薮島朱音「誰かにとっての力になれる存在でありたい」【声優図鑑 by 声優グランプリ】
キャラクターの裏に隠された声優たちの素顔に迫る、インタビュー企画『声優図鑑 by声優グランプリ』。
今回登場していただいたのは、『ラブライブ!スーパースター!!』の米女メイ役で知られる薮島朱音さん。
人前に出ることが苦手だった少女が、お芝居の楽しさに出会い、自分の声を信じて歩み始めた日々。ライブへの初挑戦や追加メンバーとしての重圧を乗り越えてきた経験、そして今、声優として届けたい思いとは。迷いも戸惑いも丁寧に乗り越えてきた薮島さんの言葉に触れながら、誠実に積み重ねてきたこれまでと、その先に描く未来をお聞きしました。
薮島朱音
やぶしまあかね●7月18日生まれ。神奈川県出身。アイムエンタープライズ所属。主な出演作は、アニメ『ラブライブ!スーパースター‼』(米女メイ)、『自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う』(メイ)、『ご注文はうさぎですか? BLOOM』ほか。
公式HP:https://www.imenterprise.jp/profile.php?id=160
X:@a_yabushima
★薮島さんの手書きプロフィール&コメント動画は2ページ目に!
少しずつ自分のことを認められるようになっていった
──まず、声優という職業を意識するようになったきっかけから聞かせてください。
きっかけと呼べるような明確な出来事は、実はあまりなくて。小学生の頃に“将来は何かにならなければいけない”と漠然と考えたことがあって、「なれるなら、声優さんがいいな」とふと思ったんです。それが出発点でした。そこから、声優さんになるにはどうすればいいんだろうと調べ始めて。養成所という存在を知って、その中で日本ナレーション演技研究所(以下:日ナレ)に出会いました。
――小学生でそこまで調べたんですね。
当時はまだ小学生だったので、今は通えないだろうなと思って中学生になってから両親に相談しました。そこで何度か話し合いを重ねて、通わせてもらえることになりました。
──幼い頃に観ていたアニメで印象的だった作品はありますか?
『Fate』シリーズが大好きでした。当時の私には少し難しい内容だったかもしれませんが、あの世界観や戦う女性キャラクターたちの凛とした姿に強く惹かれていたのを覚えています。実際、日ナレの入所審査でも「好きなアニメは何ですか?」と聞かれて「『Fate』です!」と答えたのを今でも覚えてますね。
──渋いですね(笑)。周りの同級生たちは『NARUTO -ナルト-』や『ONE PIECE』など王道のバトルものを観ていませんでしたか?
そうですよね(笑)。でも、少年漫画系のアニメもよく観ていて、『進撃の巨人』などにも夢中になっていました。ただ、その中でも特に惹かれたのが『Fate』シリーズだったんです。戦う女性キャラクターたちの凛としたたたずまいや、重厚な世界観に強く惹かれていて、今思い返してもあの頃の自分にとって特別な作品だったと思います。
──幼少期の薮島さんは、どんな子供でしたか?
すごく活発でしたね。走るのも跳ぶのも大好きで。サッカー、バスケ、体操、水泳と、いろんなスポーツを経験してきました。ミニバスには小学校4年生から中学卒業まで、6年間通い続けていましたし、学校が終わったら毎日体育館で汗を流してました。いろんなことに興味を持って、気になったらとにかくやってみる。“やってみてから考える”タイプでしたね。でも今は真逆で、どちらかというとインドア派なんです(笑)。だから、昔の友達に最近は本ばっかり読んでると言ったら、驚かれると思います。
──読書をするようになったのは最近なんですね。
そうなんです。小学生の頃は本当に読めなくて(笑)。読書の時間が嫌いでした。本を開いてるフリをして、ずっと時計を見て早く終わらないかなって思ってたくらいで。でも声優を目指すようになって、少しずつ言葉に敏感でいたいって考えるようになりました。きっと声優の仕事にも活きるかもしれないと思いながら始めてみたら、想像以上にのめり込んでしまったんです。今では本棚に収まりきらないくらいの本があって、置き場所に困っているくらいです(笑)。
──養成所に通い始めたのは早い時期でしたが、日ナレを選んだ理由はなんですか?
