百合子は“一応”常識人? 黒ちゃんとのラブラブ生活の中、よぎる一抹の不安ーー『忍者と殺し屋のふたりぐらし』百合子役・大久保瑠美さんインタビュー
コミック電撃だいおうじにて連載中のハンバーガー先生による漫画『忍者と殺し屋のふたりぐらし』。本作のTVアニメが、2025年4月10日(木)より好評放送中です。
アニメイトタイムズでは、百合子役・大久保瑠美さんへインタビューを実施。作品や百合子の魅力をはじめ、恋人の黒の印象や彼女を演じる喜多村英梨さんとの掛け合い、和気あいあいとして収録現場など、様々なエピソードをお話いただきました。
【写真】『にんころ』大久保瑠美が語る、黒と百合子の凸凹カップルの魅力|インタビュー
百合子は“一応”常識人?
――原作や台本をご覧になった際の印象からお話いただければと思います。
百合子役・大久保瑠美さん(以下、大久保):最初はタイトルに“殺し屋”という単語が入っているので驚きました。忍者と殺し屋という、どう考えても交わりそうにないふたりが一緒に暮らしていることがあまり想像できなかったんです。だけど絵柄が凄く可愛かったので、まずはどんな物語なんだろうって気になったことを覚えています。
ちょっとバイオレンスなところはありますが、人の死を茶化している訳ではなくあくまで職業としてふたりとも殺し屋をやっている。それで忍者のさとこには物を葉っぱに変える力があるから、その力を必要とするこのはと組んでお仕事をしていくことになる。この流れが綺麗に描かれていたので、個人的には読んでいて「こんなに人が死んじゃうんだ……」みたいに引くことはなかったかなと。
凄く可愛いお話だけど、よくよくよくよく考えてみると「あれ、ちょっと待てよ……?」みたいな。そういう引っ掛かりがちゃんとある魅力的な作品だなって思いましたね。
――忍者と殺し屋というと、ある意味では結構近いところにいるというか、仕事上のライバルになりそうな感覚があります。
大久保:最初、私は忍者と殺しがイコールで結びつきませんでした。むしろ、私がこれまで演じた事のある忍者はどちらかというと偵察や町を襲う悪者と戦っていたので可愛い印象だったんです。
この作品では殺し屋をやっているこのはが手慣れていて、それが彼女にとっては日常の1コマだということは凄く理解できます。だけど、理解できるからこそ日常にしたらマズイのではないかみたいな引っ掛かりが面白く、キャッチーな部分なのかなと感じました。
――そんなこのはにあっさり殺されて、さとこに葉っぱにされてしまう子たちにもちゃんと名前があって、豪華なキャストさんが声を当てられているのがまた凄いですよね。
大久保:「原作でも名前はあるんですけど本編中にはあまり出てこなくて、サクッと葉っぱにされちゃう子たちが多い印象があります。アニメはオリジナル展開も多いし、キャラクターデザインもかなり凝ってますね。
第1話に登場したみちるというキャラクターがいるのですがあの子もアニメオリジナルキャラクターで、私は第3話からの登場だったのですが、みちるちゃんをみた時に「こんなキャラクターいたっけ!?」と驚きました。後に、アニメオリジナルの忍だと気付いたので、原作ファンの方にも“原作と全く同じではない要素“を楽しめると思います!」
――本作のメインであるさとことこのはの印象はいかがでしょうか?
大久保:さとこ演じる三川華月ちゃんと初めてご一緒したこともあって、どんなお芝居でくるのか最初はわからなかったんです。
花澤さんはこのはのようなクールな役をいくつか演じられている姿を見たことがあるので、こんな感じのお芝居をされるのかな?という想像はしていたのですが改めてこのはのお芝居を聴くとさとことのバランスが良くてビックリしました。ふたりの掛け合いのテンポ感がとても良かったんです。
そもそも、この作品はちょっと早めに収録が進んでいたこともあって、後から調整するので尺やボールドが押しても、掛け合いの流れで台詞のテンポの良さを重視して受け答えをしても構わないという指示が最初にありました。それもあってか、ふたりの掛け合いはスムーズで心地よく、本当にピッタリだなっていう印象を持ちました。
第1話~第2話でしっかり関係性やお芝居が出来上がっていたので、出番のないシーンは普通にアニメを見ているような感覚でふたりの掛け合いを楽しんでいました!
