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「選ばれる観光地と鉄道をめざして!」13回目の地鉄交流会、伊賀鉄で開催 浪速中高に最優秀賞(三重県伊賀市)【コラム】

鉄道チャンネル

上野市駅で発車を待つ200系電車。写真のク102は「忍者・ピンク」のラッピング車で、2023年2月に亡くなった漫画家の松本零士さんがデザインしました(筆者撮影)

106回目の夏の甲子園は京都府代表・京都国際高の初優勝で幕を閉じましたが、決勝戦の5日前、球場のある兵庫県西宮市から100キロほど東方の三重県伊賀市では、もう一つの熱闘(?)が繰り広げられていました。今年で13回目を迎えた「全国高校生地方鉄道交流会(地鉄交流会)at伊賀鉄道」が2024年8月16~18日、伊賀鉄道(伊賀鉄)を舞台に開かれ、参加12校が利用促進や地域振興のアイディアを競いました。

共通テーマは「選ばれる観光地〝伊賀〟~近鉄・JRと連携した誘客~」。伊賀といえば忍者、さらには江戸時代の俳人・松尾芭蕉の出生地と観光資源は豊富です。参加校からは、京都、奈良を訪れる訪日外国人客に沿線まで一足伸ばしてもらったり、海外向けSNSの活用で地域の魅力を発信するといった、若い感性にあふれた誘客策が続出。審査員を務めた、伊賀鉄の福嶌博社長や伊賀市の岡本栄市長をうならせました。

鉄研の甲子園、インターハイ

毎年の夏休み、地方鉄道に乗り鉄・撮り鉄する中高生は少なくありませんが、成果発表は基本的に仲間内だけ。鉄道研究会(鉄研)には、甲子園や全国高校総体(インターハイ)のような発表の場がありません(鉄道模型にはコンテストがありますが)。

こうした現状を打開しようと、交流会を発想したのは鉄研の活動が盛んな一部校です。東京都新宿区の成城中学・高校などが呼び掛け、2012年に秋田県の秋田内陸縦貫鉄道で初開催。以降、各地の地方鉄道やJR・私鉄のローカル線を巡回する形で回を重ねました。

元近鉄ながら線路は狭軌、車両は全て新型へ置き換え

歓迎のあいさつをする福嶌伊賀鉄社長。近鉄で名古屋輸送統括部施設部長(工事担当)、執行役員・社長室長などを務めた後、2022年6月から現職に就きました(筆者撮影)

2024年は伊賀鉄。路線は伊賀線(伊賀上野~伊賀神戸間16.6キロ)で、伊賀上野でJR関西線、伊賀神戸で近鉄大阪線に接続します。

大正年間の1916年、伊賀軌道として開業。戦前のうちに伊賀鉄道(初代)、伊賀電気鉄道と社名を変え、大阪電気軌道に買収されて近鉄グループ入りしました(運行は参宮急行電鉄)。

長く近鉄伊賀線として歴史を刻みましたが、近鉄の地方線区見直しで2007年に2代目伊賀鉄道に。2017年度には施設が近鉄から伊賀市に無償譲渡され、いわゆる経営の上下分離の第三セクター鉄道になりました。

近鉄大阪線は標準軌(線路幅1435ミリ)ですが、伊賀鉄はJRと同じ狭軌(1067ミリ)。大阪線とは線路幅が違うため、近鉄時代には片側2ドアの860系が関西地区から転籍するなど、コアなファンにシャッターチャンスを提供しました。

現在の車両は、2009年から営業運転を始めた200系です。「こんな近鉄電車あったんか?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、よくよく見れば関東からやってきた元東急1000系。東急時代は地下鉄日比谷線に乗り入れていました。

一部校は前乗り

3日間の地鉄交流会、初日は上野市駅に隣接した上野市車庫を見学。車両の特徴や運用、検修について説明を受けました。

上野市駅の車両基地で軌道自転車を体験。バックの200系はほぼ東急時代のままの外装です(写真:全国高校生地方鉄道交流会)
参加者は車内放送にも挑戦。「近鉄車両エンジニアリング」のメーカーズプレートにもご注目を(画像:全国高校生地方鉄道交流会)

