リシャール・ミル RM 43-01 トゥールビヨン スプリットセコンドクロノグラフ フェラーリ:腕にまとうF1マシン
フェラーリとリシャール・ミルのパートナーシップ第2弾は、極限まで突き詰めたクラフツマンシップの結晶である。
authorcharlie thomas
時計とモータースポーツの関係は、古くから非常に密接であった。レースにおいて不可欠な「タイム」という要素が、その結びつきを支えてきた。時計はレースにおけるチームとドライバーの成績を測るにあたって、核心的な役割を果たしている。
しかし、両者のつながりはそれだけにとどまらない。時計とレーシングカーは、どちらも精密に組み合わされた複雑なメカニズムによって動き、それぞれの部品の総和以上の力を発揮するという点で似通っている。
1970年代以降、多くの時計ブランドがF1というモータースポーツの頂点と結びついてきた。しかし、その華やかな世界観をこれほどまでに体現したブランドは、リシャール・ミルをおいて他にない。
2001年に創業されたスイスのブランド、リシャール・ミルはスポーツウォッチの概念を変えた。斬新なシェイプのボディと、極限までスケルトン化された複雑なムーブメントを融合させ、まったく新しいデザインの時計を創り上げたのである。
リシャール・ミルのアイデンティティはすぐに確立された。トノー型ケースにはカーボンTPT®️やチタンといった素材が採用され、軽量性と耐衝撃性が徹底して追求された。やがてジェイ・Zやファレル・ウィリアムスらが歌詞の中でこのブランドの名を挙げるようになった。
2004年には新たな節目が訪れる。F1参戦2年目の若きドライバー、フェリペ・マッサを初のファミリーとして迎えたのだ。異例だったのは、そのパートナーシップに金銭のやり取りがなかったこと。代わりにマッサには、F1マシンのドライブ中も身に着けられる時計が贈られた。
今回、リシャール・ミルとフェラーリの最新コラボモデル「RM 43-01 トゥールビヨン スプリットセコンドクロノグラフ フェラーリ」の発表の場で、私はマッサ本人から話を聞くことができた。
「当時、スポンサーになってくれる時計ブランドを探していたんだ。そんなとき、マネージャーがある雑誌でリシャール・ミルの写真を見つけてね。そこに電話番号が載っていたから連絡してみた。ブランドの人と話していたら、その人が『今リシャール・ミル本人がいますよ。代わりましょうか?』って言ってきた。もちろん『ぜひ話したい』って答えたよ。あとは、すべてがうまく転がっていったんだ」
「リシャール・ミルはF1の世界に参入し、ドライバーを支援することに非常に前向きだった」とマッサは続ける。「彼は既に僕のことを知っていて、『まったく新しい時計、RM 006 トゥールビヨン フェリペ・マッサを開発している。史上最軽量のトゥールビヨンになる』と話してくれた。そして、『ぜひ君にアンバサダーになってもらいたい。しかも実際にレース中にも使ってほしい』と言ってくれた。ただひとつだけ、『今は会社への投資で資金が厳しく、ギャラは出せない。でも、君がRM 006 トゥールビヨン フェリペ・マッサを使ってくれたら本当にうれしい』と彼は言った。僕はその提案がとても気に入って、それ以来、すべてのレースでリシャール・ミルの時計を腕に着けて走ってきた。このブランドのアンバサダーになるというのは、フェラーリに入るのと似ている。いったん仲間になれば、ずっとファミリーなんだ」
これは実に巧妙な戦略だった。マッサはその2年後、フェラーリに移籍し、数々のレースで優勝争いを繰り広げ、2008年にはコンストラクターズ・チャンピオン獲得に貢献。彼自身、そして彼を長年支え続けたリシャール・ミルの両方に大きな露出と名声をもたらした。マッサは2013年にフェラーリを離れ、2017年にF1から完全引退したが、その頃にはリシャール・ミルはマクラーレンとパートナーシップを結び、さらに2021年には正式にフェラーリとのパートナーシップを結んだ。
その提携から最初に生まれたのが、驚異の超薄型モデルRM UP-01 フェラーリだ。厚さわずか1.75mmという技術の粋を極めた1本だった。そして今回パリで、マッサやアラン・プロストが立ち会う中、発表された最新作が「RM 43-01 トゥールビヨン スプリットセコンドクロノグラフ フェラーリ」だ。
このモデルは、より“リシャール・ミルらしさ”を表現したデザインで、印象はややクラシックだ。しかし、その中身は圧倒的である。現役フェラーリF1ドライバーのルイス・ハミルトンとシャルル・ルクレールの腕を飾るこの時計は、スプリットセコンド クロノグラフを搭載したトゥールビヨン。素材はグレード5のマイクロブラストチタン、もしくはカーボンTPT®️。それぞれ限定75本、価格はチタンモデルが115万スイスフラン、カーボンTPT®️モデルが135万スイスフランで、2億円となっている。まさに「スペシャル」の名にふさわしい逸品である。
この時計をさらに特別な存在にしているのが、フェラーリ由来のディテールの数々である。フェラーリのチェントロ・スティーレ(デザイン部門)と、チーフ・デザイン・オフィサー、フラビオ・マンツォーニとの共同制作により、この2本の時計には、跳ね馬が生み出すロードカーやレーシングカーから引用された意匠がちりばめられている。
ムーブメントのリファレンスナンバーには、365 GTBのシャーシナンバーを模した星印が施されている。ブリッジ部分は488 GTBのクランクケースにインスピレーションを得てデザインされている。さらに、ムーブメントのネジは、現行の6.5リッターV12エンジンに使用されているネジと同一の外観を持つ。
そのほかにも、ストラップにはプロサングエのシートに採用されたパターンが反映され、跳ね馬のロゴプレートは、ル・マン優勝車499Pのリアウィングのエンドプレートの形状から着想を得ている。
フェラーリはこのパートナーシップをどのように捉えていたのだろうか? フラビオ・マンツォーニはこう語る。
「まず、最初に考えなければならないのは、互いに共有する価値観です。完璧を追求する姿勢、革新への飽くなき探求、そして美・テクノロジー・パフォーマンスという三位一体……など、たくさんの共通点があります。私はチームとともにこのプロジェクトに取り組み、そのビジョンをクルマから時計へと転写しようと試みました。結果には非常に満足していますし、誇りに思っています」
では逆に、今後のフェラーリのクルマが、リシャール・ミルのスケルトンムーブメントやTPT®️ケースから影響を受けることはあるのだろうか?
「双方向のフィードバック・プロセスがあるので、もしかするといつか、未来のクルマの中にこの驚異的な旅路から生まれた要素が見つかるかもしれません」
マンツォーニの言葉からは、リシャール・ミルとフェラーリのコラボレーションが単なる外注ではなく、相互の美学と技術が融合する真の共創であることが伝わってきた。