――物語としてもふたりの関係性がどういうものなのかもわかりやすいですよね。
大久保:このはは謎が多いところも魅力的なのですが、この最終話までの間にさとことの関係性はかなり変わっていきます。それこそ出会い頭に蹴り飛ばすようなところから、最終話まででふたりの関係性がどう変わっていったのかもこの作品の見どころだと思います。
黒ちゃんと百合子は出来上がっているところがありますが、さとことこのはのふたり暮らしはこれから。最初は台所で寝ていたさとこが……!? みたいな驚きもあると思いますし、ただ可愛いだけじゃないし、ちょっとバイオレンスなだけでもない。ふたりの関係性が変わっていく様をゆっくり、じっくり見ていってください!
――それでは、大久保さんが演じられている百合子の印象や魅力に感じたポイントについてお聞かせください。
大久保:この作品の中心人物は忍者と殺し屋なこともあって、百合子は“一応”常識人という立ち位置になるのかなと。ただ、一緒に暮らしている黒との出会いがまだ描かれていないので、どうして恋をして一緒に暮らすようになったのかは明かされていませんね。
もう恋人同士としてラブラブな環境が出来上がってはいるのですが、黒ちゃんがヒモ状態……なんだけど、そんな相手の面倒を百合子はしっかり見てしまう。やっぱりどこかおかしいですよね。だって、忍者の里なんてところを抜けて来た相手を受け入れている時点で、確実に百合子もちょっと変じゃないですか(笑)。だから一応は常識人という立ち位置ですが、私としてはその方向よりもあまり物事を深く考えすぎないように演じていましたね。
忍者や殺し屋という存在に一番近い一般人という意味では百合子は常識人ですが、作中で一番の常識人だと吉田さんになるのかなと。だから、優しいお姉さんというよりも、そんなに物事を深く考えすぎない懐の深い女性というイメージですね。
――確かに、懐が深く無かったら素性の怪しい黒とはお付き合いできないですよね。演じる上でのディレクションなどはありましたか?
大久保:それがなかったんですよ。あまりに無さ過ぎたので、「本当にこれでよろしいですか?」と私の方から思わず確かめてしまうほどでした。方向性の指示やディレクションが無いと不安にもなるのですが、それだけ私の演じる百合子とスタッフさんたちの解釈が一致していたのだろうな、だからきっと問題無かったんだろうなと思うことにしています。
また、ディレクションではないですけれど、百合子以外にもいくつか兼ね役があったんです。クレジットにはおそらく載らないのですが、例えば、第3話であれば赤ちゃんとワンちゃん、コンビニ店員、百合子の4役を演じていて。もし第3話を配信や録画でもう一度ご覧になる際は、「これも大久保瑠美だぜ」「あれも大久保瑠美だぜ」と気にしてもらえると嬉しいです(笑)。
何せ収録は人数が限られているので、殆どメインキャストしかいないこともあったんです。だから私が演じていたりすることもあったのですが、そこに気を割けるくらい百合子についてディレクションがなかったんです。きっとそういうところもピッタリだったのかなって思います。
――黒が競馬にハマるきっかけになったであろう、おじさんに泣かされた赤ちゃんも演じられているとは……。
大久保:十万馬券を当てて喜ぶおじさんの声にビックリして泣いちゃう赤ちゃんですね。アフタートークで喜多村さんとその話をしたこともありました。この作品はアフレコが終わった後に色々書き込む「にんころノート」を公開していたり、放送後にアフタートークを配信していたりとそういうところも面白いんです。そこでこのお話をしていたりするので、にんころノートもアフタートークも楽しんでください!
花澤さん&喜多村さんと並んでシャフト作品のメインキャラクターを演じる感動
――喜多村さん演じる黒の印象はいかがでしょうか?
