ベーカリープロデューサーの手掛けた「変わった名前の高級食パン専門店」の今を調べたら、当たり前の事実に気づかされた
皆さんは覚えているだろうか? あれはたしかコロナ禍の少し前のことだったと思う。一大高級食パンブームが到来し、街のあちこちに食パン専門店が出現した。その火付け役ともいえるのが、ジャパンベーカリーマーケティング株式会社(現:ブレッドサンド株式会社)の代表でベーカリープロデューサーの岸本拓也氏である。
2011年頃から異業種オーナーのベーカリーを全国でプロデュースし、各地で変わった名前の専門店が続々とオープンした。近頃、あまり見かけなくなった気がするので、都内で実際にお店のある(あった)場所を訪ねてみた。そうしたところ、当たり前の事実に気づかされたのである。
・ブームだった頃と今ではずいぶん違う
岸本氏の手掛けたお店が話題になり始めたのは、2017年頃からだったと思う。清瀬と菊名にベーカリー「考えた人すごいわ」、相模原市にベーカリー「午後の食パン これ半端ないって!」など、インパクトのある名前のお店に注目が集まり、私も2018年12月に中野坂上にオープンした「うん間違いないっ!」を訪ねている。
ベーカリーでありながら、食パン1本で勝負するスタイルは斬新で、なおかつ名前が覚えやすいことから、連日行列のできるお店も少なくなかった。
だが、時間と共に人は慣れて行くものだ。店名のインパクトは薄れ、新型コロナのまん延やロシアのウクライナ侵攻などの影響で、原材料費が高騰し、あの当時とは比べ物にならないほど経営環境は変わっている。
当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったお店は、無事に営業を続けているのだろうか? 気になったので、各所を回ってみることにした。
・王道の王道
まずは八王子に2020年8月にオープンした、比較的新しいお店の「王道の王道」に行ってみると……。
バリバリやってます!
食パン専門店ではあるけど、サンドイッチの販売もしている。店の外観から、そこはかとなく漂う岸本プロデュース感。
王道の王道
住所 東京都八王子市八幡町2-17 エイラクビル1F
営業時間 10:00~ パンがなくなり次第終了
定休日 なし
・考えた人すごいわ
次に変わった名前の中でも歴史の古い「考えた人すごいわ」の西国分寺店。先に挙げたように清瀬にも菊名にもお店があり、2020年にオープンした西国分寺店も……。
バリバリやってます!
駅の改札を出てすぐという好立地で、昼は絶え間なくお客さんがいる様子。ちなみに宮城県名取市・埼玉県ふじみ野市、所沢市にも出店し、さらに福島県郡山市にはFC店舗も出店しており、ブランドとしてはかなり成功している。
考えた人すごいわ 西国分寺店
住所 東京都国分寺市泉町3-35-1 西国分寺レガビル1階
時間 9:00~20:00 売り切れ次第終了
定休日 不定休
・毎日どうでしょう
次に府中市新町に2020年にオープンした「毎日どうでしょう」。開店時期は、八王子の王道の王道と同時期で、コロナの最中に営業を始めている。あれから約5年が経った現在は……。
バリバリやってます!
が! この日(月曜日)は定休日でした。
こちらは4月16日に府中駅前に2号店をオープン予定。店舗を増やすということは、経営は順調と考えても良いのではないだろうか。
毎日どうでしょう 本店
住所 東京都府中市新町1丁目67-2
時間 10:00~18:00(売り切れ次第終了)
定休日 月曜日
・告白はママから
次は吉祥寺の「告白はママから」。ここも2020年組のお店で、あのコロナの厳しい時期に、続々と出店していたことがわかる。さて、住所地に行ってみると……。
閉店していました……
2022年1月31日をもって営業を終了しており、わずか2年での閉店。
現在(2025年4月)は、紅茶専門店「TEA MARKET Gclef(ティーマーケット ジークレフ)」がお店を構えている。別の場所にあった吉祥寺本店が2022年5月にこの場所に移転してきたのだとか。
TEA MARKET Gclef 吉祥寺本店
住所 東京都武蔵野市吉祥寺本町1-10-8 山崎ビル1F
時間 11:00~19:00 土日祝11:00~20:00
定休日 なし(臨時休業あり)
・どんだけ “じこちゅー”
さて続いては、変わった名前の中でもとりわけ印象の強い「どんだけ “じこちゅー”(自己中)」の荻窪店。こちらは2019年4月にオープンしたお店だが、現在は……。
閉店してました……
2020年にオープンした高幡不動店も閉店。
「さよならだけが、人生だ」と悲しい言葉を残している。が! 羽村市と山梨県甲府市のお店は現在も営業しているそうだ。ブランドが始まったお店はなくなっても、そのDNAは別の場所で生き続けている。
どんだけ “じこちゅー” 羽村SAKURA MALL店
住所 東京都羽村市栄町3-3-3 羽村SAKURA MALL内1階
時間 9:30~17:00 食パンがなくなり次第終了
定休日 なし(施設に準ずる)
・うん間違いないっ!
