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STAP Sigh Boys インタビュー――トークボックスと宇宙哲学が交錯する。STAP Sigh Boysはあります!

encore

──まずは日本で音楽活動を始めた理由を教えてください。

「暇だったから(笑)。コロナ禍で家から出られなかったときに、やることがなくて。ジモティーで3,000円のギターを買って音楽を作り始めました」

──日本にはいつからいらっしゃったんですか?

「2009年頃かな?」

──コロナ禍で音楽を始めるまでは、日本で何をされていたんですか?

「遊んでた(笑)。クラブに行ったり、デートをしたり…」

──いいですね。そもそも日本に来たのは何がきっかけだったのでしょうか?

「YouTubeがローンチされたときに、たまたまYMO(YELLOW MAGIC ORCHESTRA)の「TECHNOPOLIS」︎の動画を見て、“バブル時代の日本はすごいな”、“実際に見てみたいな”と思って、日本に来ました。その頃はロンドンに住んでいたんですけど、日本はロンドンより楽しかったので、“住みたいな”と思って住んじゃった」

──日本に来たのはYMOがきっかけということですが、それまでのSTAP Sigh Boysさんの音楽遍歴はどのようなものなのでしょうか?

「5歳のクリスマスに、サンタさんからウォークマンとマイケル・ジャクソンのアルバム『Bad』をもらって。そこから音楽にハマってしまいました。でも、一番大きく影響を受けたのはダフト・パンク。好き過ぎてお母さんがダフト・パンクのロゴを形取った誕生日ケーキを作ってくれたよ」

──それほどまでにダフト・パンクに惹かれたのはどうしてだと思いますか?

「それまで四つ打ちの音楽はあまり聴いていなかったからかな?」

──“こんな音楽があるんだ!”という衝撃でしたか?

「そうそう」

──そこからどんどんテクノ・エレクトロにハマっていったんですね。日本に来てからも、聴いていたのは基本はテクノやエレクトロですか?

「そうね。YMOとか矢野顕子さんとか、あの時代の音楽がとにかく好きで」

──そしてコロナ禍でギターを買って音楽を始めるわけですが、暇だったとはいえ、そこで音楽を選んだのはどうしてだったのでしょうか?

「音楽はずっとやりたいと思っていたから。音楽をやる前に、プログラミングの勉強をしようと思ってMacBookを買ったんだけど3日坊主でやめちゃいました。でもすごく高価なものを買っちゃったから、他の使い道を見つけようと思って(笑)」

──音楽を作り始めてからは、ずっと今の音楽に通ずるようなテクノやエレクトロをやっていたんですか?

「いいえ。ギターを使いたかったから、インディポップと呼ばれるようなものだったかな…」

──そうか! ジモティーでギターを買っていますしね。

「そう。だけど、どんどんテクノっぽくなっていきました。でも今、僕がやっている音楽もテクノとは言えないよね?70年代ポップスの影響もあるし、いろいろ混ざっていると思います」

──ご自身が影響を受けてきたものや好きなものを混ぜていったら、どんどんSTAP Sigh Boysの音楽が見つかっていったんですね。

「そうだね。歌い方はビージーズとかから影響を受けているし、音楽はダフト・パンクのようなエフェクトを使っていて。だけど、ダフト・パンクよりも複雑なアレンジをしています。というのもダフト・パンクはループを多用するけど、僕はすぐ飽きちゃうからそれができなくて」

──STAP Sigh Boysの楽曲の展開には、どこかJ-POPさがありますよね?

「でんぱ組.incとかサブカル的なアイドルに興味があって。ヒャダインさん(前山田健一)の曲がすごく面白いと思っていました。特に「Empathy(共感放送!)」という曲は、彼へのオマージュかな?」

──ヒャダインさんの楽曲からの影響だったんですね。

「家で音楽を聴いているときは、例えばThe Beatles、Aphex Twin、でんぱ組.inc、きゃりーぱみゅぱみゅ…みたいな感じ。本当になんでも聴いています」

──そして、令和六年六月六日にSTAP Sigh Boysというアーティスト名で本格的に活動を始めました。

「僕は流行語大賞に興味があって。“STAP細胞はあります”もそれで知ったんだけど。あるとき知り合いが“STAP細胞はあります”というタトゥーを入れたんです。その話を聞いて爆笑したんだけど、その出来事が頭に残っていて」

──それでご自身のアーティスト名に?