大久保:あまりにもダメな人なのですが、その具合は実は原作よりもアニメの方がマイルドなんです。原作はもうちょっと「おお……やってんな……」みたいな。女性だとしても「この人は自分が一緒にいないといけないのでは」という人に惹かれる人はいると思います。黒ちゃんはもうそういうタイプなのかもしれませんね。
百合子はそんなダメな黒ちゃんが「パチンコに行かない」「働く」と誓っておきながらも約束を破ってしまうのに、お小遣いを渡して面倒を見ている。その時点で恋愛に関しては、物事を深く考えていないし、若干相手に依存してしまうような性質なのかなって。
黒ちゃんは凄くカッコいいし優しいけれど、百合子はおそらくそんな彼女のダメなところにハートを刺激されているんだろうなっていうのは感じています。悪い女ですよ、黒ちゃんは……!!
――第1話冒頭に関しても、自分ひとりではなくさとこや仲間たちを連れて脱走をするという一面がありますし、結構打算的というか。
大久保:そうなんですよ。黒ちゃんは最初から登場していてさとこの面倒を見たり、意外と心配していたりするので優しいかと思いきや、過去に付き合っていた女の子の名前をあっさり間違えたりする。おそらく黒ちゃんは、情は滅茶苦茶あるんだけど、いざ自分や自分に近しい人のことになったら……。
百合子のことは大事にしてくれていますし、私は絶対に無いと思っています。でも、もし今後、百合子と何かがあって遺恨を残さずお別れしたとしたら、きっとそういう扱いになってしまうんだろうなっていう一抹の不安を一瞬覚えました(笑)。
少なくとも原作やアニメでのラブラブっぷりを見ていたら、もうふたりはゴールインでしょう。だけど、一緒に痴話喧嘩をいっぱいするシーンは演じていて楽しかったので、また喧嘩はしてほしいなって思っています。
――さとこやこのはに関しては百合子との生活に支障をきたすような原因になった場合、連絡を断ったりはしそうな予感があります。
大久保:黒ちゃんの中の上下関係では、おそらくさとこよりも百合子が上だろうなと。さとこが困っていてそれが百合子にも影響するなら動いてくれるだろうけれど、いざどちらか選ばなきゃならないとなったら、きっと百合子を選ぶと思います。
そういうところもきっと百合子は好きなんですよ。ダメンズならぬダメウーマンに引っ掛かってしまったのかなと思いますが、そういうところも魅力的なので。だから黒ちゃんを好きになる気持ちはわかりますし、私も黒ちゃんは好きですね。
――喜多村さんの声が付いた黒の印象はいかがでしょうか?
大久保:私の中で喜多村さんは、可愛い女の子からハキハキとしたしっかり者の女性まで、様々なお芝居をされる方だという印象があります。なので、黒ちゃんみたいなカッコいいけどダメな一面もある女性はどんなお芝居でくるのかなと思っていたのですが、もう聴いた瞬間にキュンとしました!
新人の頃、『にんころ』と同じシャフトさん制作の作品に番組レギュラーのモブキャラクター役で出演していたことがあって、その作品では喜多村さんがメインキャラクターのひとりを演じていて。当時の私はモブでしたが、今は喜多村さんが演じるキャラクターの恋人役を演じられることになったので、本当に光栄だなという感慨もありました。
そういうところもあって個人的にも凄く嬉しかったですし、役としても素直に「黒ちゃんいいなぁ、好きだなぁ」ってなりました。競馬新聞を楽しんじゃう、「そういうところは『しょうがないなぁ』って思いながら、でもカッコいいし良いか!」と思わせてくれる。そんな可愛さとカッコよさを兼ね備えたお芝居が素敵だなって思います!
――新人の頃からというと、かなり前から喜多村さんの背中を見ていたんですね。
大久保:昔からアニメや漫画が大好きだったのですが、喜多村さんはそんな私が子供の頃から見ている作品に出演されていたんです。花澤さんもそうなのですが、実は私もおふたりと年齢的にはそこまで変わらないんです。だけど芸歴はかなり上なので、そういう意味では花澤さんよりお姉さんの役を演じるのも個人的には衝撃的で。
――花澤さんと&喜多村さんはかなり前から第一線で活躍し続けていらっしゃいますものね。
大久保:お仕事として考えると、そんなおふたりと並んだ立ち位置に自分がいることに感動があります。大先輩である喜多村さんが演じる黒の恋人役であり、花澤さん演じるこのはよりもお姉さんの役を、芸歴を重ねたことで自分が演じられる感動はやっぱり強かったです!