お次は2018年に訪ねた、中野坂上の「うん間違いないっ!」である。その当時は店前に10人ほどの列ができていたのだが、現在はどうなっているのだろうか? 住所地に行ってみると……。
バリバリやってる!
主力の商品の「Oh! 間違いない」と「絶対100パーセント」も変わらず販売しており、7年経った現在の値上げ幅は、それぞれ税別800円 → 862円、税別980円 → 1112円と、微増にとどまっている。昨今の燃料・原材料費高を思うと、企業努力を感じずにはいられない。がんばってらっしゃるなあ……。
ちなみにこちらは中野坂上のほかに、練馬駅前店・東武練馬イオン前店・中村橋店、さらに練馬区に工房直売所を有しており、ブランドとして成功している。
うん間違いないっ! 中野坂上店
住所 東京都中野区本町2-50-11
時間 11:00~20:00 パンがなくなり次第終了
定休日 不定休
・ボイン
ここから都の東側に移動して、北千住の「ボイン」へ。これまでのお店とはまた違ったインパクトを持つ名前のお店だが、やっているのか!?
バリバリやってま~す!
食パン専門店ではあるが、店頭では「ジャンボサンドイッチ」の販売も行っており、デパートなどの催事にも積極的に出店している。それからお店の営業カレンダーを見ると、日ごとに目玉商品を用意して、お客さんを飽きさせない工夫が見える。期間限定でバナナジュースの販売を行ったりして、食パン専門店の枠組みにとらわれず、営業を続けているようである。
高級食パン専門店 ボイン
住所 東京都足立区千住旭町13-8 アドリーム北千住101号
時間 10:00~18:00 パンがなくなり次第終了
定休日 不定休
・白か黒か
お次は、高級食パンブームでもトップクラスの人気だったお店のひとつ「白か黒か」。最寄のJR錦糸町駅からでも徒歩で10分程度かかる立地にあり、アクセスはそれほど良いとは言えない。にも関わず、オープン当時は行列ができていたが現在はどうか……。
バリバリやってます!
お店はここだけだが、東京スカイツリーソラマチの「あっぷるぱい孝太郎」で併設販売も行っているという。食パンもさることながら、餡子たっぷりの「錦糸町バターあん!」も売りで、錦糸町名物と自負しているそうだ。
白か黒か 錦糸町本店
住所 東京都墨田区太平1-22-12
時間 8:00~18:00 土日祝10:00~18:00 売り切れ次第終了
定休日 不定休
・真打ち登場
さあ、最後。変わった名前の高級食パンの店。その象徴ともいえるイラストがこちらだ。
このイラストは「真打ち登場」というお店の真打ち君というそうだが、岸本氏がモデルになったと考えて良さそうだ。すごく似てるから。一時は都内に9店舗を展開していた、その最初のお店、千駄木店はやっているのか?
バリバリやってます!
しかしながら、ほかの8店舗はすべて閉店。残る1つがここだけになってしまった。
真打ち登場 千駄木本店
住所 東京都文京区千駄木2丁目21-6 レジデンシャル千駄木
時間 9:00~19:00
定休日 不定休
9つのお店の現在をリサーチしたにも関わらず、1つもパンを買っていなかったので、このリサーチの締めくくりに、ここで食パンを購入。ちなみに門前仲町に「エモいよ君は」というお店もあったのだが、時間の都合でまわることができなかった。そこは閉店している。
購入したのは、チョコチップの入った食パン「ゆうき」(1斤 税込1270円)である。
毎朝パンを食べる私だが、最近は何でもかんでも高くなってしまって、スーパーで安いパンを買うようにしている。1斤1000円越えのパンなんて、食べるのはいつぶりだろうか?
軽くトーストしてかぶりついてみると、べらぼうにウマい! 生地がもっちりとして歯にまとわりつくような柔らかさ。それでいて綿飴でも頬張っているような優しいくちどけ。ほのかに漂う小麦とチョコレートのかおりに、心が癒される。
いい値段には理由がある。良いものだからこそ1000円越えるのだ。毎朝ってわけにはいかないけど、たまの贅沢に高級食パンもいいかもね。
・当たり前のこと
ブームで世の中をにぎわせた、変わった名前の高級食パンのお店は、ことごとく潰れたと思っていた。だが、実際はほとんどが残っていた。話題になることは少なくなったけど、存続しているお店はちゃんと営業努力をしているのだ。
続いているお店は、営業カレンダーをサイトやSNSにちゃんと載せているし、定期的に新商品を作っている。それから店舗営業だけでなく催事出店も行っており、販路の拡大にも努めている。
それらを怠ったお店が消えて行っている。つまりは、店名にインパクトがあっても、やることやってないと忘れられる。名前が変わっていようがいまいが、パン屋であろうがなかろうが、当たり前を大事にしているお店が続いていく。
高級食パンのブームは去ったけど、店舗を増やしているブランドもあるので、引き続き美味しいパンを作り続けてほしい。「考えた人すごいわ」「うん間違いないっ!」など、冠した名前は重いかもしれないけど、名前負けせずにさらに飛躍することを願っている。
参考リンク:@Press、ブレッドサンド株式会社
執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24