港南区の平和祈念館 「AI語り部」、児童に初披露 県が開発 戦争体験継承へ
港南区大久保にある「かながわ平和祈念館」で3月25日、人工知能を活用した「AI語り部システム」の初めての体験会が約20人の児童に対して行われた。同システムは県が戦争体験を後世に伝える活動を行ってきた「語り部」の減少を受けて開発されたもの。
これまで学校や町内会などの地域団体に対して、語り部を多く派遣したきた県の福祉子どもみらい局。戦後80年を迎えようとするなかで課題となっていた「語り部の減少」の解決策として「AI語り部システム」を開発した。同システムは事前に収録した戦争体験談の中から質問の回答に適した映像をAIが選択。本人がその場にいなくても質疑応答をすることができる。約130個の回答が用意されている。
今回は、13歳の時に長崎市内で被爆した横浜市在住の西岡洋(93歳)さんによる体験談を2日間かけて収録。質問に沿った内容の回答をシステムが選択して、画面越しの西岡さんが語る仕組みになっている。
質問に適した回答
体験会当日は、大型のモニターで戦時中のことを語る西岡さんの姿を30分ほど放映。「原爆投下の瞬間は周囲が光で包まれたと思ったら4、5秒後に爆風が来た」、「自宅に帰ったら窓ガラスが粉々になって、全てが壁に突き刺さっていた」など、当事者だからこそのエピソードが語られた。
その後はAI語り部が児童たちからの質問に沿った回答映像を放映。戦争中に欲しかった物について尋ねられた際には、「無いのが当たり前だったので、あまり物を欲しなかった。卵焼きが好きだったので卵が欲しいとは思った」とモニターに映る西岡さんが答えた。それからは、「亡くなった人を見て、怖くなかったのか」など多くの質問を受けたが、全て1秒ほどで質問に沿った内容を話していた。体験会に参加した児童は「戦時中の暮らしの大変さを学ぶことができた」と話した。
会場で様子を見守っていた西岡さんは「すごい技術だと思う。戦争体験者は減ってきているので、生き残っている我々が後世に情報を残していきたい。そのなかでAI語り部を活用して欲しい」とシステムの活用に期待を込めた。
学習に活用
今後、AI語り部システムは県内小学校をはじめとした教育機関で行われる平和学習などでの活用を想定している。また、かながわ平和祈念館での常設展示も検討されている。県の担当者は「戦争体験を継承することで平和の尊さを感じてもらえれば。今後は別の語り部の方々にもご協力いただいて、多くの体験談を収録していきたい」と方針を明かした。