石鹸の原料となる海藻『ツノマタ』で作る珍味「海草こんにゃく」は酒の肴として美味
千葉県や茨城県の一部には「海草こんにゃく」というちょっとユニークな惣菜があります。
銚子の伝統料理「海草こんにゃく」
全国屈指の水産物水揚げ高を誇る漁業の街・千葉県銚子市。ここと利根川の対岸側にある神栖市波崎地区には、全国でここにしかないユニークな海産珍味が存在します。
その珍味とは「海草こんにゃく」。ときに「海草」というシンプル極まりない名前で呼ばれるこの珍味は、海藻の入っているこんにゃく……ではなく、海藻を煮溶かして固めたものです。
海草こんにゃくはまさに名前の通りこんにゃくのような見た目をしており、質感も柔らかいこんにゃくのような感じです。
原料の海藻「ツノマタ」とは
この海草こんにゃくは「ツノマタ」とその近縁種である「コトジツノマタ」という海藻で作られます。これらの海藻は当地に独特のものではなく、全国にありふれた一般的なものです。
海草こんにゃくがユニークなのは、このツノマタを「食用としている」こと。ツノマタは我々の生活に欠かせない海藻ですが、その用途はほとんどが「土壁の材料」ならびに「石鹸の原料」となっており、食べる地域は殆どありません。
ツノマタは水とともに加熱すると融解し、粘りを持つ液状になります。これを土と混ぜると接着剤の役割を持つのですが、土と混ぜずにそのまま再凝固させてつくる食材が海藻こんにゃくなのです。
どんな味がするの?
海藻の仲間には寒天の材料として知られるテングサをはじめ、いくつかの「煮ると溶けて冷えると再凝固する」ものがあり、またそれを用いた食材が全国各地で作られています。特に有名なものは、エゴノリという海藻を原料とし、福岡で食べられている「おきゅうと」でしょう。同様のものが日本海沿岸各地で作られています。
細い糸状のエゴノリと違い、ツノマタは薄い板状で溶かしづらく、また凝固力もやや弱いために、海草こんにゃくは、エゴノリを原料とするものと比べるとやや滑らかさに欠けます。
しかしエゴノリ加工食品と比べると磯の香りが強く、溶け切っていないツノマタのパリパリとした質感が残り、珍味としてはとても美味しいと思います。個人的には酢味噌をかけて食べると酒の肴にぴったりだと感じます。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>