平成の大合併は「失敗だった」のか 子どもたちのアイディアが地域の前向きな変化に
人口減少が進む中、子どもの意見を取り入れてマチづくりを進めている地域があります。
「失われたもの」より「今あるもの」に目を向け、地元の魅力を見つめなおす、住民による地域おこしとは。
連載「じぶんごとニュース」
地元の「今あるもの」
子どもから大人まで、65人が集まりました。
「大滝で発電をしてその電気を大滝中に回す…」
「二次元コードを貼って、携帯から読み込んだらその店の情報が出たり…」
真剣なまなざしで話しているのは児童たちです。
「大滝って天の川が見える。すごい」と天文台の職員の声が聞こえたと思えば、「学校給食にエゾシカ料理、クマ肉料理が出たらいいですよね」と話すのは地元ハンター。
子どもも大人もさまざまな人が集まっている理由は、地域の未来について話し合うためです。
「平成の大合併」の結果…
伊達市大滝地区。かつては「大滝村」でした。
750人ほどが暮らしていて、栄養豊富なアロニアや地熱を使って栽培するきのこなどが特産品です。
2006年3月、「平成の大合併」に乗じて大滝村は壮瞥町を挟んで隣り合う伊達市と飛び地合併しました。
合併により、環境対策の充実などが期待されましたが…
大滝地区在住の藤田隆明さんは「僕はメリットはまだ全然感じていない」と話します。
「伊達市は雪がほとんど降らないから除雪に対する考え方が違って、朝例えば5センチ10センチと積もって1回は除雪するけどそのあと除雪がなくて通れないということはすごく気になっている」
次第にマチを離れる人が増えていく…
大滝村では福祉の村作りを進め、地域の子どもが施設の利用者とふれあう機会が多くありました。
しかし合併後、8箇所あった福祉施設は利便性を求めて伊達市に移動したり、働き手不足により倒産したりするなど、4箇所に。
人口流出が進んだ結果、合併から約20年で、人口は半減しました。
子どもが「大滝だからしょうがないよね」
少子化も進み、6年前、小学校と中学校が統合し、大滝徳舜瞥(おおたきとくしゅんべつ)学校が誕生。
阿部隆之校長は、子どもたちに対して感じていることがありました。
「『合併が失敗だった』とか大人が言っているのを子供たちは聞いていると思うんですけど、『大滝だからしょうがないよね』とか、あきらめたような話をすることをよく耳にしていた」
7年前、地域の未来について大人たちで話し合う機会が設けられましたが…
「人口が減り、行政サービスが立ちゆかなくなるなるのではないか」
「昔のように大滝が繁栄することはもうない」
そんな否定的な意見が多くあがり、住民の目は、地域に「ないもの」や「できないこと」に向けられていたのです。
「大滝っこミーティング」
そこで阿部隆之校長は、大人たちの話し合いに、子どもを巻き込むことにしました。
この日ひらかれたのは「大滝っこミーティング」。地域の好きなところや、やってみたいことを子どもから大人までみんなで語ります。
緊張気味の子どもたちでしたが、次第に様々な意見が飛び出します。
大滝徳舜瞥学校8年生の児童は「大滝には長流川という大きな川があって、そこの魚は身が詰まっていてすごくおいしい」と話します。
「魚を釣るイベントをやったりして釣った魚を調理して食べてみたり、きのこ王国で売ってみたりしたらいいのでは」
4年生の児童も「シカ角を輪切りとかにして、ビーズみたいに穴を開けてそれでネックレスを作れたらいいかな」とアイディアを出します。
子どもたちに刺激を受け、次は大人からも意見が出ます。
「伊達市の観光大使さんはいるが、大滝区であってもいいんじゃないかな。私も大滝にかなり長くいますけど、知らないところもまだまだいっぱいあるんじゃないかと思うので」
子どもたちから学ぶこと
約2週間後、早速子どもたちのアイディアが実現しました。
講師に招かれたのは地元のハンター。自らがしとめたシカの角とクマの爪を用意しまし
た。
地元ハンターの橋本誉弘さんがレクチャーします。
「45度くらい。ちょっと角度をつけて、動かしながら。こうやって」
子どもたちは休憩もとらず、やすりで角や爪を磨き続けます。好きな色のビーズと一緒に紐に通したら、完成です。
大滝徳舜瞥学校5年生の児童は「角度とかを考えながら削るのが少し難しかった」と感想を教えてくれました。
地元ハンターの橋本誉弘さんは「感覚の違いや感性の違いが大人になって忘れている部分もあったので、こっちが逆に学ぶような感じもした」と話します。
保護者も、「子どもにとってすごく貴重な体験」と感じたといいます。
子どもから、大滝の好きなところを聞いたという保護者もいました。
「学校のすぐ近くに菊子桜っていう桜があるんですけど、実際自分で見に行ったのは本当に何十年住んでいてもここ何年かで初めて、子どもが学校に行くようになってから。すごいなと思うのは、そういうのを改めて知るっていう機会、いい機会になっているなと思う」
前向きな変化
阿部隆之校長は、前向きな変化を感じています。
「ちょっとずつ地域と関わって一緒にやるということが増えていって、子どもたちも地域に目が向いたりとか、地域の方も学校に目を向けたりとか足を運んでもらって、コミュニケーションが増えたことが影響しているのかなと思う」
「今ある魅力」に気づいた大滝の大人たち。きっかけを与えてくれる子どもとともに住民による「地域おこし」に取り組んでいます。
大滝っ子ミーティングは2回目の開催でしたが、前回のミーティングでは、天文台職員である住民のアイディアが実現。
ふだんは宿泊客に限定されているリゾートホテルの天文台に、地元の子どもや大人を招き、星空観測会を開きました。
大滝地区は豪雪地帯のため、1月には雪の滑り台やかまくらを作るほか、餅つきなどをして交流を深めるということです。
連載「じぶんごとニュース」
文:HBC報道部
編集:Sitakke編集部あい
※掲載の内容は「今日ドキッ!」放送時(2025年11月12日)の情報に基づきます。