「お前を帰さない!」IT営業マン、炎上案件に投入されて客にコーヒーかけられる 当時の状況を詳しく聞いてみた
営業職は、時に顧客からの想像を絶する要求や対応に直面することがある。神奈川県在住の浅岡さん(仮名、40代男性)も、約15年前に外資系IT企業の営業として勤務していた際、取引先のある行動に「びっくりした」と語る。
その相手は浅岡さん曰く、「誰もが知っている大手通信事業者」。編集部は浅岡さんに、壮絶だった営業体験を聞いた。(文:天音琴葉)
電話でアポイントを取り、2日後に挨拶に訪問。ところが……
当時、浅岡さんが勤務していたのは、サーバーやPCなどを扱う外資系IT企業だった。約15年前のある日、大手顧客の担当を突然任されることになった。その顧客とは、前述の通り、誰もが知る「通信大手」だ。
前任者が急に転職で辞めたため、引き継ぎは一切なかった。不安を抱えつつも、浅岡さんは電話で「急で申し訳ありませんが、担当者が退職し、担当変更になりました」と伝えた。その際にアポイントも取り、その2日後に挨拶に訪問した。
しかし、この挨拶が修羅場と化すことになるとは、この時は知る由もなかった。実は、浅岡さんの会社が納品したサーバーに初期不良があり、その通信大手の担当部署は不満を抱えていたのだ。
「非常に細かいお客様で、故障内容の原因追及や対応が気にくわなかったようでした。ただ、過剰とも思える対応やサポートを求めていると感じました」
「希望が通るまでお前を帰さないからな!」コーヒーを手に取り……
こうして“炎上中”の案件に、引き継ぎなしで投入された浅岡さん。だが、そうとは知らず通信大手に挨拶に訪れると、担当者である40歳前後の男性は、すでに怒り心頭の様子だったという。「中肉中背で眼鏡をかけ、少し陰険そうな感じの方でした」と、浅岡さんはその人物の印象を語る。
担当変更の経緯を説明しようとするも、当該男性は聞く耳を持たなかった。
「お客さんは『あんたらの対応の甘さに腹が立っている』みたいな形で激怒し、目の前のテーブルを強めに蹴った記憶があります。その衝撃でテーブルが私のお腹に当たりました」
担当者が特に腹を立てていたのは、初期不良対応の内容とスピードだった。修理ではなく、数営業日で新品と交換しろ、というのが先方の言い分のようだった。
浅岡さんは契約に則り、初期不良は基本的に修理対応となることを謝罪しながら丁寧に説明したが、担当者の怒りは収まるどころかエスカレートするばかりだった。
「こっちの希望が通るまでお前を帰さないからな!」と怒鳴り、挙げ句に信じられない行動に出たのだった。
「紙コップに入っていたコーヒーを私にかけました……」
障害対応でデータセンターに2日間軟禁されたことも
突然コーヒーを浴びせかけられたものの、
「正直びっくりしましたが、意外に冷静でした。ハンカチで拭きながら、初期不良の交換対応の内容について説明を続けました」
という浅岡さん。この冷静な対応が功を奏したのか、「コーヒーをかけても私が動じなかったので、お客様は次第におとなしくなっていきました」という。
かけられたコーヒーは、打ち合わせが始まってから20分ほど経過していたため、「生ぬるい温度」で、幸いにもやけどを負うことはなかった。しかし、「シャツだけでなく、スーツにもシミがつきました」と、その時の被害を語る。
実は、この通信大手との取引においては、以前からトラブルが絶えなかったという。そのためコーヒーをかけられた際の心境は、「あ~あ、こいつ面倒くさいな。今回はコーヒーかよ」と、怒りを通り越して呆れに近かった。
「グループ会社を含め、この企業は非常にやっかいで、別の方からもテーブルを蹴られたことがありましたし、障害対応でデータセンターに2日間軟禁されたこともありました」
報告を受けた上司はまさかの“ノーリアクション”
コーヒーをかけられた浅岡さんは、一部始終を会社に戻って上司に報告したが、返ってきたのは……
「特にノーリアクションでした。面倒見の良い上司ではなく、売上にしか興味のない人でしたので」
その後、件の顧客からは数台の追加オーダーがあったものの、浅岡さんは翌年にその外資系IT企業を辞め、転職した。後任の担当者も“コーヒー事件”を知っていたため、「特に積極的な営業活動はしていないみたいでした」という。
この一連の経験を通じて、浅岡さんは教訓を得たと同時に、後悔の念も抱いている。
「お客さんのコンプライアンスや常識を疑いました。他のベンダーもやられていると思いますので、お客さんのしかるべき部門に通報すればよかったと後悔しています」
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