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MAD MEDiCiNEが今の時代に“刺さる”理由 迷えるすべてのアリスたちへ捧ぐ『いちばん幸せな死に方。』(MV&ミニアルバムレビュー)

Pop’n’Roll

MAD MEDiCiNEが今の時代に“刺さる”理由 迷えるすべてのアリスたちへ捧ぐ『いちばん幸せな死に方。』(MV&ミニアルバムレビュー)

“狂おしいほど、依存して”をコンセプトにしたアイドルグループ・MAD MEDiCiNEが、短編映画級のストーリーを持ったMV「アリス心中」を公開。また、6月20日(木)デジタルミニアルバム『いちばん幸せな死に方。』をリリースした。圧倒的な世界観で構築されたこれらの作品を通じて、彼女たちは何を魅せようとしているのか? 今回、冬将軍が、MAD MEDiCiNEの最新作品を独自の視点で分析する。

・MAD MEDiCiNEの写真 26枚

死は苦悩からの解放か、孤独からの開放か、
そして2人の再会、それは永遠を意味するものなのか——。

「これは私の復讐と後悔の物語」

そんな疑問を投げかける短編映画級のストーリーを持ったMVが公開された。MAD MEDiCiNE「アリス心中」である。

MAD MEDiCiNE「アリス心中」MV

いじめを受けていた主人公・はなねが自ら死を選ぶ。そして彼女のかけがえのない親友は何を想う? 

それから数年後——。

これはバッドエンド? それともハッピーエンド? ……解釈の仕方は見る人次第だろう。何度でも観たくなるほど惹きつけられ、観るたびに新たな発見があり、印象も変わり、新たな捉え方ができる、そんなMVだ。

MAD MEDiCiNEは、誰もが抱える心の闇と病みを強く歌うグループだ。キャッチーなメロディに乗せて、普通であれば吐き出すことのできない負の感情を鬱くしく揚々と歌う。グループコンセプトである“狂おしいほど、依存して”が表すように、孤独に寄り添い、背中を押してくれる。時には突き放し、焦燥感を煽ってくることだってある。

そんな彼女たちに共感、共鳴していく現代の若者、Z世代は多くいる。しかし、それはいつの時代でも変わらずに求められてきたものだろう。壮絶な最期ではなく“消えてなくなりたい”という死生観は、今、家庭を築き家族を持った世代であっても、将来や現状に思い悩んだ10〜20代の頃にそう考えた者は少なくないはずだ。

そうした若者の代弁者は従来、アーティストやバンドが請け負っていたものだった。だが、現在はその役割をアイドルが担うことが多くなっている。そうした不安や弱い気持ちを力強く歌ってくれるアイドルの代表格が言わずもがな、マドメドこと、MAD MEDiCiNEである。

従来の王道アイドルスタイルとは異なるマドメドの非現実的でノワールな世界観とメンバーのビジュアル。その魅力は皆が幼い頃に見たヒーロー&ヒロインモノの物語の中で、正義の主人公よりも相対する悪役に惹かれてしまう、そんな心理に似ているかもしれない。アイドルシーンにおけるヴィラネスか。

「アリス心中」MVにおいても、そうしたマドメドメンバーが物語を煙に巻く存在として登場している。はなねの苦難に現れるメンバー。それは彼女の心を表す声? その存在は天使なのか悪魔なのか。本編公開前にアップされた「—迷えるすべての『アリス』たちへ—」と題された予告編が、本編を補完している。

—迷えるすべての『アリス』たちへ—

机に花を置かれ孤独な絶望を感じる彼女に対し“私はずっと味方だよ”と囁く、ありすりあ。下駄箱のいたずらに“ぶっ殺しちゃえよ”と激しく挑発するQ酸素。トイレでのいじめに限界を感じたところに“くっだらねぇ。お前のことだろ。お前が決めろよ”と言い放つ、唯一むに。そして、自分をいじめる者たちへ復讐を促すように憑宮ルチアが、優しく優しく語りかける。

“えらいね、えらいね。よく頑張ったね。……もう死んじゃおっか”

飛び降りるために屋上へ上がったはなねに、那月邪夢が魔法のステッキを渡した。もし魔法が使えて、あいつらを倒すことができたなら……それはもちろん妄想の世界でのことだ。

