きむらや ~ 常にアップデートし続ける、お客さんに寄りそう中華・エスニック料理を中心とした多国籍料理店
倉敷中央通りの中央一丁目交差点の付近にいつもお客さんでにぎわう飲食店があります。看板はなく、壁にシンプルに「きむらや」と書かれているだけ。食事をしている人が見えるけれど、どのような料理があるのだろうと興味を引き立てます。
「きむらや」は倉敷とことこでも紹介している「カレーとコーヒーのお店774(ナナシ)」を営む木村直貴(きむら なおき)さん(通称 なおきむさん)が営む2号店です。
カレーとコーヒーのお店774とはガラリとメニューもコンセプトも違う、飲食店きむらやを取材しました。
「きむらや」の建物について
きむらやは2023年11月11日にオープンしました。中華料理やエスニック料理を中心とした多国籍料理を提供しています。白壁風の外観で、古民家を改装した建物です。
きむらやの前は藤食堂という、約60年続いた食堂でした。きむらやは藤食堂の食堂、厨房部分と、かつておでん屋だった建物をつないで一つの空間にしました。2店舗を連結しているので、横に長い構造です。
テーブル席は、奥に少人数用の席、手前に大人数にも対応できる長方形の席、そして窓際に外の景色が見える席があります。みんなで食卓を囲んで、アットホームな雰囲気で食事をしてほしいとの想いで大きな席を設けたそうです。窓際の席はしっとりと食事をしたい人にぴったり。
入り口左側はかつてのおでん屋の部分で、こちらには厨房とカウンター席があります。
「お客さんとおしゃべりしながら、料理したかった」と話すなおきむさん。カレーとコーヒーのお店774(以下、774)には構造上作れなかったカウンターを設けました。
カウンター席からは料理を作るようすを間近に見られます。なんといっても、なおきむさんとの会話が楽しい。忙しく料理をしながらもていねいに受け答えをしてくれます。
なおきむさんと話したい場合は、ぜひカウンター席へどうぞ。
「きむらや」のメニュー
きむらやは夜の営業のみ。外観からは予想できない、中華料理やエスニック料理メインの店です。
メニューは、常時提供するものもありますが、短いスパンで変わります。訪れるたびに新しい料理に出会えることでしょう。
774ではカレーとスイーツを提供しているのに対し、きむらやはまったく違う料理。しかし、きむらやのベースとなるメニューは774の夜営業のときに提供されていました。
2024年7月現在、774は夜営業していません。
なぜ中華やエスニック料理なのか。理由は、なおきむさんが好きなことと、店があるエリアにはないジャンルだから。
同じメニューでも味のマイナーチェンジをすることも。
たとえばラーメンで次のような話があります。ある日、きむらやでたっぷりと料理とナチュラルワインを食べたお客さん。締めに、とラーメンを注文しました。
するとお客さんに、「ラーメン自体はおいしいけれど、締めには向かないなぁ。味が濃すぎるし、お肉が重いかな」と言われたそうです。
お客さんの言葉を受けて、一週間後には味を変更。
スープに昆布を入れて、返しを増やし、醤油やみりんで味を調整。角煮チャーシューのタレの量を減らして甘みを抑え、煮卵の味付けも控えめに。ねぎ油で香味を増やしました。
大きかった角煮チャーシューは薄くし、重すぎないように。締めにふさわしい一杯となりました。
「いったんラーメンを変えたけれど、ちょこちょこ変化をさせます。これからも改良していきます」となおきむさん。
常に最新の完成形を目指しアップデートし続ける、あつい想いが伝わりました。
何度でも楽しめる店
進化し続けるきむらや。メニューは常に変わるので、なくなる場合もありますが、食べたものを一部紹介します。
炒飯
常連客から絶大な支持を受け、定番メニューとなった炒飯。なおきむさんによると、こちらのメニューは今後も提供し続けるそうです。
驚くほどパラパラで、米一粒一粒がしっかりと立っています。プリップリ食感の大きなエビと角煮がごろっと入っていて、リッチな炒飯。メニューに迷ったらまず食べてほしい一品です。
出汁巻き卵中華餡
出汁巻き卵中華餡も定番メニューの一つです。天津飯の卵の部分が出汁巻きになった、と言えば伝わるでしょうか。和風と中華の良いとこ取りをした料理です。
シンプルだけど奥が深い出汁巻き卵。こちらも炒飯同様、訪れるときには必ず食べたくなる魅力があります。
アジフライ ピータンと奈良漬けタルタル
料理のセンスに驚く、アジフライ ピータンと奈良漬けタルタル。タルタルソースには、驚きの組み合わせのピータンと奈良漬けが入っています。
ピータンのプリプリとした食感もおもしろく、鶏卵と違う、まろやかさとコク、塩味があります。奈良漬けのほうは、ポリポリ食感に、甘みが。初めて出会う味のタルタルソースは、残すのがもったいないおいしさ。
最後の一口はソースをかき集めて、アジフライに載せて食べました。
レバニラ炒め
箸が止まらず、あっという間に食べてしまったレバニラ炒めも紹介しましょう。
大きなレバーに、新玉ねぎ、ねぎ、ニラもたっぷり入っています。ねぎの良い香りが食欲をそそる一品です。
元気をチャージできそうと思えるほど、身体が喜ぶメニューでした。
きむらやでは少しつまめるものや、しっかりと量があるもの、エスニック料理寄りのカツカレーがあることも。メニューは常に変わるので、何を食べられるかはその日次第ですね。訪れるたびに楽しみがある店です。
さまざまな料理を提供するきむらや。店長のなおきむさんに話を聞きました。
倉敷中央通り沿いにある、中華料理やエスニック料理メインとする「きむらや」。店長のなおきむさんに話を聞きました。
縁から生まれた「きむらや」
──「きむらや」は2023年11月にオープンしましたが、いつから2店舗目を構えようと思ったのですか?
