ラヴソングの王様こと鈴木雅之!シャネルズ〜ラッツ&スターで歌いつないだドゥーワップ
ドゥーワップの魅力が散りばめられた3枚組
“ラヴソングの王様”
そんな異名を持つ鈴木雅之。2025年はシャネルズ(現:ラッツ&スター)のデビューシングル「ランナウェイ」のリリースから45周年のアニバーサリー。さらには、シャネルズ結成の1975年から数えて50年という年になる。このアニバーサリーを記念して、ベストアルバム『All Time Doo Wop ! !』が4月16日にリリースされた。
シンガー鈴木雅之の原点であるドゥーワップの魅力が散りばめられた3枚組CD。Disc1の【Original Mania】は、シャネルズ / ラッツ&スター時代のオリジナル音源や再レコーディングされた2025年ヴァージョンを収録。Disc2の【Rats Mania】は、こっちのけんと、幾田りら、岡崎体育、GRe4N BOYZ、倖田來未 、黒沢薫、川畑要など、世代やジャンルを超えたアーティストによるトリビュート盤。さらに、Disc3の【Doo Wop Mania】は、鈴木が敬愛する1950〜1960年代のドゥーワップ・ソングのカバーとなっている。
このリリースを記念して、Re:minderでは2回にわたりアルバムの魅力を紐解いていきたい。今回は、Disc1に収録されている楽曲に基づき、世間にドゥーワップを浸透させたラッツ&スターの魅力について語っていきたい。
揺らぐことのない鈴木の精神性が凝縮されている「ランナウェイ」
Disc1【Original Mania】の1曲目は、なんとシャネルズとしてデビューする前の音源。大滝詠一のアルバム『LET'S ONDO AGAIN』(1978年)に “竜ケ崎宇童” 名義で参加した「禁煙音頭」の未発表テイクが収録されている。
シャネルズは、ドゥーワップという言葉が世間に浸透する以前、新宿のライブハウス “ルイード” にレギュラー出演していた。そんな彼らを注視していたのが大滝詠一。大滝に見出されたことが、彼らにとって大きなモチベーションになったことは想像に難くない。鈴木にとって人生の大きな転機となり、未来を示唆するような大きな出来事の流れをアルバムの冒頭に持ってくるということは、本作が単なるベストアルバムではなく、鈴木のシンガーとしての生き様を色濃く映し出していることがわかる。
そして2曲目は、シャネルズ結成以前からの盟友、佐藤善雄と桑野信義が参加した2025年バージョンの「ランナウェイ」だ。1960年代に活躍したガールグループの代表格、ザ・ロネッツの「ビー・マイ・ベイビー」のイントロを思わせるドラミングから入り、オリジナル以上にメロウな仕上がりになっている。
鈴木のボーカルは、時の流れの中で色褪せることがない名曲にさらなる普遍性を施す。この曲のもうひとつの聴きどころともいえる佐藤のバスボーカルも健在だ。リリース時から揺らぐことのない鈴木の精神性はここに凝縮されているし、佐藤と桑野の参加は、この曲が誰にも邪魔をされない彼らの “聖域” であるかのように思わせてくれた。
遊び仲間で結成されたシャネルズ
シャネルズは1975年に鈴木雅之を中心に当時の遊び仲間で結成された。1981年に刊行されたシャネルズ著『ラッツ&スター』(八曜社)の中で、こんな言葉を残している。
「オレはさ、中学の終わりぐらいからさぁ、バンドやってたんだけど、それは遊び仲間っていうんじゃなくて、いわゆる音楽仲間っていうやつで…(中略)で、そんな遊び仲間と、音楽やれたら面白いだろうなって思ったのね。でも、まず、できないだろうなってあきらめてたのね。田代にしろ、善雄にしろ、久保木にしろ、楽器は弾けないし、人前でうたったことのない連中でしょ」
遊び仲間には人間的なつながりがあると語る鈴木は、素人同然のメンバーでシャネルズを結成。夜の街をバイクや車で流していた不良少年がバンドの練習に明け暮れ、レコードデビューを勝ち取り、ナンバーワングループに駆け上がる――。
1980年、シャネルズはお茶の間を席巻した。ラジカセのCMソング「ランナウェイ」はオリコン・シングルチャートで1位を獲得し、新しい時代が幕を開けた。そして数々のヒット曲を放つわけだが、その起点である鈴木の精神性が今も変わらないことを、この『All Time Doo Wop ! !』は無言のままに語りかけている。
今の時代にも響き渡るスタンダード
Disc1に収録されている「街角トワイライト」「ハリケーン」「トゥナイト」といった往年のヒット曲には様々な魅力が散りばめられている。顕著なのは、彼らが憧れた1950年代のオリジナル・ドゥーワップへのリスペクトを強く感じる巧みなコーラスワークだ。しかし、それだけではない。アップテンポなビートにはロックンロールの躍動感が漲っている。
シャネルズのメンバーは元々、1960年代末のロックンロール・リバイバルの立役者、シャ・ナ・ナをフォーマットにバンドをスタートさせた。若き日の鈴木のハートに染み付いた衝動がシャネルズの楽曲の根底にあった。また、鈴木はこれらの楽曲を手がけていた井上大輔と常にディスカッションを交わしていたという。シャネルズは自分たちのバンドカラーに合わせた等身大のドゥーワップを打ち出していたのだ。
そして、ラッツ&スターへと改名後に発表され、オリコン1位を記録した「め組のひと」の再レコーディング・バージョンにも注目して欲しい。同曲は1983年当時、新機軸として取り入れたエキゾチックなファンカラティーナのグルーヴをそのままに、現在の鈴木のボーカルの質感を全面に打ち出したている。
興味深いのは、彼らのファーストアルバムに収録され、桑野信義、佐藤善雄がリードボーカルを務めた「夢見る16歳」が収録されていることだ。珠玉のティーンポップである同曲を敢えてアニバーサリーにリリースされるアルバムに収録するというのは、やはり、自身の起点が仲間同士の強い結束であることを体現しているのではないか。
数々のヒット曲を放ち、長きにわたり “ラヴソングの王様” と呼ばれる鈴木雅之は、何も変わっていなかった。そして、ラッツ&スターはまだ終わっていない。そんな思いが噛み締められる名盤である。天性ともいえる鈴木のソウルフルな歌声は、今の時代にも響き渡るスタンダードだ。