「合わない放デイもあった」姉弟ともに発達障害。見極めの難しさ、高校生以上の支援への不安も【読者体験談】
監修:室伏佑香
東京女子医科大学八千代医療センター 神経小児科/名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程
姉弟ともに発達障害の診断。わが家の放デイ選び3つ条件
わが家の子どもたちは2人とも発達障害の診断が出ています。診断はともに小学校1年生の6月頃でした。現在大学1年生の娘はADHD(注意欠如多動症)、ASD(自閉スペクトラム症)のグレーゾーンで、注意欠陥の特性が高め。現在高校2年生の息子は、ADHD(注意欠如多動症)、ASD(自閉スペクトラム症)で多動、衝動性が強く、中学3年生の時に精神障害者保健福祉手帳3級を取得しました。
2人とも同じ診断名がありますが、特性は全く違います。
子どもたちに診断が出てから、市の障害者支援センターに相談を続けていました。担当の方から「お母さんも2人の育児で疲れてしまうでしょうから、放デイ(放課後等デイサービス)を利用してみませんか?」と提案されました。
当時私は、途方にくれていました。夫は協力的でしたが、私自身も持病があり家事もままならない状態。また、2人が一緒にいるとどちらかが癇癪やパニックを起こし、毎日が戦場のようでした。(少しでも子どもたちと離れる時間が持てるなら……)と、私の希望に合う受け入れ先を相談支援専門員さんに探してもらい、放デイの利用を決めました。
私が放デイ選びの条件にしたのは以下の3つです
・送迎あり(マスト)
・プログラムの内容よりも、生活リズムを整えてくれるかを優先
・生活リズムのため、曜日固定で利用できるところ
わが家は2人同時に預けられる放デイと、それ以外にも子どもたちそれぞれの特性に合った放デイを利用し、週3回利用していました。また「合わない」と感じた放デイをいくつか辞めています。
今回はわが家の放デイ利用についてお話します。
静かな環境が大事。支援だけでなく「夢」もくれた娘の放デイ
娘は人見知りで穏やかでおっとりした性格。周囲に優しいものの、自己肯定感が低く、自分を卑下してしまいます。そのため、静かな環境でやりたいことができる放デイを選びました。娘は簡単なお菓子作りを楽しく感じていたようで、お土産として持ち帰ってくれることもありました。夏休みなどの長期休暇には、お出かけ体験、プール遊び、近所の公園散歩など多彩なイベントがあり、楽しそうにしている姿はとても嬉しかったです。
また、放デイで重度の障害のあるお子さんと接する中で、「優しく接する気持ち」も育ててもらいました。娘は「特別支援学級の先生になりたい」との発言もあり。大学では、教員免許取得を目指しています。放デイには娘の「夢」もいただきました。
多動の弟には活動型放デイ。習い事で悲しい思いもしたけれど……
息子は利発で勉強好き、手先が器用ですがマルチタスクが苦手です。癇癪が起こると大パニックになり、多動であちこち走り回るため、居室が広く、壁登りやトランポリンなど室内運動ができる活動型の放デイを選びました。息子は活動型の放デイが好きで、夏場は水遊びができる施設が特にお気に入りでした。宿題を終えた後、その日のメンバーで遊びを決めるトレーニングなどもあり、成長に繋がったと思います。
余談になりますが、放デイのない日にやっていた習い事では悲しい思いをしました。
サッカーを習っていたのですが、小3のときにコーチから「障害のある児童は集団指導が困難だから辞めて欲しい」と言われたのです。泣く泣く退部しました。そんなつらい状況の中でも、放デイで生活リズムを作っていたので、大きく乱れることはなくホッとした覚えがあります。
その後、息子は柔道教室に巡り合い、ここでも体を目一杯、動かす楽しさを学びました。中学は柔道部。今も柔道教室に週1回通っています。
何か所か放デイを辞めたことも。見極めの難しさを感じて
放デイを利用するようになって、放デイから帰宅すると、夕食→入浴→就寝と流れができ、生活が安定しました。放デイで目いっぱい楽しんでくるので、すんなり寝てくれることも増えました。
送迎ありの施設を選んでいたので、私も帰宅した子どもたちを笑顔で迎えることができ、わが家が各段に落ち着いたのは本当に助かりました。
