10代の49.0%はコミュニケーションにAI活用...愚痴を聞いてもらう、人生相談、恋愛相談で セイコー時間白書
セイコーグループは2025年6月3日、6月10日の「時の記念日」にちなんで生活者に時間についての意識や実態を探る調査を行い、「セイコー時間白書2025」としてまとめた。同調査は2017年から毎年実施している。
調査は2025年4月8日~16日、15歳~69歳の男女1200人(男女各600人、各年代別に男女各100人ずつ)を対象にインターネットで行われた。
とにかく忙しい30代、自分らしいペースを保ちたい40代
今回、「時間価値に関する年代別傾向」をまとめているが、このうち働き盛り世代の30代、40代を見ていこう。
結婚、出産、育児などライフステージが大きく変化するのが30代だ。「自分のためだけに使える時間」を聞いた質問では、1日平均130.77分と全世代の中で最短という結果になった。
また、30代の90.0%が「もっとゆっくり過ごしたい」、87.5%が「もっと自分のために時間を使いたい」と回答。これからもやりたいことを聞くと、51.5%が「家族と家でゆっくり過ごしたい」、52.0%が「家族と出かけたい」と答えており、他の世代と比べて最も多かった。30代では仕事でもプライベートでも忙殺されている様子がうかがえた。
40代はどうか。「やることが無い時間が出来ると、つい不安になってしまう」という回答が40代では23.0%で、これは10代の48.5%、20代の42.0%とは対象的だった。
また、「せわしなく様々なことに追われることは楽しい」という回答も、40代では16.0%で、これも10代の36.5%、20代の30.5%に比べて少ない。一方、「ライフイベントと年齢に関する固定観念に違和感を感じる」と答えた40代は61.0%で、これは20代の61.5%と同程度で高かった。こうした結果から、40代では自分らしいペースを保ちたい気持ちがうかがえる結果となった。
効率化を図るべきこと、じっくり時間をかけたいことを使い分け
タイムパフォーマンス(タイパ)が時間の使い方のカギをにぎる近年、調査ではタイパとAIに着目し、時間の価値がどう変化するのかも聞いた。
タイパ意識については、60.4%が「タイパを意識して行動している」、62.1%が「タイパを重視する考え方は社会に定着」と答えた。これは24年の前回調査の結果(「タイパを意識して行動」は58.0%、「社会に定着」は60.5%)から微増だった。また、「何事もタイパを高め、時間効率を優先して生活したい」と答えた人は全体で54.3%で、とりわけ10代は64.5%と最も高かった。
このようにタイパ優先の意識が高まる一方で、「答えがすぐ出ないことでも、自分なりに考えたい」は74.3%、「じっくりと考え事をするのが好き」は74.0%、「時間を気にせずに没頭できる」は67.6%など、「時間的な効率追求とは逆行する意識」も見られた。
調査したセイコーは、「生産性を上げ効率化を図るべきこととじっくり時間をかけたいことを区分し、使い分けをする様子がうかがわれます」と指摘している。
活用したことがあるAI機能 「仕事の相談」11.0%、「人生相談」10.8%
AIの活用についても聞いた。この質問では、「AI機能を使って時間効率を高めている」と答えた人は30.3%、「時間効率を高めるためにChatGPTを使ったことがある」と答えた人は31.1%で、いずれも前年の調査の結果(「AI機能の活用」は22.2%、「ChatGPTの活用」は22.4%)より約8ポイント増加した。
また、「プライベートでAI機能を使っている」という回答は31.8%。年代別で見ると、10代では「時間効率を高める」は57.0%、「ChatGPTを使用」は64.5%、「プライベートでAIを利用」は60.0%となり、他の世代と比較して高いスコアだった。
AI機能を活用した経験があるものを聞くと、「仕事の相談に乗ってもらう」11.0%、「人生相談に乗ってもらう」10.8%、「イラストやイメージ動画を生成する」10.7%が上位に挙げられた。
なお、「コミュニケーション領域でのAI利用」に限って見た場合、全体の利用率は24.3%だったのに対し、10代は49.0%と高い割合で、AIとの個人的な会話(AIソロトーク)を実践している傾向も出ている。
AI利用について項目別に見た場合、10代は、「優しい言葉をかけてもらう」が30.0%、「人生相談に乗ってもらう」が27.5%、「愚痴を聞いてもらう」「慰めてもらう」「恋愛相談に乗ってもらう」いずれも22.5%となり、この結果は他の世代に比べてスコアが高い傾向だった。
なお、「AIによって自分の時間の幸福度は上がったか」を聞くと、全体の58.5%が「上がった」と回答し、10代~30代では60%を超えていた。また、「タイパによって無駄なく時間を使えることに幸せ・満足感を感じるか」を聞くと、肯定的だった人は全体では61.1%。なかでも、10代は70.0%と高かった。
「時には自分と違う意見にも耳を傾けて」
今回の調査結果に、実験心理学を専門とする、一川誠(いちかわ・まこと)千葉大学大学院 人文科学研究院教授は「AIを使えば時間効率は非常に高くなる。自分がやりたいことに時間を使えるようになれば、幸福度も満足度も高くなる」としたうえで、次のように指摘する。
「調査結果にも出ている通り、AIを使う若い年代、特に10代はその傾向が顕著です。一方、40代以降は幸福度も満足感もやや低くなっています。ここには、今まで築き上げてきたものがあるかないかで違いが出るのだと思います。上の年代からすれば、これまでの自分の実績がAIに取って代わられるかもしれない、ひょっとしたら今の仕事はAIがするようになるかもしれないと不安に感じ、科学技術の進歩を必ずしもポジティブなこととして捉えられない。一方、築き上げたものがまだない若い年代は、AI があれば効率的に仕事ができ自分の時間を有意義に使えると、ポジティブに受け止めるのだと思います」
また、10代のおよそ半数(49.0%)が人生相談などでAIソロトークを実践していた結果に、一川教授は次のようなアドバイスを述べている。
「今の若い人たちは、自分の愚痴に付き合わせるのは相手の時間を奪ってしまうと感じることから、手軽なAIとソロトークしやすいのかもしれません。ですが、誰かに話を聞いてほしいとき、AIだけでなく身近な人とも会話をして、時には自分と違う意見にも耳を傾けてみてはいかがでしょうか。AIの言うことをうのみにしない、これからのAI社会ではそんなリスク管理を身に付けることも大事になってくると思います」