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世界初<クロソイ>の全メス種苗生産に成功! 養殖の生産効率化への貢献が期待される

サカナト

クロソイ(提供:PhotoAC)

メバル類は世界各地で利用されている水産資源であり、日本でもクロソイアコウダイなど多種多様なメバル類を食用としています。特にクロソイは北日本を中心によく食べられている魚で、韓国や中国などでも重要な水産資源として知られる魚です。

日本においては、東北、北海道で養殖魚として有用であるとされ、これまでに養殖も試行されています。しかし、オスとメスで成長スピードが異なることに起因する非効率的な生産工程が課題となり、養殖事業の拡大には至っていません。

そうした中、北海道大学大学院などからなる研究グループは、クロソイの全メス生産に世界で初めて成功。オスとメスで成長スピードが異なるメバル類の養殖おいて、生産効率化への貢献が期待されています。

この研究成果は『Aquaculture』に掲載されています(論文タイトル:Establishment of an all-female monosex population in black rockfish (Sebastes schlegelii) through an indirect feminization method)。

クロソイは低温海域で有用な養殖対象

クロソイSebastes schlegelii はメバル科メバル属に分類される海水魚です。

日本では東北や北海道を中心に食用として利用されるほか、中国や韓国でも重要な水産資源として利用されてきました。

クロソイ(提供:PhotoAC)

また、本種はメバル類の中でも成長スピードが速く、多産であることに加え、環境変化に強いことが知られている魚です。

そのため、マダイの養殖に不向きな東北地方・北海道で、有用な養殖魚として位置付けられており、実際に養殖の試みも行われています。

オス・メスの成長さに課題 養殖事業は拡大せず

低温海域における養殖魚として有用であることが知られる一方、クロソイ養殖にはいくつかの課題が残されています。

というのも、本種はまだ人工授精技術が確立されていないのです。そのため、種苗の生産が不安定であり、また仔魚を出産する胎生魚であることから任意の交配ができず、育種も進んでいないといいます。

また、クロソイはオスとメスで成長するスピードが異なることも原因の一つです。成長スピードが違うと出荷時に魚のサイズにばらつきが生じ、小型の個体を選別・育成期間の延長をしなければなりません。

クロソイ養殖ではこのような非効率的な生産工程がネックとなり、養殖事業が拡大しませんでした。

クロソイの全メス生産で生産性向上へ

こうした中で、北海道大学大学院と北海道立総合研究機構栽培水産試験場の研究グループは、クロソイの全メス生産が可能になれば生産物のサイズが安定し、生産性が向上すると考えました。

クロソイ(提供:PhotoAC)

なお、本研究グループはこれまでにクロソイ種苗を安定生産できる人工授精技術の開発、養殖における育種基盤の提供をしています。

全メス生産の方法とは?

全メス生産には、2つの手段があります。

一つは、養殖生産魚のオスを人為的な方法でメスに性転換させる直接的な方法。もう一つは、まずメスをオスに性転換させた「偽オス(オス親)」を作り、偽オスとメスを交配することで全メス種苗を作る間接的な方法。

前者の方法では100%メスに性転換させることが難しい場合も多く、性転換させるためのホルモン剤や化学物質を使用することにより、食用とすることに制限が出てしまします。そのため、今回の研究では生産物への直接的な処理のない後者の方法で、全メス生産が試行されました。

DNA検査と性転換技術を駆使

今回の研究の第一段階である偽オスを作り出す工程では、人工授精を用いて作った種苗に雄性ホルモン処理を施し、遺伝的なメス(XX型)をオスに性転換させた個体群を作成。

この中からDNA検査を使って、偽オス(XX型)を選び成熟するまで育成が行われました。第二段階では偽オス親から精子をとり通常のメス親(XX型)に人工授精が施されています。

また、このメス親が産んだ仔魚についてDNA検査を行い遺伝的な性を確認すると同時に、生殖腺の観察が行われました。

全メス生産に成功

第一段階の偽オスの作出では、遺伝子検査と生殖腺を観察した結果、100%の確率で遺伝的なメスがオスへと性転換し、効率的な偽オス生産手法が確立されています。さらに、偽オスの生殖腺は通常の遺伝的なオスと同じように精巣へと分化。孵化から約2年半後には成熟して精子が作られたようです。

第二段階ではこの精子を使って、通常のメス親に人工授精を施し半年間畜養。人工授精したメス親のうち1尾が妊娠し、2024年の春には産仔に至っています。また、これらの仔魚を育成し、生殖腺を観察した結果、通常のメスと変わらない卵巣へと分化していたとのことです。

さらに仔魚の遺伝的な性をDNA検査で確認した結果では、試験を行ったすべての個体が遺伝的なメス(XX型)であることが明らかになりました。なお、平行して実施された通常のオス(XX型)とメス(XY型)の人工授精では、ほぼ1:1の割合で仔魚が産まれたそうです。

こられの結果から、今回の研究ではクロソイの全メス生産に成功したと結論付けられています。

生産効率化への貢献が期待される

今回の研究では偽オスと通常のメスを人工授精させることで、100%メスとなる種苗個体群の生産に成功しました。これは世界で初となる事例とのことです。

オスよりメスが早く大きく育つメバル類の養殖では、この研究成果が生産効率化へ貢献することが期待されています。北日本の養殖魚としてクロソイが代表種になる日も近いのかもしれません。

(サカナト編集部)

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