一方、新規オープンした放デイに通ったことがあったのですが、職員の入れ替わりが激しく子どもたちが落ち着かなくなってしまったことがあり、退所したことがあります。また、早いもの勝ちでスケジュールを押さえるシステムの放デイについては、生活リズムをつけるため固定の曜日で利用を希望しているわが家とは合わないと感じ、利用を辞めました。また、指導員の力不足を感じる放デイもいくつか見てきました。
新規参入の放デイが増えている中、どこがいい施設なのかという見極めは非常に難しいと感じました。通ってみて「合わない」と思ったら、無理せずに別の場所を探すことも大切だと思いました。
中学生からの放デイは?高校生が通える施設も増やしてほしい
わが家は、子どもたちと話し合い、小学校卒業と同時に放デイも卒業しました。
娘は「中学からは勉強に集中したい」と希望し卒業、息子はそんな姉を見ていたので、同じように辞めた形です。実際、中学生になると勉強や部活動が忙しく、中学での利用は難しかったと思います。
娘は、高校生になってから、一時期高校生向けの放デイへ通っていたのですが、こちらも時間がなくて通えなくなり、半年で辞めました。私の住む地域では、高校生への放デイの受け入れがほぼなく探すのが大変でした。思春期以降の子どもが利用できるデイサービスが増えることを期待しています。
わが家はどうなってしまうのだろう……という不安が和らいだ。一方、18歳以上の支援の少なさが心配
子どもたちが幼い頃は、(わが家はどうなってしまうのだろう)と不安でいっぱいでした。いろいろな方の支援があり、今の子どもたちの成長に繋がっています。
現在大学生の娘。高校生まではよくパニックを起こしていましたが、今は厳しい校則も無く、笑顔で夢に向かって頑張っています。課題に計画的に取り組み、留学費用のために、アルバイトも始め、教員になるため頑張っています。
息子は、幼少期からの夢を目指し、楽しく学校生活を送っています。難易度の高い資格試験に挑戦するという大きな目標に向かう姿は頼もしいです。息子に関しては、精神障害者保健福祉手帳を持っていることもあり、将来は障害者雇用も検討しています。
そんな成長した2人ですが、18歳を過ぎると支援の手が少なくなるのが不安のひとつです。今の大学は、障害学生支援制度が充実しており、入学事前面談を利用し大学内では支援を受けられていますが、この先、就労後はどうなるのか……。
娘、息子の気持ちを大切にしつつ、前に進んでいけたらと思っています。
イラスト/鳥野とり子
※エピソード参考者のお名前はご希望により非公開とさせていただきます。
(監修:室伏先生より)
お子さんお二人それぞれの 異なる特性に合わせて放課後等デイサービスを柔軟に選び、工夫して利用されてきたこと、とても素晴らしいと感じました。診断名は同じでも、実際の支援ニーズは全く違うこと、その違いをきちんと受け止めて 「一律ではない支援」 を求めていかれた姿勢はとても大切なことだと思います。
今回共有いただいた通り、一度利用を始めた放デイであっても、「合わない」と感じた場合は、無理に継続する必要はありません。お子さんの特性やご家庭の状況に合う施設はさまざまですので、ぜひ複数の選択肢を比較しながら検討してみてください。そうした柔軟な姿勢が、結果的にお子さんたちにより良い環境を提供することにつながっていると感じました。
放デイでのお子さんの学びももちろん重要なことですが、放デイがあったことで「帰宅後の生活リズムが整った」「親が時間的・精神的余裕を持って子どもを迎えられるようになった」という効果は、家庭内の親子関係の質にも良い影響を与えることが多く、これは 本人の情緒の安定にとってもとても大切な要素です。放デイの利用で、親子ともに安心できる時間が増えることの大切さを改めて感じるとともに、18歳以降も切れ目のない支援がさらに広がっていくことを願わずにはいられません。お子さんたちのこれからの歩みを心から応援しています。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如・多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。