自分で調べていくなかで、いろんな声優さんの経歴をたどっていったら、日ナレに通っていたという方が多くて。「ここだ!」って確信しました(笑)。町田校が家からも通いやすくて、親もそれならと許してくれたんです。でもやっぱり最初は、通いたいという気持ちを受け入れてもらうまで何度も話し合いをしました。声優がどんな仕事なのか親は全然知らなかったですし、簡単にはなれないという不安も大きかったと思います。だから、自分の気持ちを伝えるのにすごく勇気が必要でした。でも今振り返ると、あの時ちゃんと話してよかったなと思っています。
──日ナレで学んだことは何ですか?
いちばん大きかったのは、「お芝居って、こんなにも自由で楽しいものなんだ」と実感できたことです。声を使って表現することだけでなく、体を動かすことや、気持ちを込めて伝えることの面白さを知って、私の中で「声優になりたい」という気持ちが、徐々に強くなっていきました。それまではなんとなくだったものが、日ナレでの経験によって本気で目指したいという確信に変わったんだと思います。
──今にいちばん活きていると思うことはありますか?
いちばん大きかったのは、度胸がついたことだと思います。通う前の私は、自分の意見を言うのが苦手で、どちらかというと一歩引いた位置にいるタイプでした。学校でも手を挙げて発表することにすごく抵抗があって、「当てられませんように……」と祈って下を向いてしまうような生徒だったんです。でも、日ナレでは“自分を出すこと”が求められるし、むしろ出さなければ何も始まらない環境でした。自分の意見を口に出して伝えたり、人前で芝居をすることが当たり前になっていくなかで、自然と「怖がらなくてもいいんだ」と感じるようになりました。
それにクラスの仲間たちもみんな同じ目標に向かって努力している存在だったので、張り合うとかではなく、励まし合いながら切磋琢磨できたのも大きかったです。“怖さ”や“恥ずかしさ”という気持ちが少しずつ和らいでいって、自分自身のことも少しずつ認められるようになっていった気がしますね。
転機となった『ラブライブ!スーパースター!!』米女メイ役
──デビュー後、最初のアフレコ現場のことは覚えていますか?
覚えているんですけど……正直、セリフの内容とかはほとんど記憶に残っていないんです(笑)。本当にそれくらい緊張していて、頭の中が真っ白になってしまって。ただ、初めて現場に入ったあの空気感や、先輩方の姿勢、スタッフさんの声のトーンなど、細かいところの雰囲気は強く印象に残っています。私がデビューした当時はちょうどコロナ禍で、アフレコも分散収録でした。一度に収録できる人数が3、4人ほどで、マイクも一人1本。養成所ではマイクワークの基礎は教わっていましたが、実際の現場での空気感や、立ち位置の取り方、セリフのタイミングの合わせ方など、いざ実践となるとやはり緊張しました。そんななかでも、先輩方が「困ってることない?」と優しく声をかけてくださったのが本当にありがたくて。その温かさに救われましたね。
──薮島さんにとって大きな転機となったのが、『ラブライブ!スーパースター!!』への出演だと思います。米女メイ役に決まった時のことは覚えていますか?
鮮明に覚えていますね。事務所から小部屋に来てくださいと呼ばれて、「あ、これ、絶対に怒られるやつだ……」と(笑)。その部屋って、打ち合わせや注意のときに使われることが多かったので、緊張しながらドアを開けたんです。そしたらメイ役に決まったことを伝えられて、頭が真っ白になりました。すぐに喜びがあふれるというより、「本当に自分でいいのかな」という不安が大きかったですね。特に『ラブライブ!スーパースター!!』のLiella!というグループは、シリーズの中でも初めて追加メンバー制度を採用した形だったので、加入に対する反感も少なからずあって。最初からいた5人が好きだったという声も目にして、私はここにいていいのかなと感じることもありました。でも、それでも「メイちゃんを演じるのは自分でありたい」という気持ちだけは、強く持ち続けて。そのためには、自分の言葉や表現で信頼を築いていくしかないと思って、まずは一つひとつの活動に真剣に取り組むことから始めました。
──メイというキャラクターを、最初に演じた時の印象はいかがでしたか?
