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6時間以内に緊急手術をしないと「精巣・金玉・睾丸」が失われる危険性がある「精巣捻転」とは?

コクリコ

泌尿器科医・岡田百合香先生に聞く、精巣(金玉)トラブル連載1回目。今回は、発症から6時間以内に手術をしないと、精巣の機能が失われる可能性がある緊急性の高い疾患「精巣捻転(せいそうねんてん)」についてお聞きしました。

精巣が動きやすい状態も注意!

男の子を持つ保護者なら、やっぱり気になるおちんちんのこと。コクリコでも「男児のおちんちんはむく? むかない?」や「男の子の精通・マスターベーション」についての記事は、長く読まれています。今回は、精巣(金玉)のトラブルについてです。男子にとっては、“急所”と呼ばれる大事な場所。ですが、精巣のトラブルについてはあまり知られていません。

「6時間以内に処置をしないと、精巣が失われる疾患もあります」とは、泌尿器科医の岡田百合香先生。

そこで今回は、精巣トラブルの中で最も緊急性が高い「精巣捻転(せいそうねんてん)」について、解説していただきました。

幼い男児が「お腹が痛い」と言ったとき、もしかしたらそれは精巣の痛みかもしれませんよ。

岡田百合香(おかだ・ゆりか)
泌尿器科医。1990年岐阜県生まれ。2014年岐阜大学医学部卒業。愛知県内の総合病院泌尿器科に勤務する傍ら、助産院や子育て支援センターで乳幼児の保護者を対象にした「おちんちん講座」や「トイレトレーニング講座」、思春期の学生向けの性に関する授業などを行っている。2児の母。

ヒモでぶら下がるふたつの精巣(金玉)

現役泌尿器科医として働く岡田百合香先生は、自身も子育て真っ最中の2児の母。子どもを持つ保護者に向けた「おちんちん講座」の開催や、幼児期からの正しい性教育に力を入れています。

「我が子の男性器について気にされる保護者が多い一方で、その構造を理解している人は多くないと感じます」と岡田先生。

「陰茎(おちんちん)の隣には、精巣(金玉)があります。精巣は、精索(せいさく)という、ヒモのようなものでぶら下がり、陰囊(いんのう)という袋の中に入っているんです」(岡田先生)

「泌尿科医ママが伝えたいおちんちんの教科書」(誠文堂新光社)のP13ページより。
イラスト/こしいみほ

精巣は元々、お母さんの胎内にいるときは、お腹の中にあります。

「週数を重ねると、だんだんと精巣はさがってきて、お腹の外の陰囊の袋の中に収まります。通常であれば、下がり切ったら袋の底にピタっと固定されますが、人によっては固定されずにブラブラと動く状態になっていることがあります」(岡田先生)

激痛を伴う「精巣捻転」

このヒモのような精索が、急にねじれを起こし、激痛を伴うのが「精巣捻転」という病気です。

「精索には、精管、精巣静脈、精巣動脈などの大切な管が通っています。これらが急激にねじれることによって、精巣に血流がいかなくなってしまうんです。

イラスト/オヨネ

他の病気で言うと、脳梗塞や心筋梗塞と似ていて、血液が流れなくなってしまうことで、栄養も酸素も滞ります。そして、時間が経つと精巣(金玉)は壊死してしまいます」(岡田先生)

命に関わる病気ではないとしながらも、岡田先生は「将来、生殖機能に影響が出ることもある」として、「非常に緊急性が高い病気」と警鐘を鳴らします。

腹痛や嘔吐を伴うこともあり判断が難しい

この精巣捻転の発症年齢は、新生児期が10%、思春期(12~16歳がピーク)が65%と、子どもによくみられる疾患です。しかも、発症する時間帯が夜中~朝方に多いといいます。

「典型的な症状としては、急激な陰部の痛みです。突然血液が途絶える病気なので、痛みも突如現れます」(岡田先生)

じんわり徐々に痛くなるというよりは、「痛くなったタイミングが明確にあるのが特徴」とのことですが、小さな子どもだったりすると、自分の痛みを説明するのが難しい場合があります。

「腹痛や嘔吐を伴うこともあります。まず『お腹が痛い』と訴えることも少なくありません。そのため胃腸炎などと間違われやすいのですが、いつもと様子が違うなと感じたら、『たまたま、もしくは金玉は痛くない?』と聞いてください」(岡田先生)

消化器系の痛みや症状が先に出てきてしまうことも少なくなく、判断がとても難しい、と岡田先生。

「医師になった最初の段階で『男児の腹痛はパンツの中まで診察しなさい』と教わります。精巣の左右差もポイントです。『左右のどちらかが明らかに大きくなっていないか』『精巣の位置に違いはないか』『陰嚢の皮膚が赤くなっていないか』を確認してみてください」(岡田先生)

発症から6時間以内に手術が必要

では、子どもの様子から精巣捻転が疑われる場合には、どのように対処したら良いのでしょうか?