《ふわふわりんっ》と楽曲がキュートに急変するパートではそんな妄想アニメーションと、オーバードーズによって見える幻想世界を想起させるシーンが挿入される。はなねに迫る、真紅の邪神のごとき出立ちの邪夢の正体は……、という展開が後半に待っており、冒頭のシーンへと繋がっていく。

細かい考察は視聴者各々に任せるとて、主人公・はなねとその親友が“いちばん幸せな死に方”を追い求めていく物語。それをこちらの視聴者側にも投げかけていく映像作品であり、楽曲である。抽象的な楽曲の詞がMVを以って完成されていると言ってよいだろう。

流れ始めるエンドロール(=走馬灯)
晴天の中謳う

きっと来世では幸せになれるから
心配無用 怖くない アリス心中
さらばお元気で
MAD MEDiCiNE「アリス心中」

最後の句を高らかに歌い締める邪夢の歌声は嬉しそうでもあり、達観して嘲笑っているかのようでもある。作中に登場するアリス作のSNS小説『アリス心中』は、この楽曲とMVそのものであり、これを観ている我々はマドメドとともに心中する運命にあるのかもしれない。

さて、後半は「アリス心中」がリードになっている6月20日(木)にリリースされたデジタルミニアルバム『いちばん幸せな死に方。』をもとに、マドメドの音楽について迫っていきたい。

MAD MEDiCiNE『いちばん幸せな死に方。』

マドメドが放つ最幸傑作『いちばん幸せな死に方。』

マドメドは“ゴシック×デジタル”を掲げており、ロックテイストに溢れた楽曲でありながらも、サウンドのベースになっているのは、比較的音数少なめの無機質なシーケンス&シンセで構成されたデジタルサウンドである。ドラムが入っていても、あえて打ち込みっぽさを強調していたり、ギターサウンドもアンプを用いたエアー感は少なく、ラインで出力したような意図的にのっぺりとしたサウンドプロダクトを用いたりしている。

マドメドの耽美でゴシックな、徹底的な世界観構築はメロディやサウンドを軸に、楽曲のアレンジメントと構成に大きく表れている。従来のポップスのセオリーに囚われることなく、複数の楽想を次々に配列した極めて自由で奔放華麗な楽曲は、西洋クラシック音楽の狂詩曲に通ずるダークファンタジーだ。

これまで“サーカス”“チャイナ”と、風変わりなテーマを用いてきたが、本作『いちばん幸せな死に方。』では“Märchen(メルヘン)”を掲げている。ダークサイドに特化してきたマドメドが新たに挑んだ新境地、それが『いちばん幸せな死に方。』なのだ。

M1「アリス心中」

デジタル、ゴシック、ダークファンタジー……そして新たにメルヘンと、マドメドが武器とする要素をすべて詰め込んだ極めつきこそ「アリス心中」であるだろう。縦横無尽に駆け巡るメロディ。8ビットサウンドにストリングスが織りなすオブリガード。それらが砲戦の如く打ち鳴らされるバスドラムによってくり出されるブラスト、Dビートによって急展開していく楽曲だ。

いうまでもなく、先述のMVでの壮大な世界観が楽曲を大きく支配しているわけだが、いち楽曲としてみてもすさまじいほどのジェットコースター展開である。急に挟み込まれる《ふわふわりんっ》のキュートアート然り、情報過多になりがちな素養のまとめ方に感服。それは先に述べた狂詩曲に通ずるところであり、超絶技巧が次々と炸裂していくフランツ・リストのピアノ曲を彷彿とさせる。

そうした難解なメロディを紡いでいくメンバーの歌唱力も注目すべきところ。その容貌魁偉な圧倒的存在感で観る者をねじ伏せていく邪夢の歌声は、柔軟な潤いを与えてくれる。さ行た行の無国籍的なウェットさを持つ発音は彼女独特のもので、ぬらりとメロディに絡みつきながらも、スッと詞が入ってくるのは特筆すべきところ。対照的にドライに響くQ酸素の野太い歌い上げが、マドメドのボーカルグループとしての根幹にしっかりと存在している。

奇数倍音のような響きを持つむに。言葉をおざなりにしていくようなクールさから耳にまとわりつくような粘り、そしてがなりとしゃくり……といった癖をフックとして用い、本作では楽曲ごと、いやフレーズごとにその声色を使い分けている。飄々とした表情の読めない、りあの声が珍妙な不気味さやダークさを強調させ、5人の中で最もフィメールボーカルとしての明瞭さを持ったルチアの歌声が、マドメドをアイドルの枠に嵌め込んでいると言えるだろう。

