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「風呂キャンセル界隈」!?完ぺき主義な自閉症息子が「水シャワー」で変わった夏

LITALICO発達ナビ

「風呂キャンセル界隈」!?完ぺき主義な自閉症息子が「水シャワー」で変わった夏

監修:新美妙美

信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 特任助教

入浴という大きな壁

「風呂キャンセル界隈(※)」という言葉が世の中に一気に広まった時、私は息子のことを一番に思いました。
息子は本格的な不登校が始まった頃、入浴を嫌がるようになりました。不登校とうつ状態には関係性があることも多く、以前に読んだ記事でうつ病の方が入浴困難になることがあると知っていたので、同様の症状ではないかなと思いました。しかし親として、入浴せずに学校へ登校することには抵抗がありました。次第に息子は「学校に行きたくないから、お風呂にも入らない」と言うようになっていきました。もう高学年、入浴を無理強いできる訳もなく、風呂に入らない日々が続き、息子の調子のよさそうな時に「お風呂いけそう?」と声かけをすることにしました。

(※)さまざまな理由からお風呂に入らない・入れないことを表したSNS発の言葉

うつ病とは、気分の落ち込みや意欲の低下などの症状が特徴の精神疾患です。これらの症状がただの気分の落ち込みではなく病的なうつ状態であることを意味しています。

また、うつ病は精神症状だけでなく、食欲や睡眠の乱れ、疲労感などの身体症状もあります。特に、初期症状としてまずは身体症状が表れることが多いと言われています。

https://h-navi.jp/column/article/35025883

ですが、息子はけして入浴が嫌いな訳ではないのです。幼い頃はむしろお風呂が大好きでした。好きだからこそ、入浴すると完璧にこなしたいこだわりがありました。

・シャンプーは油汚れが落ちるまで最低2回はしたい
・体はゴシゴシと隅から隅まで洗いたい
・洗顔もしっかりと行いたい
・湯船に入浴剤を入れてじっくり浸かりたい

これらのことを全て行おうとすると、入浴が億劫になってしまう……悪循環の繰り返しでした。

夏場の救世主!それは……「水シャワー」!!

ただやはり夏場にお風呂に入ってもらわないと、困るのは家族です。あまりにお願いしすぎると頑なに拒否をしますし、そもそも起き上がれない時もあります。ホームヘルパーさんがいらしている時に入浴介助をお願いするという案もあったのですが、やはり思春期ということもあり、それは却下になりました。

息子は気温が高いとパニックを起こしやすくなります。ずっとお風呂に入っていないと、体内に熱がこもったような状態で、本人もつらそうな状況が続きました。「お風呂にさえ入ってくれたら……」と心から思う日々もしばしば。

そんな時に思いついたのが水シャワーでした。私自身が、中学生の時に夏の部活から帰ってきたらいつも浴びていたのです。洗髪や体を洗うのは、本格的な入浴の時。とりあえず暑さ回避と汗を流すことが目的でした。

「全部洗わなくていい!浴びるだけでいい!よくテレビで滝に打たれて修行してる人おるやろ!?あんな感じでとにかく水だけ浴びてみよう!」

と息子を促してみると、息子も「風呂に入れてない自分」にどこか嫌気がさしていたようで、すんなりと浴室へ向かってくれました。そして上がると開口一番に「これむっちゃ気持ちいいな!?」と言ってくれました。

どんどん行水していこう!できる時だけ水シャワー習慣

それから「水シャワーなら……」とちょくちょく浴室に自ら向かってくれるようになった息子。どうやら入浴のハードルを落としたのが、いいきっかけになったようです。その様子を児童精神科の先生にお話すると、こんな答えが返ってきました。

「お母さん……水シャワーではありません。『行水(ぎょうずい)』と言ってください。古来からの健康法です」
「どんどんやりましょう!入らないより全然いいです!」

という先生の後押しもあり、昨夏は水シャワーの日々でしたが、人間不思議なもので、一つハードルをクリアすると「もしかしてこれもいけるんじゃないか……?」という気持ちが生まれ、あんなに入浴拒否をしていた息子が「ついでに髪の毛洗ったわ!」「体もかゆいからボディソープでゴシゴシした!」という日が増えてきました。