「うん(笑)。誰も聴いていないと思っていたから、アーティスト名はなんでもよくて。それに、最初の頃は悲しい曲を作っていたので。だから、“ため息”を意味する英語“sigh”が入っているのもちょうどいいと思って」

──なるほど。というか、最初は悲しい曲、センチメンタルな曲を作られていたんですか?

「そう。大江千里さんの「格好悪いふられ方」みたいな、ハートブレイクを歌っていました」

──そこから、宇宙を歌い始めたのはどうしてですか?

僕は日本語は一応できるけど、パーフェクトにはわかっていないから、生活していても半分くらいしか理解ができていなくて、多くの時間はぼーっとしていて。そういうときはほとんど、宇宙のこと、科学のことを考えています。だから自然とそういうテーマを歌おうと思っていったんだと思います。でも宇宙は、子供の頃から興味があって、夢は宇宙飛行士になることでした。だから前澤さん(株式会社ZOZOの創業者・前澤友作。宇宙旅行を行ったことでも知られる)ももちろん好きで。ハロウィンでZOZOスーツを着たコスプレをしたこともあるよ(笑)」

──そうして宇宙への想いと、ご自身の影響を受けた音楽を組み合わせてSTAP Sigh Boysが確立されていったわけですが、今回、『Universe』というアルバムを作ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

「いろいろあるんだけど…まずは、大阪にあった味園ユニバースという老舗ライブハウスが閉館したこと。ずっとそのステージに立ちたかったんだけど…。そのニュースからは影響を受けました。あと、前のアルバム『Chord』もジャケット写真が宇宙っぽかったから、そこから宇宙関連の曲を作り始めて、どんどんテーマが固まっていきました」

──ではアルバムを作るうえで核になった曲はありますか?

「…「君たちは宇宙生まれ」かな」

──この曲はどういうところから生まれた曲なのでしょうか?

「汎神論という理論があって。それは、宇宙、世界、自然に存在するすべてが神のものであるという考え方。要はU.S.A. for Africaの「ウィ・アー・ザ・ワールド」のような考え方だと思って、汎神論を元に曲を作っていきました」

──先ほど“「Empathy(共感放送!)」はヒャダインさんリスペクト曲だ“という話がありましたが、この曲はヒャダインさんへのオマージュというところから作り始めたんですか?

「いえ、お昼寝をしようとしたときになんとなくメロディが頭に浮かんで。起きてすぐ作り始めました。作っている途中で“ヒャダインっぽいな”と思って、もっとヒャダイン的な曲にしようと詰めていきました」

──“ヒャダイン節”みたいなものは、ご自身の要素として体に入っているものだと思うのですが、実際に意識して作ってみて何か気づいたことはありますか?

「コール&レスポンスが合うと思って、<共感放送!>というコール&レスポンスのパートを入れました。“共感放送”という言葉ってちょっとナンセンスな言葉ですよね? 日本のアーティストが英語で歌うことってあると思うんだけど、ネイティブスピーカーとしては“ちょっと意味わかんないな”と思う言葉を歌っているときもあって。だからそういう感じで、僕も意味がわからない日本語を入れてみました(笑)」

──そういう意図での言葉選びだったんですね。確かに“共感放送”という単語はないですけど、言いたいことはわからなくもない、という言葉ですよね。

「そうそう。日本人は絶対に言わないフレーズでしょ?(笑)」

──アルバム『Universe』で、新たに挑戦したことはありますか?

「「ジャイアント・ステップス」というジョン・コルトレーンの有名なジャズの曲があって。その曲は、サークル・オブ・フィフス(五度圏)という音楽理論に基づいて作られています。だからそのサークル・オブ・フィフスの勉強をして、同じ作り方をしたのが「The Doldrums」です。ジャズに詳しい友達に聴いてもらったら、2秒で“「ジャイアント・ステップス」だ!”と気づいてくれて、すごくうれしかったです」

──本当に、曲ごとに違う作り方をされているんですね。

「すべての曲で、作り方や使っている音、楽器は全部違います。自分ができるだけ面白いと思うアルバムを作りたかったから」

──詞と曲、どちらから先に作るかというのも曲によって違うんですか?

