アジア各国のスタートアップ新鋭たちが沖縄(OIST)に集結!DX、観光、地方創生、投資戦略、デジタルノマド……その本質とは?
観光やテックビジネスの一線で活躍する企業や事業者、さらに台湾、韓国、香港、中国、シンガポール、タイ、マレーシアなど、アジア各国のスタートアップが集い、議論や交流を深めるイベント「Asia Newtravel Bootcamp 2025」が、沖縄科学技術大学(OIST)で実施された。 主要産業である観光業についての議論を中心に据え、トラベル、ツーリズムに関わるトレンドやビジョンを語るピッチやセッションが行われ、様々な分野のスピーカーが沖縄とアジアの可能性について意見を交わした。
台湾・韓国のリーダーから聞くアジアでの事業・投資戦略
トラベルビジネスに携わる3人を迎えて開かれたセッション「台湾・韓国のリーダーから聞くアジアのでの事業・投資戦略」では、グローバルな市場の中、それぞれの事業でどのような強みを発揮しているのかということなどについて話し合った。 旅行にエンターテイメントをパッケージングした商材を扱うInterpark Triple(インターパークトリプル、韓国)のJun Shin氏は、競争力や会社の基盤について「トリップドットコムやアゴダなど、オンラインでの旅行予約ビジネスの競合が厳しくなっている中で、私たちはエンタメ興行のチケットを組み合わせることで差別化を図っています」と説明。「地域ごとにパートナーを見つけて提携し、コンテンツを合わせることでタッグを組むんです。そうすることで戦っていく基盤ができます」と話した。 台湾の大手旅行会社Lion travel(ライオントラベル)のRyan Seng氏はグローバルマーケットでの展開について「まさに我々の課題で、さまざまな他の企業とつながることで、より良いビジネスを作り出して拡張することが大事だと考えています」と述べ、Interpark Tripleと同様に企業間での提携の重要さを強調した。 また、オプショナルツアーの専門サイトKKday(ケーケーデイ、台湾)のMing Chen氏は「従来のOTA(Online Travel Agent:ネット上で取引を行う旅行会社)ではなく、新たなアイデアでのビジネス拡張を考えています。オンライン航空券予約の浸透の度合いを考えると、そこにはまだ手をつける余地があるので、テクノロジーにリソースを割くことがポイントになるでしょう」とビジョンを語った。
アジアのアクセラレーターが語るスタートアップトレンド
「アジアのアクセラレーターが語るスタートアップトレンド」と題したセッションでは、日本、シンガポール、タイ、香港、韓国と、スタートアップ支援に携わる5カ国の登壇者が集い、旅行業界でのITテクノロジーを活用する「トラベルテック」について議論。 それぞれの国のスタートアップ事情や他国でのビジネスチャンスについて語った。(※「アクセラレーター」はスタートアップや起業家をサポートし、事業成長を“促進”(=アクセル)する人材や団体、プログラムのこと) Lime HK(ライム香港)のLeung Patrick氏は自身の地域について「香港の人たちは日本や台湾に行ってたくさんお金を使います。テクノロジーをどのように最大限に活用できるかを考えると、ペイメント(=支払い)が注目の分野になってくると思っています」とコメント。この点にはMeet Ventures(ミート・ベンチャーズ、シンガポール)のJohn Lim氏が「私たちも同じ状況で、それを見据えて戦略的なビジョンを構築していかなければならないと思っています」と応答した。 韓国の現状は、K-POPなどのエンタメが世界規模で与えている影響について触れながら、CNT TECH(CNTテック)のJeon Minyoung氏が以下のように話す。 「K-POPやドラマによる影響は観光分野の事業に大きなインパクトをもたらしています。ドラマがブームになってロケ地を訪ねる人も増えていますし、K-POPがヒットしてダンススタジオでダンスを教わるというプログラムも生まれました。今後は技術を持っている人材をどのようにこうした事業に組み込んでいくかが課題です。