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漁師が人手不足を解消できたたった一つの理念とは? 過酷な一次産業だからこそ「労働力として扱わない」

新しい働き方メディア

過酷な一次産業の慢性的な働き手不足に頭を悩ませ、6年前から利尻の昆布干しバイトに京大生を受け入れたことで、人手不足を解消させた、利尻島の漁師、小坂善一さん(47歳)学ぶ人手不足の解消方法。

京都大学の学生が昆布を干すために利尻島に

「利尻島京大昆布干しバイト」という名称で、京都大学の学生を中心に、全国の大学から応募があり定員オーバーとなる人気バイト。この成功の背景にはどのような秘訣があったのでしょうか。

京都大学の学生を受け入れているのは、北海道の利尻島で漁師を営む小坂善一さん(47歳)に話を聞きに利尻島に行きました。

利尻島は車で全島一周しても2時間ほどの小さな島で、島の中央には日本百名山のひとつ、利尻岳がそびえています。利尻といえば、利尻昆布、エゾバフンウニ、ホタテ、ナマコなどの海産物が有名。利尻昆布は京都の有名料亭に欠かせない食材で、特に利尻のウニやナマコは高値で取引される高級食材です。

海の恵み豊かな利尻ですが、農業や酪農、養鶏といった産業はなく、漁業で成り立つ島です。

しかし、島を支える漁業には深刻な“人手不足”の問題があります。漁師の高齢化と後継者不足により、労働力は季節労働者やアルバイトで賄われています。

一次産業特有の過酷な労働環境や条件のために人が定着せず、毎年新たな労働力の確保が難しい状況です。さらに近年の働き手不足により、「利尻でも労働力の奪い合い状態」になっていると小坂さんは言います。

時給1800円、朝3時に起きて昆布を干す

「漁師の仕事は海の仕事だけではなく、丘の仕事もあります。網から魚を外したり、ウニを殻から取り出したりと非常に手間がかかります。特に昆布漁では、1日の漁で2000〜4000枚の昆布を手作業で並べて干す必要があります」と小坂さんは語ります。

昆布漁は昆布を収穫したあと、その日のうちに天日で乾燥させなければならず、スピード勝負。一回の昆布干しで20人くらいの人手が必要になります。

しかも利尻昆布の特徴はそのサイズ。ゆうに2メートルを超える肉厚の昆布をすべて手作業で一枚ずつ並べて干し、数時間後には裏返して両面を完全に乾かします。湿気が残ると白くなって商品価値が下がってしまうからです。

小坂さんは身内と地元の人の繋がりでかろうじて人手を確保。しかし、「みんな80代にはいり、だんだん体力がなくなってきた、腰が痛いとなってくるんです」。

そこで、京都大学の学生をバイトとして受け入れることを決意。通称「利尻島京大昆布干しバイト」と呼ばれるこのバイトがスタートしたのは6年前。

時給1800円、宿泊完備、食事支給という条件で、毎年約20名の学生が参加しています。昆布干しの仕事内容は、朝3時から昆布干し(約2時間)、夕方3時に回収(約2時間)。漁があれば1日4時間で7200円。1週間ほどで飛行機代は回収できる計算です。ただし、天候により漁がなければ仕事は発生しません。

学生は労働力ではなく、関係人口

「最初は不安もありました。ここにいる間は共同生活なので、学生たちがストレスを感じないようにするにはどうしたらいいか。仕事に関しては、最初は、あれ? と思うこともありましたが、理解も早いしも改善能力もとても高い。さすが京大だなあと思いました」

昆布干しがある日の楽しみは、早朝昆布干しが終わったあとの朝食。たっぷりの利尻昆布で出汁をとったみそ汁にご飯が用意されます。そして、宿舎に支給される食材も漁があれば豪華になるという。学生にとっては漁のあるなしはバイト代だけでなく、日々の食生活にもかかわります。

でも学生は口を揃えて「漁がなくても、ちょっとお小遣いくれたり、海に連れて行ってくれたり。この前はみんなでバーベキューしたんですよ。めちゃくちゃ豪華でした」と言う。

学生たちとの日々の交流

取材中、2週間ぶりのウニ漁で殻むきを手伝った宮本くんがビニール袋にいっぱいのエゾバフンウニを京大荘に持って帰ってきました。「小坂さんがくれた」「おおおお!」と大歓声があがる場面も。

「昆布干しの様子を毎日YouTubeで配信したらどうですか? スパチャで稼げますよ」と学生ならではのアイデアを小坂さんにぶつけたりもします。

昆布干しは重労働。干す時は皆黙々と体を動かし、仕事が終わればよく食べ、よく笑い、よく語り合います。

深刻な人手不足に頭を悩ませていた6年前。「京大昆布干し」という新たな取り組みは徐々に根付き、小坂さんの一番の願いである関係人口を増やし始めています。

「京大昆布干し」バイトはリピーターも多く、今年は昨年に続き、2回目という学生が2人。最近では20名の募集に対して定員を上回る応募があり、嬉しい悲鳴をあげています。

さらに、昆布干しバイトがきっかけで、利尻に住み着いた学生も。利尻では廃業となった養鶏の復活を模索しているといいます。

多くの一次産業の現場で人手不足に喘ぐ中、人材獲得に成功した秘訣は、小坂さんの言葉に集約されます。

「単に労働力としてだけ見るのではなく、関係人口を作っていく。もちろん労働力も大事なんですが、それ以外のところを大事にしています」

漁師の世界に風穴

しかし、小坂さんのこれらの取り組みは、古くから漁業に携わる親方からは「甘い」と言われることも。

「過酷な時代を生き抜いてきたから、僕のやっていることは先輩の親方から見たら甘いと思われるかもしれません。ここが一次産業の難しいところです」

利尻の漁業を守るためには、利尻のブランドかと流通量の確保が大事だと考える小坂さん。そのためにも漁師の後継者を増やし、人手不足を解消することに取り組んできました。

漁師が嫌で会社員に

昆布干しを一次産業を知るだけでなく、人として成長してほしいと願う小坂さん

そんな小坂さんは「一次産業の仕事は自分にはできない」と大学を卒業後、証券会社に就職。しかし、交通事故で両親を亡くします。「長男の自分が父の仕事を継ぐしかない」と26歳で漁師に。

「もう、辛くて辛くて。はじめの3年は地獄でしたね」

だからこそ、利尻の漁業を守りたい。「そのためにはどうしたらいいか?」を考え、実践し続けてきました。

小坂さんが体験してきた漁業バブルと栄枯盛衰の一次産業のリアルは関連記事から読めます。

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