岡に帰る前の別れの晩餐だったのだ。生きてまた会おうと約束する2人。



一方、のぶのもとには、航海が取りやめになったと言い、夫・次郎(中島歩)が帰って来る。束の間の楽しい時間を過ごす2人だが、次郎のカメラで家族の集合写真を撮るときもまた、のぶは「ヤムおんちゃん(草吉)と豪(細田佳央太)ちゃんもおってほしかったのになって......」と無神経さを見せ、すぐ謝り、蘭子(河合優実)に「豪ちゃんは、ここ(自分の胸の中)におるき」と許される。



のぶは次郎に、戦争が終わったら子どもたちに立派な兵隊さんになるよう言うのではなく、楽しい授業がしたい、次郎と船でいろんな国に行ってみたいと、こっそり伝える。



あくまで「日本が戦争で勝つ=終戦」を信じて願うのぶだが、次郎は出発間際、船が軍用の輸送船になると言い、自分の身に何かあったら、と前置きして、「僕はこの戦争に勝てるとは思わん」と明かす。



それに対して「そんなこと言わんといて」「戦争が終わるのは日本が勝つとき」と叱咤激励、「お国のために立派なご奉公を」と送り出すのぶ。



さらに子ども達に「大丈夫、勝てます」と伝えるのぶは、自身の中に沸き起こる不安や疑いを蹴散らすよう、自身に言い聞かせているようにも見える。そして、そんな本音を蘭子に明かすのだった。



かつて嵩が描いてくれた父と幼い日の絵を見て、次郎は嵩を優しい人なのだろうと言った。それを受け、嵩は優しい、自分と正反対だと言うのぶに、蘭子は「お姉ちゃん、変わったね。昔はこうと思ったらまっすぐ突っ走ったき」と呟く。のぶ自身が無自覚の揺れや迷いを蘭子が見抜いていたのは、愛する人を亡くした喪失感を知るためか。



その頃、嵩にも赤紙が届く。銀座に母・富美子(松嶋菜々子)を呼び出し、自分が軍隊でやっていけるかと弱音を吐く嵩に、しかし富美子の答えは、嵩が望んだものではなかった。
「何言ってるの。そんなの無理に決まってるでしょ」



そこで2人は別れたが、嵩の出征のとき。東京で伝えきれなかった言葉を富美子が伝えに来る。
「逃げ回っていいから。卑怯だと思われてもいい。何をしてもいいから......生きて、生きて帰ってきなさい!」



そんな富美子を非国民として憲兵が連れ去ろうとすると、今度はのぶが「嵩、必ずもんてき! お母さんのために、生きてもんてき!」と叫ぶ。坊主頭の嵩と再会した際、「おめでとうございます」と告げたのぶが、ようやく自身の揺れと向き合い、閉じ込めてきた本音をぶちまけたのだ。



かつて嵩の母への思いを勝手に代弁し、富美子に怒りをぶつけたのぶが、富美子の母としての愛情に触れ、自分が次郎に伝えることができなかった言葉を口にする。この因縁めいた連鎖に胸を打たれるが、さらに憲兵が富美子とのぶを連行しようとするとき、それを制止したのは、母の混乱を詫び、力強く出征を宣言する嵩だった。



誰より優しく弱い嵩が、自身が甘えさせてほしいと願った母、自身を何度も守ってくれたのぶを守るーー正義の逆転、価値観の転倒が起こった瞬間だろう。



ちなみに当時の時代的には軍国主義に染まったのぶのほうが「普通」の人で、戦争に反対の意を示す草吉や蘭子、嵩のほうが異端だったはず。



これまでも朝ドラでは『芋たこなんきん』で主人公が、『カーネーション』で主人公の娘が盲目的に軍国主義に染まる様が描かれてきた。しかし、彼女達がいずれも少女だったのに対し、大人である主人公が、染まるのみならず、自ら率先して戦争に加担していく様を描いたのは異例で、明確なメッセージを感じるチャレンジである。



ちなみに、嵩が母から(周囲から)兵隊なんて無理だろうと心配されたのはやなせたかしの史実通り。また、草吉の独白に妙に生々しいリアリティがあると思ったら、これはおそらくやなせが著書『何のために生まれてきたの?』(PHP研究所)のインタビューで戦時中を振り返った言葉「僕は兵隊として向こうへ行き、一晩じゅう眠れなかったり、泥の中を転げまわったりと、いろいろなひどい目にあったんですが、それらは横になって寝ていれば、何とか回復してくるんですよ。ところが、空腹というのだけはダメなんですね。我慢できない」「飢えるってことが一番つらいことなんだと、その時、身にしみて体験しました」などを参考にしたのだと思われる。



また、ドラマで「戦争」を描く場合、多くが太平洋戦争を指すのに対し、本作がその前から日本が中国に侵略し、戦争を仕掛けていたこと、世界の中で孤立していったことなどを描いているのも異例で、意義のあることだ。



次週からは戦争はさらに激化する。心して見守りたい。


文/田幸和歌子

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