例えば、韓国アーティスト風のメイクの真似をしたいという多くの人たちに向けて、人それぞれの肌に合わせたメイクを提案するスタートアップも次々に出てきているんです」 また、アジアをはじめとする他国とのコラボレーションについて、Techsauce(タイ)のNaoe Miyata氏が「タイ企業としては他国に参入していきたいと考えている会社も多いが、そうした企業がちゃんと注目されない状況にあります。特に地方行政との仕事をしたくて、ローカルにどのような課題があるのを知りたいと思っている人は多いですね」と述べた。 さらに、日本に関しては「日本からタイに進出するケースは既にあって、たくさんの参入企業が成長しています。サスティナビリティやエネルギーの分野で日本は色んな国から注目されているので、特に東アジアを舞台とすれば成長を見込めると感じています」との見解を示した。
デジタルノマドVisaとは?アジアを席巻するデジタルノマドの潮流
「デジタルノマドVisaとは?アジアを席巻するデジタルノマドの潮流」は、ITに関連する仕事で収入を得ながら長期的に各地を旅するライフスタイル「デジタルノマド」についてのセッション。台湾、韓国、日本の各地でノマドワーカーとして生活している参加者たちが、仕事場所やコミュニティビルド、継続性、協業の可能性などについて語り合った。 「アジアの中心という立地、自然環境のバランス、そして豊かな文化。沖縄はノマドに最適な場所だと思います」と切り出したのは、NomadResort(ノマドリゾート、沖縄)の代表・松本知也氏。空き家なども含めて、これまで使われてこなかったスペースを有効活用してノマドと地元地域を結びつける場を作る自身の事業について説明した上で、沖縄の課題として「移動がしづらい、WiFiが使いづらい、食の選択肢が少ない」という点を挙げた。 Digital Nomads Korea(デジタル・ノマズ・コリア、韓国)創設者のCho Jeong Hyun氏は、デジタルノマドのコミュニティビルドについて「オンラインの仕事をしながら1人旅をするライフスタイルなので、繋がりを求めている人も多いんです。フリーなコミュニティでオフラインイベントの企画をすることで、ビジネス以外の面でも持続可能な関係性を築ける可能性がたくさんあると考えています」とコメント。 デジタルノマドというライフスタイルの楽しい点については、KabuK Style(カブクスタイル、東京)ディレクターの南政暢氏が「オンライン/オフラインでのコミュニティを作るだけでなく、対面で集まることができるイベントを企画するのが楽しいんですよ。ノマドの人たちが求めているのは、記憶に残る・価値のある経験をすること、そしてその旅の経験を分かち合う機会。そこで楽しんでいる人たちの顔を見るのが一番の楽しみなんです」と話した。 次いで、Taiwan digital nomad association(台湾)のKai Hsu氏は、デジタルノマドのサポートをビジネスとして継続していくことについて以下のように述べた。 「始めはNPOとして活動して収益はなく、持ち出しで運営をしていましたが、政府と協業していくことで徐々に持続可能な体制になっていきました。さまざまな出会いや機会を生み出すことができる事業なので、どのようなパートナーが自分に合っているかを見出し、コミュニティの渦の中に色んなタイプの人を巻き込んでコラボしていくことが重要だと考えています」
地方創生の本質とは?DX、マーケティング、生活者目線の注目事例
最後のセッションは「地方創生の本質とは?DX、マーケティング、生活者目線の注目事例」をテーマに、ベルトラ株式会社代表取締役・二木渉氏、株式会社オガール代表取締役・岡崎正信氏が登壇し、琉球大学の山元淑乃准教授がモデレーターを務めた。 地方や観光業の現状とこれからについて、二木氏は世界各国の事例を、岡崎氏は自身が手掛けたさまざまな事業を例に挙げながら議論した。 「日本は観光資源が豊富な一方で、日本ひいてはアジア全体が観光に関してはまだまだ発展途上と言わざるを得ません」と二木氏。 観光先進国はヨーロッパ、とりわけ環境影響への配慮についてはオーストラリアが先進的な取り組みをしていると現状を説明しつつ、世界各地の事例を列挙していった。 