発足10年「釜石地方梅栽培研究会」生産者最多に 梅酒製造後の“漬梅”活用で地サイダー誕生
梅酒製造に使うウメの実の生産者、漬梅(製造後のウメの実)の活用業者らで組織する釜石地方梅栽培研究会(前川訓章会長、34会員)は6月25日、本年度総会を釜石市栗林町の砂子畑集会所さんあいセンターで開いた。2014年に発足した同研究会は10年を経過。梅酒を製造する地元酒造会社、浜千鳥(新里進社長)は会員からの継続的な原料の供給で、年間約9千~1万本の販売数を維持。課題だった漬梅の活用も進んでいる。総会では漬梅を活用した新商品も紹介された。
総会には会員と県や市の農林担当者ら18人が出席した。前川会長(78)は「今年のウメは全国的に不作という情報を耳にした。自分のところも昨年の3分の1程度になりそう。自然界相手で結果を出すのは大変だが、新会員も増えてきている。できることをやって安定供給に努めたい」とあいさつした。
事務局を務める浜千鳥によると、昨年度の青梅の集荷(期間:6月15日~7月5日)は6134キロ(前年度対比226%)で過去最高を記録。出荷者は22人(うち会員21人)だった。漬梅は3914キロ発生し、県内外で1074キロが再利用された。廃棄率は67%。
本年度は生産者の会員が過去最多の31人に。総会では大船渡農業改良普及センターから病害虫防除の方法や収穫の注意点、市水産農林課から地域振興作物、農産物加工品開発を支援する補助金などについて説明があり、両機関の指導を受けながら栽培技術の向上、生産の安定化を図ることを確認した。来年1月に例年通り、せん定や病害虫防除の講習会を開く。役員改選では前川会長(栗林町)、山崎元市副会長(鵜住居町)が再選された。任期は2年。
同研究会は廃棄されていた漬梅の活用策についても模索してきた。これまでに県外の業者の買い取りのほか、20年に開店した魚河岸テラスのジェラート店での活用、22年に大槌町の甘輝舎(研究会会員)が盛岡農業高と共同開発した「浜梅ジャム」の商品化が実現している。こうした取り組みで22年には廃棄量ゼロを達成した。
本年4月には、釜石振興開発(研究会会員)が「梅しゅサイダー」(税込み250円)を新たに発売。漬梅をシロップに漬けてさらにエキスを抽出、風味が飛ばないようにアルコールをじっくり抜いて、釜石の“地サイダー”として仕上げた。下川原繁夫部長(かまいし特産店店長)は「アルコール度数は0.1%未満で、麺つゆなどと同レベル。子どもにも安心して飲んでもらえる。梅酒好きな方にもおいしく召し上がっていただける」と太鼓判。サンプルを提供した販売店からも注文が入っているという。「県内他地域の地サイダーとの区別化を図り、地元飲食店などでの定番需要にもつなげていければ」と下川原部長。県内では道の駅釜石仙人峠、同遠野風の丘、かまいし特産店(シープラザ釜石2階)などで販売中。
片岸町の麻生三陸釜石工場(研究会会員)でも漬梅活用の研究が進む。総会では試作品を紹介し、出席者から意見を聞いた。
総会後はウメの実の集荷も行われた。栗林地区では今季初で、会員らが収穫したばかりの青梅を持ち寄った。この日出荷したのは4人で計400キロ。3~4種、10数本を栽培する川崎充さん(76)は「昨年は一番の豊作だったので、それに比べれば今年は少ないと思う。ウメ栽培は定年後に始めた。少しでも収入になるのはいい」と話す。規模の拡大については「本数を増やすと今の時期、暑くて作業が大変」と現状維持を望んだ。
ウメの実の収量はその年の気候に左右されるという。今年は春先の気温が高めに推移し開花が進んだが、満開の後に気温が降下。実になり始めたころに強風に見舞われ、多くの実が落ちてしまったという。前川会長は「毎年のことだが、良い悪いはどうしてもある。平均して右肩上がりにいけばいいが、そうもいかないのがウメ」と難しさを語る。それでも遊休農地などを活用し生産者は少しずつ増えていて、今後、出荷可能になる木も増えていくとみられる。
浜千鳥の梅酒は2011年7月から発売。720ミリリットル入りに加え、21年からはコロナ禍の巣ごもり需要を背景に300ミリリットル入りが仲間入りしている。