違います。「前澤, Take Me to the Moon」は、彼に関する曲を作ろうと思って作り始めましたし」

──これは前澤さんの曲を作ろうというところからだったんですね。

「はい。数年前、前澤さんが一緒に月に行くメンバーを募集するコンペティションをしたでしょ。そこで選ばれたアーティストより、“僕のほうが良かったんじゃない?”と思って作ったのがこの曲です」 

──だから、“Take Me to the Moon”なんですね。

「そう。<前澤, Take Me to the Moon>というフレーズを入れようと思って曲を作りました(笑)」

──もはや執念ですね(笑)。前澤さんにも届くといいですね、この曲。

「前のアルバムでは「瀬戸内磁石」という曲も作ったしね(笑)」

──多彩な楽曲が揃ったアルバム『Universe』が出来上がりましたが、ご自身の手応えはいかがですか?

「今まででベストです。前のアルバム『Chord』も自信作でした。“作曲家として、もしこれが最後のアルバムになったとしても悔いはない“と思っていました。だから、次にまたアルバムをリリースをするなら、『Chord』よりいいアルバムじゃないとリリースできないと思って。すごく頑張って作ったから、すべての曲のレベルが上がったと思います」

──前作がそこまで自信作だと、乗り越えていくのも大変だと思いますが、それを乗り越えていくということも楽しさの一つですか?

「はい。プレッシャーはいいことだと思います。ストレスがあることでもっと頑張れるから」

──アルバムのジャケット写真も素敵ですが、このジャケットはどのようにできたものなのでしょうか?

「僕がよく行っているスナックに、昭和っぽいちょっとエロいイラストが描いてあって。“いいな”と思っていたので、そのイラストを描いた吉岡里奈というイラストレーターにお願いしました」

──懐かしいiMacなども見えますが、ジャケットの内容に関してはどういうイメージを吉岡さんにお伝えしたのですか?

「君たちは宇宙生まれ」をシングルでリリースしたときのジャケット写真が、僕をイメージしたイラストなんですけど、それがパソコンに入っているイメージです。令和六年六月六日に、僕のパソコンが爆発して、来世・宇宙・現世を結ぶポータルを開いた…その場面です」

──このジャケット写真もそうですが、昭和の世界観に音楽的にも視覚的にも惹かれていますよね。どうして惹かれるんだと思いますか?

「もともと古着とかビンテージに興味があって。古着しか着ないし、ギターとかエフェクターも、ハードオフで買ったものがほとんど。ロンドンに住んでいるときも友達はみんな古着屋のスタッフだったし」

──昭和のものが好きというよりも、日本に限らず、あの時代のものが好きというなんですね。

「そう。今、聴いている音楽はだいたい70年代のものだし」

──それを、2025年にご自身が生み出すものとして作っているんでしょうか?

「僕はあいにく2025年にいますけど、もし50年前に生まれていたら、あの時代に音楽活動をしたかったです」

──では最後に、この先のSTAP Sigh Boysとしての目標や展望を教えてください。

「日本人ではない僕が日本で音楽活動をしているのは珍しいと思うんです。洋楽なのに日本でやっているなんて。だけど、海外の人は僕の音楽を全く知らない。だから、これから海外の人が僕のことに気づいてくのが楽しみです。そのときには日本でももっと人気者になっていたいな」

──海外で活動したいという気持ちもあるんですか? それともあくまでも活動は日本で?

「今までは海外のリスナーのことは考えていなくて、日本のリスナーに向けて音楽を作ってきました。だけど最近は海外でも日本のシティポップが流行っているので、僕も謎な存在として、聴く人がいたらいいな」

(おわり)

取材・文/小林千絵

RELEASE INFORMATION

2025年10月31日(水)発売
VSCD-9750/3,300円(税込)

Streaming >>STAP Sigh Boys『Universe』

LIVE INFORMATION

2025年12月14日(日) 名古屋 鶴舞KDハポン
- act -
THYPALM/TAMIW/STAP Sigh Boys

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