例えばポートランド(アメリカ)は「古き良きものを大切にしていて、地産地消を徹底した街づくりをしています」と特徴を説明。クラフトビールやチェーン店ではないコーヒー、古着などのファッションも含めて「その街“らしさ”を追求しているところに学べることがあると思います」。 続けて「リサイクル率90%、島内の移動はカートのみなど、徹底的な環境コミットメントが成立している観光地」としてウィットサンデー諸島(オーストラリア)に着目。こうした取り組みをすることで「環境問題に対してのリスペクトを持った顧客がリピートするサイクルが出来上がっています」とコメントした。 そのほかにも“美食の街”として知られるバスク地方(スペイン)や景勝地として人気のあるヴェルナッツァ(イタリア)も紹介した上で、二木氏は「経済的な収入だけでは幸福は大きくなりません。地元の人たちも含めた地域のコミュニティがしっかりと形成され、“持続する”ことではじめて地方創生が成り立つと考えています」と語った。 「私は“暮らし”をつくることを徹底的にイメージしています。観光地をつくっているわけではなく、暮らしの先に観光の可能性があるんです」と語り始めた岡崎氏は、「公民連携」や「農村と都市の融合」といったキーワードに触れつつ、自身が手掛けた「オガールプロジェクト」を紹介。その土地が固有に持つ「暮らし」に焦点をあてた視点から、まちづくりについて、そして沖縄と観光のあり方について述べた。 「作らなければならないのは都市であり、都心ではありません。土地が高いところでやることを土地が安いところでやるべきではないし、東京の真似事をすべきではないんです」と岡崎さんは強調する。都市は「カルチャーと多様性の生態系」、都心は「機能が集約された装置」と、双方の違いを明確に示した上で観光についての論に展開させ、都心的な観光=『見せるための場所』、都市的な観光=『暮らしが息づく場所』と定義づけた。 沖縄の可能性については観光地としての知名度がある一方で、課題も指摘した。「リゾート偏重の観光モデルは経済の一極集中を生み、地域の空洞化が進みます。そして本土資本による開発は、結局のところ地元経済への還元が限定的になるのが現状です」。 こうした状況を踏まえた上で、沖縄が目指すべき未来として岡崎氏は「『観光のために暮らしを変える』のではなく、暮らしを磨くことで観光が生まれる地域づくりが必要です。地域の歴史や文化、日常の営みを観光資源として再発見することが、持続可能な地方創生につながります」と解説。「“暮らし”なくして観光なし」と断言した。 また、2023年に開店したコストコの北側区画整理地域の開発で、現在岡崎氏が携わっている南城市で公民連携によって進行中のまちづくり計画についても触れた。「行政のタテ割りでは一気に解決することは出来ない状況があります。南城市の一次産業・暮らし・観光の可能性を1つのプロジェクトで解決しようとしています」と話した。
セッションのまとめでは、観光に関わるスタートアップについて話題が及んだ。二木氏は「デジタルの世界での情報収集は出来るが、実際に自分の体を動かす旅の中にビジネスチャンスがあります。これから向かう観光のあり方を考えるためにも、色んな場所を旅してください」と呼びかけた。 「街のコンテンツを作るという意味では、今ある要素を掛け合わせるだけでも想像できないような価値が生まれます」と岡崎氏。自身で手掛けた「保育園×小児科」「バレーボール×ホテル」といった例を引きながら「目立つことをやれば、地球の裏側からも見える時代です。そういうコンテンツを作り出すこともスタートアップビジネスの役割だと思います」とコメントした。 これまでの議論を受け、モデレーターの山元が最後に沖縄の農業や水産業について「気づいていないことに目を向けることに意識的になってほしい」と言及。その上で「沖縄の人たちの暮らしを最優先に考える観光のあり方が、沖縄はもちろんアジア全体にも広がっていけばいいなと思っています。地方を愛する人たちが集い、地方を“食い物”にする人たちを淘汰していく機能を持ってほしいですね」と語り、セッションの幕を閉じた。