「必ずしも、発症と同時に腫れなど見た目に変化が出てくるわけではないので、子どもが陰部の痛みを訴えている場合は、明らかな見た目の変化がなくても医療機関へ相談しましょう」(岡田先生)

精巣捻転を起こしているのかどうかの判断は、エコーを当て、精巣に血流があるかどうかを確認します。

「しっかり精巣に血流がいっていれば、大丈夫。捻転でなかったらひとまず緊急性は低いわけですから、他の病気を疑うことになります」(岡田先生)

ただ、発症のタイミングが夜中から朝方が多いとなると、通常のクリニックは診察時間外の可能性が高くなります。

「夜中に痛みだしたら朝まで待つという判断はしないで、とにかく急いで受診してください。まずは救急外来に行き、医師にエコーで診断してもらうようにしましょう。『精巣捻転』は、発症から治療までの時間をいかに短くするかがとても大事なのです」(岡田先生)

子どもが痛みを訴えてから、精巣捻転と判断されて手術をするまで、なんと6時間がタイムリミット!

「6時間以内に患部を開いて、ねじれを解消しなければ、精巣は壊死してしまい、摘出になる可能性が高まります。病院に着いてから診察をして、手術の同意書を書いたり採血したりするだけで、2時間ぐらいすぐに経ってしまいます。時間のロスはなるべく減らしたいですね」(岡田先生)

保護者も子どもも正しい知識で対応を

一方で、ねじれの具合によって、急激に起こった痛みが少し和らいだりするケースもあります。これが、精巣捻転の厄介なところです。

「どのぐらいねじれるかによって、症状の出方は違います。本当にひどいと、360度以上ぐるぐると二重にねじれてしまい、その場合は遮断のされ具合が強く、痛みも急激です。しかし、緩くねじれるというケースもあります。この場合は、体勢などによっては、血流が戻るようなタイミングがあったりして、『最初はすごく痛かったけど、病院来たらちょっと落ち着いてきた』なんてことも」(岡田先生)

また、手術ではなく身体の外から治す施術もあるにはある、と岡田先生。

「たいていねじれる方向は決まっているので、我々泌尿器科医は『本を開く方向(外側)へ』と言うんですが、応急処置的に、試しに解除できるか対応してくれる場合もあります。

ただ、それで改善した場合も精巣を固定する手術は必要になるので、手術設備と常勤の泌尿器科医のいる大きな病院を受診することが一番望ましいです」(岡田先生)

いかに早く手術に辿り着けるか

いかに早く手術に辿り着けるか

そしてもうひとつ、緊急で病院にかかる際に覚えてほしいことがある、と岡田先生。

「受診の際に受付スタッフや医療者に『精巣捻転かもしれない』と一言伝えてください。緊急性が高いという性質上、早めに診察の優先度を評価してもらう必要があります。時間勝負の疾患なので、普通に問診表を書いて、順番待ちをして……という時間のロスは極力避けたいです」(岡田先生)

精巣捻転に関しては、手術が半分、診断も兼ねているといいます。開けてみないと確実にはわからない病気だからです。

「『手術をしてみたら捻転ではなかった』というケースもありますが、精巣捻転の手術は、泌尿器科領域の手術の中では、リスクや身体への負担はそれほど大きいものではありません。『疑わしきは手術で確認』というのが基本的な方針です。精巣捻転において重要なのは『いかに早く手術できる病院に辿り着けるのか』に尽きます。一方で、地域によって医療事情は様々なので、必ずしも自力で行ける範囲にそのような総合病院があるとは限りません。

夜間は特に相談先が限られてしまい、保護者のみで情報を得るのにも限度があります。#8000(電話で小児救急の受診先について助言を聞ける)や自治体が提供する医療相談窓口も活用してください」(岡田先生)

痛みが強い場合は救急車を

命にかかわる病気ではないので、「必ず救急車を呼ばなければいけない」というわけではありません。しかし時間勝負の緊急疾患であるため、子どもの痛みが強い場合や夜間早朝で受診先がない場合には、救急車を呼んでもよいということ。

「精巣捻転は思春期の男子に発症することもあり、『思春期の発症は羞恥心によって受診が遅れることが大きな問題』と言われています。この記事にたどりついた男子には、「精巣の痛みがあればすぐに病院受診すること」の重要性をぜひ覚えておいてほしいですね。病院で勤務する医師は、患者さんが病院までたどり着いてくれないと何もできません。一人でも多くの方にこの病気を知ってもらい、少しでも早く適切な処置を受けてもらえるように願います」(岡田先生)

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次回は、幼児期に多い精巣(金玉)トラブルについて。乳幼児期の健診で、おちんちんをみたり、精巣(金玉)をさわったりされたことありませんか? それって必要なの? と思った保護者の方、実は大事な確認だったのです。

2回目は、「乳幼児期に多い睾丸トラブル」について。引き続き、岡田先生にお話を伺います。

取材・文/遠藤るりこ

岡田百合香先生による「精巣(金玉)トラブル」は全3回。
2回目を読む。
3回目を読む。
※公開時よりリンク有効。

『泌尿器科医ママが伝えたい おちんちんの教科書: 0才からの正しいお手入れと性の話』著:岡田百合香(誠文堂新光社)

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