また、百合子はある意味、この作品のバランサー的なポジションだと思っています。ぶっ飛んでいるさとことこのは、そしてマリンもどちらかというとそのタイプ。黒ちゃんもまあダメな方となると、さとこの柔らかさだけではなくどこかに別の柔らかさが無いとバランスが取れなくなる。その役割を担うのが百合子だと思うので、選んでいただけて光栄でした。
――喜多村さん演じる黒と掛け合う上でどんなことを意識されていましたか?
大久保:喜多村さんの返しが本当に的確で、とても演じやすかったんです。割と私が先導してアドリブで喧嘩するようなシーンを演じることがあったのですが、そういう時は大体黒ちゃんが昔の女と絡んでいたり、だらしなかったりするので、「もういいよ......」みたいないじける感じのお芝居をすると本当に綺麗に返して下さるんです。
事前に打ち合わせることもありますが、そのシーンは当初アドリブをやるかわからなかったので、とりあえずテストの時に入れてみようかという感じになりまして。元々ある台詞の流れでもう少し必要だなと思って入れたアドリブに対して、「そんなこと言うなよ、百合子……」みたいにしっかり返してくれたので、ふたりの掛け合いはスムーズだったと思います。
後は第4話で家出してきたさとこがふたりの家に泊まることになりましたが、朝のイチャイチャシーンとかも、本当に想像通りの甘くてカッコいい黒ちゃんできてくれたので、私も「いやんダメダメ」みたいに存分に遊べました(笑)。
遊ばせてくれるって本当にありがたいことなんです。役者としても、こういうお芝居で遊べる時が一番楽しいなって思いますし。でもそれは自分ひとりの台詞なら良くても、相手がいる台詞だと出方によってはあまり遊びを入れる余地がなかったりするんですよね。だけどそれをしっかり作ってくれるお芝居だったので、なんなら私の遊び心もくすぐられました。喜多村さんが黒ちゃんで良かったなって思いますし、掛け合いができて本当に光栄でした。
――カッコいいんだけど、ふとした時にダメ男みたいな一面を出す感じが本当に絶妙でしたね。
大久保:パチンコ行って競馬新聞読んでとなかなかのダメ人間っぷりですが、原作はもっとダメなところがあったり、アニメにはない話があったりするんです。どちらも同じ『にんころ』ではあるのですが、アニメはアニメで多分この見せ方が面白いと思ってハンバーガー先生や、宮本幸裕監督ほかスタッフさんたちが制作に打ち込んでいるんだろうなって。
でもその基盤になっている原作にも、そこにしかないお話があるので、アニメを見たから、原作を読んだから、片方だけで良いのではなくて、両方をチェックすることでこの作品はより面白いって思えると思います。個人的にはどっちもチェックしてほしいですね。
私がタイトルを考えるなら「可愛さとグロさのふたり暮らし」
――印象に残っているシーンもお教えください。
大久保:第1話を初めて見た時は、オープニングとエンディングが可愛いなと思いました。オープニングに若干血痕の表現があるので匂わせられてはいるのですが、そんなバイオレンスなことが起きるとは思えないぐらい可愛かったなと。
あとは視聴者の方はみんな感じていると思いますが、とても可愛らしいカラーリングと作品の中にあるシャフト感ですね。私もそうなのですが、アニメ好きにとってはシャフトさんの作品からでしか得られない栄養があるので、それを盛り込んだ上でアニメオリジナルの刺客がやってきたりするのも印象に残りました。
原作のハンバーガー先生が脚本にしっかり関わっていらっしゃるみたいなので、その上で原作と違うところが多くなったのだと思いますが、最初は戸惑ったくらいです。だけど先生が入ってくださっているのなら、もっとこうした方が面白くなると考えてのことなので、今では漫画では表現できないアニメならではの良さとして入れているのかなと思っています。
みちるがブワッと上から降ってくるシーンがあるんですがアクションシーンが面白いしカッコいいし。「あれ、先輩!?」と言いながら横を向いているときに、ほっぺがぷにぷにと動くのですが、あそこもすごく細かくて好きでした。
第4話だと、黒ちゃんの元恋人のアヤカが襲撃してくるシーンでしょうか。だから百合子を亡きものにしようとしてくるのですが、あそこがひと段落したところで後ろで小さく「元カノ? 元カノなの!?」とアドリブで呟いていて。あれはアドリブで何か入れてほしいと言われて、百合子の恋愛気質なところを出すべく私が考えて入れたものなのですが、採用されていたのは嬉しかったですね!