オーディションで頂いたセリフが、ほとんど怒っているセリフだったんです。「何見てんだよ」とか、「うるせえ」とか(笑)。だから、「この子、ずっと怒ってる子なのかな?」って、最初はすごく戸惑いました。でも物語が進むにつれて、彼女の素直で真っすぐな性格や、スクールアイドルに対する強い憧れ、心を開いていく過程などが描かれていって、そのギャップを知った時には、本当に愛おしくなっていましたね。演じるなかで、彼女の“好きなものに対して一途になる気持ち”にすごく共感できたのも大きかったです。私自身も、好きなことに対して真っすぐでいたいと思っているので、そこは素に近い感覚で表現できたのではないかと思っています。
──『ラブライブ!』シリーズの一員として、ライブへの参加も大きな経験だったと思います。
本当に……大変でした。私はそれまでダンスの経験がまったくなかったんです。なので、最初に振り入れをした時は、不安でいっぱいでした。レッスンでは何度も泣いたし、心が折れかけたこともあって。でも、Liella!の2期生メンバー4人で支え合いながら、少しずつ自信を持てるようになっていって。ステージに立った景色を見た時に、これまでの努力がすべて報われたような気持ちになりました。
──今、声優としてのお仕事に、日々どのような想いで取り組んでいますか?
自分の声や存在が、誰かの背中をそっと押しているかもしれないということを、少しずつ実感するようになりました。以前は、このキャラクターをどう演じるかということに夢中でしたが、今は作品やイベント、ラジオなどを通じて自分の声が届いていると感じる機会が増えました。たとえば、「おかげで仕事頑張れました」とか、「毎週ラジオ楽しみにしてます」といった言葉をファンの方から頂くようになって、本当にうれしくて。こんなにも自分の活動が、誰かの力になっているんだっていう驚きと感動の両方がありました。演じることはもちろん、ラジオもライブも、何かを伝えるという点ではすべて声優の仕事だと思っています。なので自分にできることはこれからもすべて挑戦していきたいです。
“この瞬間に出会えてよかった”と思ってもらえるような時間を届けていきたい
──プロフィールの中でとても気になったのが「ライフル射撃」。珍しいご経験だと思うのですが、始めたきっかけは何ですか?
高校で軽音楽部に入りたいと思って、入部したんです。でも、放課後の時間に思ったより余裕があるなと気づいて(笑)。それで、以前からちょっと気になっていたライフル射撃部も見に行ってみることにしたんです。見学してみたら、すごく集中力が必要な競技で、面白そうだなと思って。兼部できるかも、と考えて、軽音とライフル、両方に所属しました。
──養成所も通っていたことを考えるとかなりハードですね。
今思うとそうですね(笑)。放課後は軽音の練習とライフル射撃の練習、それから土日は日ナレのレッスン、という生活を送っていました。正直、体力的にもスケジュール的にもかなり大変だったんですけど、どれも諦めたくないという気持ちが強くて。特に、声優の夢に向けたレッスンは、土日が唯一の時間だったので、ライフル射撃の大会に出られないこともありましたが、それでも続けていました。
──ライフル射撃の中で、薮島さんはどの種目をやっていたんですか?
私がやっていたのはレーザーライフルという種目で、実弾ではなくレーザーを使って的を狙う競技です。電子的に点数が表示されて、中心に近いほど高得点。反動もないので初心者でも扱いやすくて、集中力がすごく鍛えられるんです。試合では個人戦と団体戦がありますが、基本的には1人で黙々と撃ち続けるので、静かな競技ですね。
──ライフル射撃は今でもやるんですか?
それが全然できてなくて……。道具をそろえるのが難しいんです。でも、機会があればまたやってみたいなと思っています。ファンの方からも「いつか映像で観てみたい」と言っていただけるので、そういうチャンスがあったら挑戦してみたいです!
──あらためて、今後目指していきたい声優像について教えてください。
こういう作品に出たいという具体的な目標ももちろんあるんですけど、根本には“誰かにとっての力になれる存在でありたい”という気持ちがあります。自分が観てきた作品の中にも、元気をもらったキャラクターがたくさんいました。落ち込んでいるときに、アニメの中の一言に救われたり、また頑張ろうと思えた瞬間があったり。そういう“作品の力”を、自分も届けられる側でいたいと思うんです。そのために、表現の幅をもっと広げたいですし、自分の声や演技の可能性を、もっと追求していって、ライブでもラジオでも、“この瞬間に出会えてよかった”と思ってもらえるような時間を届けていきたいです。
撮影/石田潤 取材・文/川崎龍也
薮島朱音さん手書きプロフィール
薮島朱音さんコメント動画
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