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EVへの移行とエンジン部品の今(7)補機ベルト

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EVへの移行とエンジン部品の今(7)補機ベルト

エンジン車特有の部品事業の今をみる本連載。これまでは、将来的に本格化する電気自動車(EV)シフトで市場の縮小が見込まれる部品を取り上げてきた。7回目となる今回は、すでに市場が縮小している「補機ベルト」に焦点を当てる。EVシフトとは別の理由で縮小しているのだが、EVシフトが本格化すればさらに加速することが見込まれる。

補機ベルトはエンジンの動力を伝える重要部品

補機ベルトの役割は、ハンドル操作を担う「パワーステアリング」やエアコンに必要な「コンプレッサー」、エンジンを冷却するための「ウォーターポンプ」、車内で使う電気を作る「オルタネーター」などに、エンジンの動力を伝えることだ。

補機ベルトはゴムでできており摩耗するため、交換が必要だ。マイカーを点検してもらったことがある人はなじみがあるかもしれない。ベルトが切れるとこうした機構が作動しなくなる。例えば、パワーステアリングが止まるとハンドルが重くなり、ウォーターポンプが動かなくなるとエンジンがオーバーヒートする。自動車の正常な動作を補機ベルトが支えている。

三ツ星ベルト、バンドー化学の2強、ニッタ系が追う構図

自動車1台につき、1本のベルトですべての補機を駆動している場合もあれば、2-3本のベルトで担当する補機を分ける場合もある。図は補機ベルトの国内市場シェア(2023年)だ。市場規模は27億円で、三ツ星ベルト(直近全売上高840億円)とバンドー化学(同1,082億円)がそれぞれシェア4割で、残りをゲイツ・ユニッタ・アジア(同160億円)が占める。ゲイツ・ユニッタ・アジアは、ニッタ(同886億円)と米国の自動車部品メーカー、ゲイツの合弁会社だ(出資比率は49:51)。
三ツ星ベルトとバンドー化学はすべての国内大手自動車メーカーに納入しており、ゲイツ・ユニッタ・アジアはマツダやスズキなどに供給している。資本関係や取引関係に系列色は見られない。

すでに始まっている市場の縮小

補機ベルトの市場は、すでに縮小が始まっている。2021年の国内市場は2015年と比べ4割減った。ハイブリッド車(HV)を中心に、電動ウォーターポンプの採用が広がっているためだ。ウォーターポンプが従来の機械式から電動式になると、エンジンと切り離してポンプを制御でき、燃費向上に寄与する。電動式では、エンジンの動力を伝えるベルトは不要となる。

トヨタ自動車は2009年発売のHV「プリウス」3代目から電動ウォーターポンプを採用。HV「アクア」などにも搭載を広げている。ホンダも2013年に発売した「フィットハイブリッド」や「アコードハイブリッド」も電動ウォーターポンプを採用し、補機ベルトを使わなくなった。一部のHVやエンジン車には今後も使われるとみられるが、EVでは補機ベルトが不要となり、EVシフトが進めば市場縮小は加速する。

EVシフトで縮小が加速し売上高60億円消滅の可能性も

三ツ星ベルトの2021年度は、全売上高の86%にあたる642億円がベルト事業で、そのうち約160億円が四輪車向けだった。自動車用ベルト需要の縮小で、2030年には60億円強の売上高がなくなると、同社ではみている。ここでは、補機ベルトの他に、エンジンの吸排気動作に関わる「タイミングベルト」も含まれる。タイミングベルトもEVでは不要となる。

エンジン以外のベルトに布石

一方、ベルトはエンジン以外でも使われる。電動パワーステアリングや電動パーキングブレーキ、パワースライドドアなどだ。これらの部品はEVでも使われる。

また、補機ベルトは消耗品だ。

新車販売のEV比率が増えても、エンジン車が走り続ける限り、つまりエンジン車の保有台数が減らない限り、補機ベルトの補修用市場は依然として底堅いことが予想される。各社は補機ベルトで収益をできるだけ確保しつつ、EVでも使われるベルトへの投資を拡大している。すでに市場縮小にさらされていることもあり、これまで見てきたマフラーや燃料タンクのプレーヤーと比べて、EVシフトへの備えが先行している印象だ。

3社の業績は堅調に推移

補機ベルトの事業は縮小しているものの、3社とも業績は堅調だ。売上高は直近10年で増加しており(三ツ星ベルト26%増、バンドー化学13%増、ニッタ47%増)、2023年度の営業利益率は自動車部品業界の平均4.5%を超えている(三ツ星ベルト9.2%、バンドー化学7.2%、ニッタ4.9%)。

その理由はベルトの用途が多岐にわたるためだ。自動車に限らず、産業機械、工作機械、ロボットやコンベヤー、半導体製造装置などに使われており、3社とも自動車への依存度はもともと低い。中でもニッタはベルトの他に、ゴム、ホース、チューブ、化工品なども展開しており事業の多角化が進んでいる。

環境の変化への柔軟な対応がカギに

ニッタはTOYO TIRE(トーヨータイヤ)から化工品事業を買収し、トラック・バス用空気ばね事業も譲り受けている。バンドー化学は整形外科向けインプラントメーカーのAimedic MMTを買収。三ツ星ベルトは自動車内外装の化成品事業を米投資ファンドに売却した。新旧事業でM&Aを積極的に活用し、事業環境の変化に柔軟に対応していることもこの3社の特徴だ。EVシフトの影響を受けるメーカーの生き残り策として、一つの指針となりうる。

文献
総合技研株式会社「2024年版 主要自動車部品255品目の国内における納入マトリックスの現状分析」
総合技研株式会社「2022年版 自動車部品の納入マップの変化と現状分析」
一般社団法人日本自動車連盟『エンジンに付いているベルトの種類と役目が知りたい | JAF クルマ何でも質問箱』
株式会社 三栄『電動ウォーターポンプの効果、開発の難しさ[内燃機関超基礎講座] | Motor-FanTECH.[モーターファンテック]』(2023/02/17)
化学工業日報 8ページ『自動車材料特集 ベルト、EPS駆動用需要に対応』(2024/01/15)
日経産業新聞 7ページ『シン・サプライヤー エンジン需要減でEPS用開拓 三ツ星ベルト「静粛負けぬ」』(2023/03/29)
株式会社日刊工業新聞社『自動車電動化で縮小懸念の伝動ベルト市場、メーカー3社のトップが語る対応策|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社』(2022/01/07)
バンドー化学株式会社『次世代モビリティに最適なベルトをご提案』
三ツ星ベルト株式会社『電動ユニット駆動ベルト』
有価証券報告書
レコフ「RECOF M&A DATABESE」
一般社団法人 自動車部品工業会『2023年度通期の自動車部品工業の経営動向』(2024/07/16)

執筆者:フロンティア・マネジメント株式会社 池田 勝敏

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