――元カノを気にするのは、やはりそういう気質を感じますね。
大久保:だけど、アドリブだから黒ちゃんの返事はないんです。そこがふたりの関係性が見え隠れしているところなんですよ。黒ちゃんは昔の彼女のことを気にも留めていないけれど、百合子の方は気になってしょうがない。そこの対比が見えるのでちょっと面白いかなと思ったんです。結構薄く入っているアドリブなので、アヤカの襲撃シーンの後はしっかりチェックしてほしいなと思います。
――アヤカ以外にも忍者の里の追手たちについて、印象に残っているキャラクターはいますか?
大久保:どの子もキャラクターデザインが滅茶苦茶可愛いですよね。本当にみんなあっさり死んでしまいますが、演じるキャストもM・A・Oちゃん、羊宮妃那ちゃん、石見舞菜香ちゃんととにかく豪華です。この後も豪華な面々が続いていきます!
――また、先ほどシャフト感という話がありましたが、もう第1話の冒頭からシャフトさんだとわかるような映像に仕上がっていましたよね。
大久保:原作のさとこが里を抜けるシーンは、回想で一致団結して「おー!」みたいなシーンがあるのですが、実はそんなにハッキリとは描かれていません。私も第1話冒頭を初めて見た時は、見る作品を間違えたのかと一瞬思いましたが、それが凄く良かったですよね。
ああいう作り方からも、監督やシャフトのみなさんの才能というか、アニメーションに対するこだわりみたいなものを感じました。百合子は第3話の後半からの登場になりましたが、そんな第3話ではさとこがアルバイトするシーンが想像していた100倍はグロくて。
『にんころ』はそんな可愛さとグロさがずっと共存しているので、もし私がタイトルを考えるなら『可愛さとグロさのふたり暮らし』にします(笑)。それくらい手を抜かないというか、きっちり表現するんだなというのが面白かったです。
――確かに、誰かの遺体はいつものこのはとのお仕事なら葉っぱに変えてしまうものなので、あそこのアルバイトのシーンで中々えげつない描かれ方をしているのは印象に残りますね。さとこのように、じっと見つめられているような気がしてきそうです。
大久保:アニメはこのまま来たのかと驚きました。あとは個人的に、百合子が一貫してこのはを「殺し屋ちゃん」と読んでいるところがちょっと面白いなと。少なくともアニメではずっとそうなっているのですが、多分ちょっと遊んでいるんです。私の印象ではあるのですが、このはのことをほんのちょっとからかっているのって、百合子くらいなんですよね。
台詞についても言い回しを気にしていたところが結構あって、このはから「あなたのことはどうでもいい」みたいに言われた後に、「えっ、私はじゃあどうなってもいいってこと?」「こわーい」とおちょくってみたり、第3話でも「殺し屋ジョーク?」といったことを本気で言っていましたから。
このはに対しては嫌味にはならないけれど、おちょくるのを忘れないというか。そこに大人の余裕が入ってくる方がいいなと考えてこのあたりの台詞は言っていました。そういう細かいところで、ちょっと大人の余裕を醸し出しているところを見てもらえたらなと。
――メインの4人の中だと一番大人びているというか、ちゃんとした仕事をしてヒモ状態の黒を養って一番しっかりしているというのは間違いなさそうですしね。
大久保:そうなんです。本当にいい女ではあるんです。「それって私には死んでほしいってこと? こわーい!」って言うところも、自分の中では本気で引いている感じではなく、これからも仲良くできる関係値を保つラインで留めています。
このあたりはオーディション原稿にもあった覚えがあるので、最初から常にそのラインを意識しながら演じていました。だから、この役に決まった時は正解だったのだと自信を持てました。
――百合子役はオーディションで決まったんですね。
大久保:この作品は黒ちゃんと吉田さんと百合子の3人は、完全指名のみのオーディションでした。オーディションの形式には結構色々なパターンがありまして、誰でも受けて良いものもあれば、他のキャラクターも受けて良いけれどある人は特定の役を必ず受けてくださいと指定されるタイプもあって。
