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新型特急「やくも」のトータルデザインに大賞 「病院列車構想」は特別賞 藤井七冠も選考委員務めた「日本鉄道賞」(東京都渋谷区)【コラム】

鉄道チャンネル

「日本鉄道賞」大賞を受賞したJR西日本の特急「やくも」用新型車両273系

北陸新幹線の福井・敦賀延伸、東海道新幹線の開業60周年、訪日外国人には全国の観光列車が人気と話題尽きない2024年の鉄道界。上げ潮に乗る31回目の「鉄道フェスティバル」(10月13、14日、東京・お台場)には、前年の約4万5000人を大幅に上回るおよそ8万人のファンが来場したそうです。

一方で昨今の鉄道は、相次ぐ自然災害や地方ローカル線の再生と課題山積。その解決の糸口になるのが、23回目を迎えた「日本鉄道賞」です。10月16日の「鉄道の日祝賀会」で、プロジェクト5件が表彰を受けました。

今回は大賞のJR西日本の特急「やくも」プロジェクトと、選考委員会特別賞の「病院列車構想」の2件を取り上げ、選考理由を深掘りしました。

選考委員に藤井七冠

最初にトピックス。今回の日本鉄道賞は通常は鉄道ニューススルーのスポーツ新聞などにも取り上げられました。理由は一つ、選考に鉄道ファンとして知られる将棋の藤井聡太七冠が加わったためで、表彰セレモニーで次の通りスピーチしました。

鉄道愛あふれるスピーチで会場を拍手の渦に包んだ藤井七冠(筆者撮影)

「一利用者、一ファンとして楽しんできた鉄道を、今回は違う角度から見ることができ、大変勉強になりました。鉄道を通した地域活性化の取り組みが多くあったのが印象に残った点。私自身悩みながらも、大変楽しく選考させていただきました(大意)」

大賞は新型特急「やくも」

日本鉄道賞は「鉄道の日」実行委員会による公的表彰制度。表彰式は2024年10月16日、東京・渋谷のセルリアンタワー東急ホテルで開かれました。

選考委員は藤井七冠のほか、東京大学大学院工学系研究科の古関隆章教授(委員長)、国交省の五十嵐徹人鉄道局長、交通新聞社の中村直美常務ら。22件の応募がありました。

最優秀賞の大賞は、「特急『やくも』~沿線の文化・風景・自然とお客様、鉄道が交感する列車」。受賞者はJR西日本です。

「やくも」プロジェクトで日本鉄道賞大賞を受賞したJR西日本の長谷川一明社長(左)と関谷賢二理事・鉄道本部車両部長(右)(筆者撮影)

外装は、沿線の風景にマッチする「やくもブロンズ」。走行機構は、カーブ区間に適した「車上型制御付き自然振り子方式」、車内にはグループ向け「セミコンパートメント」も、といった新鋭273系特急のセールスポイントは、皆さまよくご存じでしょう。

【参考】ブロンズの車体が印象的な特急「やくも」の新型車両「273系」お披露目 新しい振り子で乗り心地を改善
https://tetsudo-ch.com/12916179.html

鉄道を地域に溶け込ませるデザイナー

筆者が、深掘りしたのはデザイン会社・イチバンセン。表彰式には川西康之代表取締役が出席しました。

イチバンセンは社名で分かるように、鉄道が得意分野(鉄道以外の作品も数多くあります)。高知県の土佐くろしお鉄道中村駅リノベーション、えちごトキめき鉄道の観光列車「リゾート雪月花」が代表作です。

川西さんはかつて新快速として走った117系を改造した長距離列車「WEST EXPRESS 銀河」のデザインも手掛けます(写真:鉄道チャンネル編集部)

川西さんは、鉄道を地域に溶け込ませながら作品に仕上げるデザイナー。2010年の中村駅リノベーションでは、駅を訪れる人がグンと増えて鉄道が存在感を高めましたが、実践したのは駅のコミュニティ拠点化。明るく生まれ変わってベンチやテーブルが置かれた駅には、高校生やシニアがやってくるようになり、鉄道にも相乗効果をもたらしました。

