空から見るニッポン。ただいま、群馬県中之条町の上空です!
中之条町は南に榛名(はるな)山、西に草津白根山を望む山深い地。湯どころとしても有名だ。四万(しま)温泉はじめ、沢渡(さわたり)温泉や尻焼(しりやき)温泉などがある。四万温泉の『積善館』は映画『千と千尋の神隠し』で登場する建物のモデルの一つといわれ、宿には宮﨑駿(はやお)氏のサインが飾られている。尻焼温泉は川の一部の底から湯が湧く温泉。沢渡温泉は“草津温泉の上がり湯”と呼ばれ、やわらかい湯が肌をなめらかにしてくれる。
離着陸も大変でとにかく寒い……けれど冬の絶景が待っている
雪国で空撮をしようと思うと、離着陸の場所探しで苦労する。
冬に群馬県中之条町で飛んだときも、場所探しの間に雪道で車がスタックしてしまい、地元の方に助けてもらうというトラブルがあった。
離着陸場所に選んだところには40㎝ほど雪が積もっており、一人で十数m四方の雪を踏み固めて離陸場所を作った。
大変な思いをして離陸に至ったあとに見る、上空からの景色はいつにも増して美しく感じられた。
木々に覆われた山肌はグレーに、平坦な場所は雪に埋もれて白い。野反(のぞり)湖は凍って雪に覆われて真っ白になっていた。曇り空の下で全体的に彩度のない景色となり、白と黒で描かれた水墨画のような静かな風景だ。
視界は曇っているとはいえ高層雲のため遠くまで見渡すことができ、榛名山や浅間山も冬らしい透明度が高く思える大気の中で、くっきりとした山容を見せている。高度2000mまで上がると、140㎞ほど離れた富士山まで見えた。反対側には草津白根山の姿がある。ただ風が強く近づくことができなかった。
冬に飛ぶととにかく寒い。厚い防寒着を着込んでグローブも大きなものをつけなくてはならないため、動きづらくなる。装備を完璧にしていても飛んでいると手足がかじかんできてしまうが、冬でしか見られない美しい景色と出会うと寒さを忘れて撮影に没頭してしまう。
この日も最終的に高度2400mほどまで上がって撮影。降りる頃には手の感覚がほとんどなくなっていた。そのあとに入る温泉は格別だ。
取材・文・撮影=山本直洋
『旅の手帖』2024年2月号より
山本直洋
空飛ぶ写真家
1978年、東京生まれ。モーターパラグライダーによる空撮を得意とする”空飛ぶ写真家”。現在、世界七大陸最高峰を空撮する、成功すれば世界初のプロジェクト「Above the Seven Summits Project」を計画中。