百合子は完全指名で受けてくださいと依頼がきたので、それが自分としても嬉しかったです。穏やかな大人の女性はこれまでも演じることがありましたが、私にこの役が合うのではないかと誰かが思ってくれて、指名を出してくれるというのは本当にありがたいことです。それがピタリとハマって選ばれたのも嬉しかったですし、アフレコはもう終わっているのですが現場も本当に楽しくて……。
――そんなアフレコ現場の雰囲気もお聞かせ願えればと。
大久保:収録は少人数で進みました。どんなに多くても10人行くか行かないかくらいで、本当に少ない時は2人〜4人くらいの時も多かったです。追手の忍者たちはすぐ死んでしまうので、Aパートでもういなくなっちゃう人も多かった。
でもメインキャストは凄く仲が良かったので、一緒にバーベキューに行ったりアフレコ終わりに何度かご飯に行ったりしています。芸歴が長い先輩の花澤さんと喜多村さんがいて、その下の世代の私と芹澤優ちゃんがいて、フレッシュな若手の三川華月ちゃんがいるみたいな感じで、そのバランスも結構よかったですね。
華月ちゃんは本当にさとこそのままというか、放つオーラが癒しというか、ほんわかしていて可愛い。思わず面倒を見たくなる愛嬌があって、とても話しやすい子だなという印象でした。花澤さんは周りを凄く気にしてくれていて、「ご飯行く?」って自分から誘ってくださったり。そういう交流がある現場ってあんまりなかったりするんです。
やっぱりみんな忙しいから、次の予定があることの方が圧倒的に多くて、打ち上げがあったら行くみたいなパターンが多いんですよ。けれど『にんころ』の現場はアフレコ終わりのご飯やスケジュールの合うメンバーでお花見に行ってバーベキューをしたり、その後にもう一回音響打ち上げというスタッフさんを交えてのお食事会があったりと、交流が多かったので楽しかったです。
――そこまで雰囲気が良いとアフレコ現場でも何か印象に残ることがありそうですが……!?
大久保:おそらくXとかに上がっているのですが、華月ちゃんが謎の服を着て収録に来てくれたことですね。第1話の時は忍者の服だったそうなのですが、それを聞いて凄く興味が湧いちゃったんです。
後、アフレコ現場には椅子の後ろに物を置けるスペースがあるのですが、そこに華月ちゃんが手裏剣とクナイを置いていることに私は途中まで気付けませんでした……! 花澤さんに言われて見てみたらその日はなくて、「今日はないの?」って尋ねたら「ごめんなさい、次は必ず持っていきます!」と言ってくれたり。
他には、第2話に登場した“ユニコーン”と書いてある謎のトレーナーを作ってきてたこともありましたね。バーベキューの日にもきていました。
普段はアフレコ現場のエピソードを聞かれても、仕事場ですからそんなに事件があることはないと答えるのですが、『にんころ』の現場は事件しかなくて面白かったですね。「多分アフレコ現場で面白いことありましたか?」と尋ねたら、全員これを答えるんじゃないかなと思うくらいです。
華月ちゃんは、そういう話のきっかけになってくれる素敵な子だなって思っています。彼女が主役で中心になっていたことが、より仲良くなれた理由なんじゃないかなと思います。
黒と百合子の凸凹カップルが緩和剤になっていると嬉しい
――今後の作品の見どころもお教えください。
大久保:やっぱりイヅツミマリンの活躍でしょうか。百合子と黒ちゃんもメインキャラクターではありますが、今後はさとことこのはを主軸としつつ、マリンがふたりにちょっかいを出す流れになっていきます。
マリンはああいう見た目なのですが、何かをやらかすのは間違いありません。だけど、何故かマリンのほうがどちらかというと被害者のイメージが強かったりして、なんだか可哀想だなぁってなる瞬間があるんです。やっぱりそういうところは可愛いので、ちょっとダークな側面とともに注目してもらえればと。
かなり先の話になるのですが、百合子についてはこの人もやっぱりちょっと変だなと感じる瞬間が2回はあります。アニメオリジナルシーンだと思うのですが、もしかして昔は中二病だったのかなと思わされました。そんな中二病が講じてお祓いみたいなことをするシーンがあったり。私的にはそのお祓いが面白いので見てほしいです!