そうした多様性を持ったボーカリゼーションを含め、バリエーション豊かな本作をギュッと凝縮したダイジェストのように、アルバムの幕開けを飾っているのが「アリス心中」だ。一聴、目まぐるしい急展開と場面転換に圧倒されるものの、聴けば聴くほどにマドメドらしさを感じることができる。これまでの集大成のような趣もあり、これからマドメドを知る人への名刺代わりにもなる楽曲だ。

M2「人肉アントルメ」

「アリス心中」で撃ち乱れたリズムは「人肉アントルメ」へと流れていく。スラップベースとスライスされたカッティングギター、細かいパッセージによる緻密な絡みが、退廃的なアンサンブルを構築しながら乱舞していく。《愛故エ》《愛飢エ》といった、語感と文字の相互から生まれる言葉遊びがリズミカルに転がっていき、斜に構えたシニカルなボーカルも相俟って、タイトルさながらの不気味さを醸している。メロディのベクトルとしてはこれまでのマドメド楽曲に多く見られた十八番ではあるものの、先述の弦楽器の絡みがこれまでにない斬新な聴き心地を生み、吐き捨てるようなQ酸素の歌い回しと、むにの粘ついた語頭の発声がアクセントになっている中毒性の高い楽曲である。

M3「愛執迷宮ドールハウス」

続いて、むにの儚い歌声で始まる「愛執迷宮ドールハウス」はマドメドの耽美で退廃的な部分を司どる。どこか懐かしさを感じる起伏の大きいメロディを5人が丁寧になぞっていく。マドメドが持つV-ROCKイズムを強く感じる楽曲だ。本作の中では最もシンプルな楽曲構成であり、アレンジもバンドサウンドに寄せている。しかしながら、歌もサウンドも冷淡としていて、哀愁感があるようで人間味を感じさせない人形の世界。《残された部屋の隅 何度も何度も 思い出すよ》という、ルチアからむにへと流れる落ちサビが最も感情に表れたパートである。そして、アウトロに流れるグロッケンシュピールが楽曲の余韻を残していく。

M4「東京ブラックアウト」

ボカロやゲームミュージックといった、メインストリームとは少々異なる、ユーザートレンドとしての現代的J-POPをアイドルソングとして見事に昇華しているところもマドメドの魅力だろう。「東京ブラックアウト」はそうしたテイストを呑み込みながら、オリジナリティに溢れたデジタルサウンドで固められたダークチューンだ。歪んだベース音や散りばめられたグリッチがノイジーな世界を作り出していく。濁音やアクセントを巧みに操るむにのボーカルが実に蠱惑的で、聴き手を翻弄していく。王道アイドルではない覇道としてのアイドル、MAD MEDiCiNEを存分に堪能できる、妖しく狂おしい怪曲である。

M5「この身体の傷跡は、来世でも巡り逢うための目印。」

ラストを飾るのは、「この身体の傷跡は、来世でも巡り逢うための目印。」。これまでマドメドを聴いてきた者であるほど、歌い出しのメロディに驚愕することだろう。ここまでメジャーキーで攻めてくるのは、初めてではないだろうか。ピアノを主体とし、ストリングスや鐘の音で彩られるアレンジ。本作の中で最も“メルヘン”を表している楽曲である。そしてなによりメロディのキーの高さは特筆すべきところ。邪夢をはじめ、ミックスボイスからファルセットへと流麗なボーカルは圧巻だ。華やかなサウンドプロダクトに耳を奪われ、歌モノポップスとしての完成度も高いが、楽曲タイトル通りの“含み”を持たせた詞世界はマドメドならではのもの。

さよならだ
こんな痛いだけの 身体と人生だったけど
傷跡は来世もきっと 迷わずに巡り逢うための目印
M5「この身体の傷跡は、来世でも巡り逢うための目印。」

「アリス心中」から追い求めてきた“いちばん幸せな死に方”は、この楽曲で1つの答えに到達した、といっていいのかもしれない。

これはバッドエンド? それともハッピーエンド? ……解釈の仕方は聴く人次第だろう。何度でも聴きたくなるほど惹きつけられ、聴くたびに新たな発見があり、印象も変わり、新たな捉え方ができる、そんなアルバムだ。

MAD MEDiCiNE『いちばん幸せな死に方。』

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