2日目は沿線を探索。伊賀鉄は20キロ足らずながら、目的駅で降りて写真を撮影、宿泊施設に帰ってプレゼンテーション資料を作成するには十分な時間といえず、一部校は前乗りして研究時間を確保しました。

最終日は、上野市駅前のハイトピア伊賀でプレゼンテーション(発表会)。各校8分間の持ち時間で成果披露しました。

特典付き周遊券、EVカーシェア……

参加12校(一部リモート参加)のうち、最優秀賞に当たる伊賀鉄社長賞を受賞したのは大阪市住吉区の浪速高校中学。「2日間有効の特典付き周遊券」、「EVカーシェアリングと免許返納者への運賃半額サービス」、「飲食店や宿泊施設のトイレ改修」、「木津川沿いの桜並木をビュースポットに」、「NARUTO(ナルト)ラッピング列車の運行」、「JR関西線から伊賀線沿線への直通列車運転」の6項目のアイディアを出しました。

特典付き周遊券は、駅から宿泊施設までの手荷物搬送やレンタサイクルで手ぶら観光を可能にします。他校からも提案のあったナルトは、1999年から2014年まで雑誌連載された忍者漫画。国内はもちろん海外にもファンの多いコミックです。

関西線から伊賀線への直通は、JRが非電化、伊賀鉄が電化で一定のハードルがありそうですが、背景はリニア中央新幹線。リニアが大阪開業すれば、関西線や伊賀線はリニアの2次交通になるかもしれません。

鉄道に直接関係ないトイレ改修は、伊賀市や地元関係者から支持を集めました。

四十九駅でイベン

次点の伊賀線活性化協議会会長賞は、宮城県仙台市の東北学院中学高校鉄道研究部が受賞。「四十九駅イベント」、「伊賀散策切符」、「忍者イベント」、「星空イベント」の4項目を発想しました。

奈良時代の高僧・行基が創建した四十九院に由来すると伝わるのが伊賀四十九院で、駅のイベントでは三重県在住の49歳の人たちに集まってもらい親交を深めます。忍者イベントは参加者をグループに分け、クイズバトルで競ってもらう趣向です。

「鉄道は取り組む価値ある仕事」(近鉄の村上さん)

全校の発表後には、JR西日本近畿統括本部阪奈支社地域共生室長の福山和紀さんと近畿日本鉄道企画統括部営業企画部の村上慶晃さんが講演。

JRの福山さんは「駅から始まる地域づくり」と題したトークで、「かつては駅が中心だった街のにぎわいは、最近は郊外の幹線道路沿いに移り、駅の老朽化が目立つようになっています。JR西日本は可能な場合は駅施設を地域に移管して、にぎわいの創出につなげています」と基本姿勢を披露。

具体例として、図書館とカフェを併設した関西線新堂駅(伊賀市)、加えて会社は違いますが、駅舎と郵便局が一体になったJR東日本外房線江見駅(千葉県鴨川市)などを挙げました。

近鉄の村上さんは、2007年入社で現在17年目。土木が専門ですが、伊賀鉄と同じく近鉄から経営分離された養老鉄道への出向時には、「昭和の近鉄列車リバイバル」、「昭和の硬券乗車券」といった営業のアイディアを出しました。「鉄道にはいろいろな仕事があります。趣味の範囲にとどめるのもありですが、仕事として取り組む価値もあるはずです」と参加した中高生に呼び掛けました。

次回交流会は鉄道の街・小牛田で

交流会のラストには、宮城県美里町地域おこし協力隊の天野政司さんがステージに登壇。次回、2025年の地鉄交流会の同町開催が発表されました。

宮城県北部の美里町は、「鉄道による地域づくり」に力を入れます。町の中心・JR小牛田駅には東北線、陸羽東線(奥の細道 湯けむりライン)、石巻線のJR3線が接続します。SL全盛期には、小牛田機関区が多くのファンを引き付けました。「多くの学校の参加をお待ちしています」と、天野さんは期待していました。

スクリーンのリモート参加校も含め全員で記念撮影。2025年の宮城での再会を約束しました(筆者撮影)

記事:上里夏生

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