そして、絶対に忘れちゃいけないのがロボ子。オープニングで登場しているシーンを見てもわかるのですが、華月ちゃんのお芝居も含めてもう全てが面白いキャラクターじゃないかなと。マリンが作った存在なのですが、さとこだけどさとこじゃないっていう面白さがあります。
オープニングにこのはがロボ子にコテンって寄りかかるシーンがあるのですが、このふたりはちょっと良い感じになっていくのかな?っていう瞬間があります。だけど角ばっていて、さとこではなく明らかにロボ子なんです。あのシーンが全てだと思って構わないと思います。あそこで面白味を感じた人は、きっとこの先も爆笑できるはずです!
――忍者の里の追手以外にも、小倉唯さん演じる吉田碧子は気になるところです。
大久保:吉田さんの話は結構重めかなと思います。殺し屋という存在の描き方がこの作品では少し柔らかめにはなっているのですが、第1話で彼女のお父さんを亡きものにしてしまったので、なんとなくわかってもらえるのではないかと思っています。やっぱりこのはは殺し屋なんだと思う瞬間があったりもします。
この作品はそういう緩急があるところも見どころだと思います。見る人によっては「それはしないでくれ」と思うかもしれません。私もそうなのですが、じゃあそこまでして殺し屋ランキングを上げたい理由って何なんだろうとか、このはに対しての興味が沸くエピソードでもあるので、そういった要素も楽しみにしてください。
――殺しという要素が関わっている以上、そういった展開もやはり見られるんですね。最後に放送を楽しみにしている視聴者のみなさんへのメッセージをお願いします。
大久保:ここまでお付き合いいただきありがとうございます。『にんころ』は可愛くもちょっとバイオレンスなところがあり、とても緩急のある作品だと思います。さとこがバイトしているシーンとかをはじめ、ちょっとシュールだったのではないかなと。
そんなところに黒ちゃんと百合子の凸凹カップルが、いい緩和剤になっていると嬉しいです。お話を進める上で、このふたりが登場するとちょっと安心してワチャワチャできる……そんな存在になっていると思います。
なので、そんなふたりのラブラブとたまにちょっと暴走するところなんかを見ていただきつつ、この後から登場するマリンは凄いですし、ロボ子はそれ以上に凄いです。見どころばかりになっているので、さとことこのはの関係性が最終話までにどう変わるのかを楽しんでもらいながら1クールを楽しんでもらえると嬉しいです! きっと最終話まで見終えたら、第1話に戻りたくなると思います。
――次回登場する喜多村さんへお伝えしたいことやお聞きしたいことなどもお教えください。
大久保:「百合子はちゃんと色っぽかったでしょうか?」ですね。私の中ではかなり色っぽさを重視していたので、喜多村さんにも色っぽいなと思ってもらえていたらいいなって思います。黒ちゃんは凄くカッコよくて、どんなにダメでも好きだと思わされました。喜多村さんのお芝居でより黒ちゃんを好きになれたので、百合子の色っぽさで少しでもいい女だなって感じてもらえていたら嬉しいです!
――ありがとうございました!
[取材・文/胃の上心臓]