普通の入浴よりも水シャワーの回数の方が多く、けして毎日ではありませんでしたが、息子が浴室へ向かってくれるようになった回数は確実に増えていました。

完璧じゃなくていい!息子が見つけた入浴への5つの工夫

それから一年、残念ながら毎日入浴……という訳にはいきませんが、なるべく入浴できるよう本人も工夫をしています。

・とりあえず水シャワーから始めてみて、大丈夫そうなら入浴に移行する
・水シャワーをするためにエアロバイクを漕ぐ(汗で気持ち悪くなるから)
・朝シャワーは目が覚めることに気づいた
・風呂上がりに冷感Tシャツを着て、入浴の良さを実感する
・それでも入浴が難しい時は、着替えだけでもする

本人の調子次第で、自ら進んでできない時は「今日お風呂はどうしたい?」とあまり重くなく、強制的に感じられないよう、軽く聞くことにしています。「いけるいける!」「そろそろいきたいと思っててん!」と返ってくることもあれば「今日は難しいなぁ……」「無理かも」という日もありますが、それで充分。入浴完全断固拒否よりも、そうやって自分の体調を考えて選択できることが何より大事だからです。

水シャワーができなくなる冬は、入浴のハードルがまた上がってしまうのですが、それはそれ。今、この暑い夏を乗り切るために、水シャワーをうまく活用していきたいです。

「キャンセル」じゃない。今は休憩してるだけ

学校もお風呂も本人が「キャンセル」したくてしている訳ではないのです。どちらも、行くならばきっちりとしたい。ASD(自閉スペクトラム症)特有のこだわりもあると思います。だけどできない、そしてその後の心身の負担がものすごいので、キャンセルせざるを得ないというのが、本人の現状ではないかなと日々の様子を見ていて感じます。

高校二年生になり、自立の時を見極めて、親も支援の形を変えていかなければなりません。たかがお風呂、されどお風呂。入らなくても死なないよ!なんて言う人もいます。けれど、感染症予防、健康の観点から「自ら風呂に入る」という選択肢は、本人の中にあってほしいと思います。

水シャワーをきっかけに、入浴の楽しさや気持ち良さ、爽快さを思い出してもらいたいし、その心の芽は既に本人の中にも芽生えているように感じます。まだまだ暑い日が続きますが、そんな時は水シャワーを頭から被って、汗も熱も心のモヤモヤも一気に洗い流してほしいです!

執筆/花森はな

(監修:新美先生より)
入浴が難しくなった息子さんの対応の工夫について聞かせてくださりありがとうございます。
お子さんが不登校になって入浴が難しくなることはとてもよくあります。決して単なる「怠け」ではなく、さまざまな要因が絡みます。花森さんの体験談にもあるように、抑うつ状態、エネルギーが低下していて、気力体力が不足して入れないということも多いですし、ASD(自閉スペクトラム症)の特性の「完璧にやらなければならない」というこだわりが強まっているというのもあります。感覚過敏や変化を嫌う特性が関与することもあります。
今回ご紹介いただいた「水シャワー」という工夫は、まさにハードルを下げる柔軟な対応ですね。入浴そのものが難しい時に「部分的にでも清潔を保つ」「体温調整を助ける」ことは十分に意味があります。また、こだわりをリセットするために、少し別のパターンにしてみるというのはこだわり回避の一つの方法です。お子さん自身が「気持ちいい」と体感でき、次の行動への自信につながった点は非常に大切です。「できない」「無理」「拒否」から「だいじょうぶ」に変わる経験は、日常生活全般においても大きな支えになります。
また、保護者の方が「今日どうしたい?」と軽やかに問いかけ、無理に押し付けず本人の選択を尊重していることも、長期的な視点でみてとても重要です。思春期のお子さんにとって「自分で決められる」という感覚は、心の安定と自立に直結します。
たかがお風呂、されどお風呂。衛生面だけでなく、自分を整える習慣としても入浴は大切です。水シャワーのような工夫を入り口に、本人が「心地よさ」を再発見していけるよう支えることが、今後の生活や成長にもつながっていくと感じます。とはいえ、お子さんの状態やタイミングによっては、何をしても、全拒否ということもあるので、そういう場合は、タイミングを見計らって、しばらく待つということが必要なこともあるかもしれないこともお伝えしておきます。

(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

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