「気温が高めでも雪が降る?」「雪の結晶は100種類以上もある?」雪にまつわるディープな話
立春を過ぎてもなお凍えるような寒さの日はあります。雪国はもちろん、そうでない地域でも雪の予報にやきもきさせられることがありますよね。雪は気温が低ければ降るのかというと、そうとも限りません。気温が高めでも、条件によっては大雪になることがあり予想が難しい場合もあるのです。雪が降りやすい気象条件とは何なのか、雪にまつわるディープな話をお届けします。
雪は気温が高めでも降ることがある!そのワケは?
雪の研究者として名高い中谷宇吉郎博士はこんな言葉を残しました。「雪は天から送られた手紙である——」。
このロマンティックな表現には、地上に降った雪を調べることで、雪が作られた時の気温や水蒸気量など、さまざまな情報を知ることができるという意味が込められています。雪が降るかどうかの予想をする時には、気温のほかにも多くの条件を考慮する必要があるのです。
気温が低いとき、雨ではなく雪になるのかというと、そうとは限りません。気温が比較的高い時でも雪になることはあり、これには湿度が関係しています。
地上付近の湿度が低く乾燥していると、たとえ気温が0℃以上だとしても雪になることがあり、湿度が50%以下なら気温が5℃以上でも雪として降るという観測結果もあります。
雪は空から落ちてくる途中、乾燥した空気の層を通ると「昇華」という現象を起こします。昇華とは、雪の結晶が氷の状態(固体)から水蒸気(気体)に直接、姿を変えることです。この時、大量のエネルギーが必要になるため、雪の結晶は熱を奪われて冷えます。そのため、地上の気温が高くても雪は融けないまま落ちてくることになるのです(真夏の晴れた日に打ち水をすると、気化熱が奪われて涼しくなる現象と同じです)。
乾燥続きの首都圏で突然の大雪に
めったに雪の降らない首都圏でも、年に一度や二度は大雪となることがあります。湿度の低さが影響して大雪を招いたと考えられる事例がありました。
2022年の年明け、東京都心で10cmもの雪が積もり、東京23区には2018年以来4年ぶりに大雪警報が発表されました。この日の前日は、関東の南岸付近を低気圧が進み、雨もしくは雪になるという予想は出ていましたが、降る量はそれほど多くならない見込みでした。ところが、翌日は雪が絶え間なく降り続き、みるみるうちに積もっていきました。正午の時点で気温は1.5℃と、0℃を超えているのに大雪になったのです。
実はこの時、東京都心は前日まで晴天が続き、空気がカラカラに乾燥していて、昇華が起こりやすい気象条件になっていました。
雪に弱い首都圏ではひとたび大雪になると、あちこちで大きな影響が出ます。この大雪で路面の凍結などによるスリップ事故が相次ぎ、レインボーブリッジは通行止めになるという事態に。当時、突然の大雪に驚いたという人も多くいらっしゃったかもしれません。改めて雪の予想は大変難しいと思い知らされました。
雪の結晶は100種類以上!雪を観察してみよう
さて、事故などのリスクもある雪ですが、一方で他にない自然の織り成す美しさも秘めています。雪の降る日には、じっくりと雪の結晶を観察してみてください。雪の結晶のイラストは六角形をしていることが多いですよね(有名なチーズのパッケージのマークを思い出してみてください)。
実際の雪の結晶も本当にきれいな六角形をしているから驚きます!
水の分子が結晶化するとき、安定した構造を保ちやすいのは六角形です。だからあのようにきれいな形になるのですね。
しかし、雪の結晶はどんな時も全く同じ姿ではなく、少しずつ見た目が変わります。雪の結晶は何と100種類以上もあり、気温や湿度によって形が変化します。
結晶は、気温が0℃~マイナス4℃、マイナス10℃~マイナス20℃の時は横方向へ。マイナス4℃~マイナス10℃、マイナス20℃以下の時は縦方向へ伸びやすいといわれています。
スマートフォンにマクロレンズを付けて観察すると、雪の結晶の形がよく分かります。なるべく暗い色の服を着て、そこに付いた雪が観察しやすくておすすめです。
暦の上では春ですが、まだまだ冷え込む日もあり雪の降る日もあるでしょう。天気予報をチェックしながら雪にまつわるこんな話を思い出してみてください。
文=片山美紀 写真=片山美紀、ウェザーマップ、写真AC
参考文献:『お天気キャスターが教える ふしぎなお天気のいろいろ』/小林正寿(repicbook<リピックブック>株式会社)
参考HP:中谷宇吉郎 雪の科学館
片山美紀
気象予報士
大阪府出身。大学卒業後、放送局での勤務を経て気象予報士、気象キャスターに。街歩きをしながらお天気ネタを探すのが趣味。空を眺めようと上を向きがちです。NHK総合「首都圏ネットワーク」などに出演中。