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予期せぬ妊娠は「だらしない」のか…産んで終わりではない“支援”と背景に見える生きづらさ

Sitakke

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夫や親族がいないなど、支援が必要な妊婦が増えています。
しかし、その支援の網からこぼれ落ちる人がいます。
背景にある見えない生きづらさを考えます。

札幌市内の病院に泣き声が響きます。
元気な女の子の赤ちゃんです。

助産師に「おめでとう」と声をかけられたのは母親のゆきさん(仮名 当時22)。

思いがけない妊娠でした。
赤ちゃんの父親として思い当たるのは2人。どちらかはわかっていません。

頼れる家族もおらず、たったひとりでママに。

ただ、ゆきさんの出産を心待ちにしてくれた人たちはいました。

妊娠中から密着…見えてきた姿

少しだけ時間をさかのぼります。
2023年2月、妊娠8か月のときのゆきさんがいたのは札幌市にある「リリア」という施設。

ゆきさんはここで、出産の前後約7か月間を過ごしました。

「リリア」は、思いがけない妊娠に悩む女性たちが、一時的に無償で住むことができる居住スペースです。

すすきののガールズバーで働いていたゆきさん。

妊娠を機に辞めたため、収入が途絶え、生活は困窮しました。

幼いころに親が離婚して母親に引き取られましたが、3歳から児童養護施設に預けられました。
そのため頼れる家族もおらず、ここにたどり着いたのです。

「出産」「養子」「中絶」

さまざまな選択肢のなかで自ら育てることを選びました。

産んで終わり、ではないからこそ

ゆきさんに時におせっかいに、親子のような会話をみせる相手。
「リリア」の相談員の佐々木友美さんです。

「ごはんあるの?」と聞くと「いらないです」とゆきさん。

佐々木さんは「ダメだよ…ごはんないの?」とさらに話しかけます。

妊娠前は、ろくに食事もとらず、酒ばかり飲んでいたゆきさん。
もう自分だけのからだではありません。

佐々木さんは赤ちゃんと過ごす生活を考え、ゆきさんに料理の習慣をつけてほしいと考えました。

「リリア」の支援は、“居場所”の提供だけではありません。

「『自分で育てたい』という彼女の希望があるので、時におせっかいなことも言って険悪にはなるけれど…一緒に買い物をして、予算を決めて『きょうのミッションは3000円』と言いながら、買い物カゴに商品をいれていく」

ゆきさんは、妊娠に気づくまで、ホストクラブに通い、1日で数十万円を使い込むこともありました。

「承認欲求を満たしてくれる」
「人に必要とされるのが嬉しかった」

それが通っていた理由だといいます。

そんなゆきさんの今後のためにも、金銭感覚も身に着ける必要があったのです。

赤ちゃんだけでなく、「母」となる女性のための支援。

ただ、産んで終わりではないのが子育てです。


1歳になったゆきさんの赤ちゃん

2024年の春。ゆきさんの姿は母子生活支援施設にありました。

夫のDVから逃げたり、予期せぬ妊娠などで夫がいなかったり…
事情のある親子が暮らす施設です。

ゆきさんが生活している施設は、20世帯の親子が入所できる独立した個室と、子どもが遊べる共用スペースなどを備えています。

施設の職員が、緊急時の子どもの預かりや育児のサポートなどもしてくれます。

ここも「リリア」と同じように、“困り感”を抱える女性たちの居場所です。

ゆきさん親子もこの場所にいることで、社会的に孤立した状態から免れることができました。

「かわいいから」だけではやっていけない

赤ちゃんは、1歳の誕生日を迎えました。

毎日、ミルクの量や回数など書きためた日記はこの日で一区切り。

見返してみると、生まれたばかりのころはミルクの回数も多く、「大変なこともあったなあ」と、ゆきさんはしみじみ思い出していました。

ハイハイして、笑って、立って…我が子の成長を喜ぶゆきさん。

その一方で…。

ゆきさんは、子育ての一番の手本となる「母親」に頼れません。

赤ちゃんが泣いているときも、風邪をひいたときも、すべて手探りです。

「『子どもが好きだから』『赤ちゃんがかわいいから』と思っていたけど、それだけじゃやっていけないって身に染みて感じたかな」

見えにくい困難とも、ずっと闘っていました。


妊婦の「孤立」の先に…背景の生きづらさを見つめる

妊婦が孤立した末に、赤ちゃんを遺棄する事件が全国で後を絶ちません。

孤立妊婦の支援活動を行う、熊本県の精神科医・興野康也(おきの・やすなり)氏。

この日は、香川県で乳児3人の遺体が見つかり、殺人・死体遺棄に問われた母親の裁判で、弁護側の証人として法廷に立ちました。

どうして彼女たちが事件を起こしたのか。

「残忍」というイメージをつけられてしまう、女性たちの犯行の背景にある「生きづらさ」を見つめるためです。

「精神科的にみると、孤立出産の問題というのは小さいころまでさかのぼるような問題。大人になって単にSOSを出さずに出産したのではなくて、もっと根の深い問題になる」

軽度な発達障害や精神疾患を抱え、“困り感”はあったものの、医療や支援に繋がっていないケースがほとんどだといいます。

「医療・福祉・行政がSOSを出せない人を早く発見して、そういう人の場合踏み込んだ支援をするような体制を作らないといけない」

興野氏はそう話します。

「私がママじゃない方が…」

「きょうも頑張ろう…」

そうつぶやくゆきさんも、“生きづらさ”を抱えています。

子どものころからの自傷行為…
継続的な医療につながっておらず、出産後に精神科に再び通い始めました。

「もちろん産んでよかったし、こうやっていま一緒に生活できてるのはうれしいけど、たまに私がなんていうんだろう…私がママじゃないほうがいいんじゃないかと思うときがある」


根本の課題に目を向けるために私たちはどうするのか

「予期せぬ妊娠」で孤立してしまう女性たち。

「自業自得」と片づけられてしまい、その背景にある根本の課題には目をむけられていないことが多いのです。

さらに、精神疾患や生い立ちは、「かわいそう」だけど「甘えている」と言われることも多く、社会の理解はまだまだ進んでいません。

ゆきさんは薬による治療も受けていますが、病状が悪化したときに頼れる人がいないことが心配です。

国は、支援が必要な妊婦に対する支援策を進めていますが、自治体によってばらつきがあるのが現状。

見えにくい“生きづらさ”を抱える人がこぼれ落ちてしまっています。

人吉こころのホスピタル 精神科医の興野康也氏は、「障害があるからといって、罪を犯していい理由にはならない」と前提を話します。
そのうえでこうも指摘します。

「特性を理解せずに責めるだけでは『相談すると怒られる』『自分のせい』と思い込み、SOSを出しにくくなる」

妊娠は女性の身体的、精神的負担が大きいわけですが、これは女性だけの問題ではありません。

事情のある女性がいるということを男性側も理解する必要があるし、男性側の責任も考える必要があるのではないでしょうか。

「孤立妊婦」について、「だらしない」という言葉でくくらないこと。
支援の第一歩は社会全体の理解を進めていくことから始まっていきます。

文:HBC報道部
編集:Sitakke編集部あい

※掲載の内容は取材時(2025年3月14日)の情報に基づきます。

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