今回のやくもプロジェクトも基本は共通。車両デザインはもちろん駅、乗務員サービス、さらにはもてなしまで統一コンセプトでまとめ、沿線をブランディングしました。

車両以外の注目点は、山陰側始発の山陰線出雲市駅の待合室。間接照明や地産家具のインテリアがぬくもりを演出し、発車を待つ人たちの表情をなごませます。

「一人でも多くの命を助けよう」

続いて、選考委特別賞から「鉄道の災害医療への活用(病院列車構想)」をピックアップ。受賞者はRail DiMeC研究会です。

発案者は早稲田大学総合研究機構医療レギュラトリーサイエンス研究所の梅津光生名誉教授と、同研究所の小峰輝男招聘(しょうへい)研究員、そして兵庫県災害医療センターの島津和久救急部副部長ら。梅津教授らは2023年5月、個人レベルで「Rail DiMeC(鉄道の災害医療への活用)研究会」を立ち上げました。

「鉄道の日」実行委の森地茂会長(政策研究大学院大学名誉教授・客員教授、左)から表彰選考委特別賞を受けるRail DiMeC研究会の梅津早大教授(右)(筆者撮影)

2024年1月の能登半島地震でも活躍が報じられた、災害派遣医療チーム「DMAT(ディーマット=Disaster Medical Assistance Teamの頭文字)」。目標は「一人でも多くの命を助けよう」です。DMATメンバーは、全員が医療関係と思われがちですが、実は輸送(けが人の搬送や資機材の物流)も重要な役割を受け持ちます。

神戸市営地下鉄海岸線でトライアル

特別賞の病院列車構想、簡単にいえば大規模災害の発災時、DMATの医療機器や簡易手術室を鉄道で現地最寄り駅に運び、初動対応につなげる救命救急の取り組みです。救急車やドクターヘリとも連動し、けが人を列車で搬送するプランもあります。

課題になったのが、揺れる走行中の列車内で医療行為が可能なのか。研究会は2023年11月、神戸市営地下鉄海岸線で医療活動や患者搬送を実証実験。有効性を確認しました。

神戸市営地下鉄海岸線での模擬医療活動や、リニアモーター駆動の5000形車両も並ぶRail DiMeC研究会のキービジュアル(画像:国土交通省)

Rail DiMeCをめぐっては、JR貨物と日本通運からも情報発信されます。両社は2024年9月27、28の両日、政府の「令和6年度大規模地震時医療活動訓練」の一環として、関西線百済貨物ターミナル(大阪市)、神戸貨物ターミナル(神戸市)~東海道線相模貨物駅(神奈川県大磯町)間でDMAT車両搬送を実証。こちらにも、兵庫県災害医療センターが参加しています。

JR九州、宇都宮ライトレール、東武鉄道に特別賞

このほか、選考委特別賞を受賞したのは、「ATS-DKをベースとしたGOA2.5自動運転実現について」(受賞者・JR九州)、「HELLO NEW CITY芳賀・宇都宮LRTライトライン」(栃木県宇都宮市、同芳賀町、宇都宮ライトレール)、「『挑戦』と『協創』により沿線地域のすばらしさを発信する新たなフラッグシップ特急 ~プロジェクト『SPACIA X』~」(東武鉄道)。J

受賞理由はそれぞれワンポイントだけで恐縮ですが、JR九州の自動運転は鉄道の未来を開拓する技術の革新性、宇都宮ライトレールはまちの景観に溶け込む新しいLRT、スペーシアXは首都圏の鉄道観光のシンボルになる新特急を評価しました。

JR九州の香椎線では2024年3月からGoA2.5自動運転を開始(写真提供:JR九州)
北関東最大の都市、宇都宮に2023年8月開業したライトレール。快速の運転も始まり、利用者数も当初の想定を上回る伸びを示しています(写真:鉄道チャンネル)
東武日光駅に停車中の「スペーシア X」は浅草~日光・鬼怒川温泉間をゆく新型特急として2023年7月にデビューしました(写真:鉄道チャンネル)

記事:上里夏生

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