木村(敬称略)──
2023年の春かそれより少し前ですかね。後任が育ってきたタイミングです。アルバイトから社員になった人がいるんですけど、2年間働いていました。その社員がお菓子を作れるので、自分がいなくても店を任せられるんじゃないかという期待があって。
それと774で夜の営業をしていた時期に、厨房と保存のスペースのキャパシティを超えているなとずっと感じていて。2店舗目を持つ考えがちらっとよぎりましたね。
物件は2023年春ぐらいから探していました。
きむらやの前の店が藤食堂さんだったんですが、閉店をされていて。たまたま通ったときに、ここ良いなとは思ったけれど、物件は出ていませんでした。
ちょうどお世話になっている地元の信用金庫さんの担当者に物件の話をしていたら、そのかたの知り合いだったようで。
「物件が見られるようですよ」と言われて「行きます」って返事して。自分は縁を大事にしていたので、縁があった瞬間に決めていたところはあります。その日のうちに見に行って、契約しました。
藤食堂さんの隣(おでん屋だった建物)は、別の物件だったんですが、そちらも信用金庫さんの知り合いでした。契約するときに、1店舗にするか2店舗分借りるか聞かれて、どうせなら大きいほうが良いと思い、今の形に。壁を打ち抜いても良いと言われたので、2店舗をつなげました。
──オープン前にクラウドファンディングをしていたそうですが。
木村──
資金面でも精神的にも落ち込んでいるときでしたね。クラウドファンディングをさせていただきました。
ふつうはお店を立ち上げるときに、周りの人から応援されるだけでも十分うれしいじゃないですか。それをお金の支援をして、応援の気持ちを文章にしてくださって。そこまでして応援してくれる人がすごい数いたんですよ。本当にそれがすごくありがたくって。
いつもは自分に否定的な性格なんです。だけどこのときは「これだけ応援してもらえているけれど、自分はそんな器じゃないのに」と言ったら、みんなに失礼だなと思いました。感謝と喜びをめちゃくちゃ伝えましたね。
倉敷に根付く店にしたい
──きむらやをどのような店にしていきたいですか?
木村──
オープン当初からありがたいことに多くのかたに来てもらっていますが、まだ岡山県内でも来られていない人も多いと思います。まずはまだ訪れていない地元の人たちに来ていただきたい。
地域に貢献するなら観光客にも来ていただきたいですね。774にしても地域に根付くことを目指していますが、まだ道半ば。774もきむらやも倉敷に来たら、その店を目指して訪れるような立ち位置になりたいですね。
行きたいと思える個人店が倉敷にもっともっと増えなきゃ、街としておもしろくならないと思っています。そのためには影響力も必要だし、人材も育てて、売り上げも確保しての3拍子が必要ですね。
やりたいことはたくさんあるんですが、次のステップはもっと外に発信できる力を増やさないと、と思っています。きむらやの1年目は、発信を少しずつこなす年にしようかなと。
地域に根付いた店にするために第一段階として、まずは周りの人たちに存在を知ってもらう影響力をつける必要があります。
夢を次の世代につなげたい
木村──
自分がもう30歳なので、20代の若者に働いてもらえるような環境を作りたいですね。それがさらに店舗を増やすのか、きむらやとして昼営業をするのか、方法はいろいろとあります。
自分より若い世代にこれまでの経験を生かして、店作りのノウハウも教えてあげられることがあれば良いなと。施工業者さんの見つけかた、店の作りかた、お金の借りかたなど自分が教えてもらいたかったものを伝えられる立場になりたいです。
店作りの順序などを教えて、新しい店が増えてほしいですね。商売はおもしろいよって思ってもらえたらうれしいです。
774を後任に任せているのは、倉敷で飲食をするなかで、自分で物事を考えて働くのは楽しいって思ってほしくって。だから労働時間や休日、長期休み、給料の面でしんどい思いはしてほしくないですね。
ずっと飲食店が働くうえで冷遇されている時代だったからこそ、今の若い子、特に自分が抱えているスタッフには辛い思いはしてほしくないと思っています。
なるべく多い休みを取ってもらって、遊びに行く時間を作って、決められた時間のなかでクリエイティブな思考を持ってほしい。そして自分の想いを継いでくれたスタッフが、次に下を育てるときに、同じことをしてあげようと思ってくれるとうれしいかな。
次の世代につながって、倉敷で同じ想いを持つ人がどんどん増えてほしいです。
たとえば事業展開で店を手放すかどうかにかかわらず、その自分の想いだけはずっと残っていきます。774は手放したわけではなく、想いが伝わっているスタッフに任せているし、信頼しているんで。
自分は任せられるスタッフに会えてラッキーでした。
おわりに
筆者は倉敷とことこで、774の店紹介のときもなおきむさんに取材をしています。774のときも今回のきむらやの取材でも自分の店のことだけではなく、倉敷の地域全体も視野に入れて夢を語っていたのが印象的でした。その夢をなおきむさんは理想で終わらせません。実現に向けて行動しているのも取材をとおして伝わってきました。
はじめは一人経営からスタートしたなおきむさんは、今やスタッフを抱えるように。楽しく働いてもらえるよう尽力し、774ができて約2年半後に2店舗目のきむらやも誕生しました。スピード感に驚きますが、「でも全部勢いなんですよ」と笑って答えるなおきむさん。
今後もきむらや、そしてなおきむさんの進化が楽しみです。