センラ「自分のやりたいことって、結局センラーに喜んでもらいたいからやってるんだなって」 “チョコレート”がテーマの東京ガーデンシアター公演をレポート
SENRA LIVE TOUR 2025 -Brun-
2025.11.14 東京ガーデンシアター
深まりゆく秋の色は、 甘くとろけるような歌声とともに。このたび11月14日に開催されたのは、『SENRA LIVE TOUR 2025 -Brun-』の東京ガーデンシアター公演だ。
シックなスーツで装ったセンラが、今宵まず我々へと届けてくれたのは9 月に動画が投稿されたのち、10月には最新アルバム『Brun』のオープニングチューンとしても世に出ることとなった「アイボリー」。ハンドマイクでR&B 色の濃いメロディラインを歌いあげつつも、両サイドにはふたりのダンサーを従えて鮮やかな踊りっぷりまで披露する様子は、彼が浦島坂田船でのライブや配信活動を通じて見せる愉快なワチャワチャ感とは良い意味でほど遠い。成熟した大人のボーカリスト、そして歌だけでなくパフォーマンスの面でもジェントルで上品な香りを漂わせた、素晴らしきエンターテイナーの姿がそこに在ったのである。
続く「NIGHT SCREAMER」でも歌とダンスを堪能させてくれたあと、『Brun』収録の令和式シティポップ・チューン「めんどうで、甘い。」と、以前センラのライブにゲスト出演したこともあるねじ式作の「アッシュなミルクティー」では、センラがひとりで東京ガーデンシアターの大きなステージ空間を支配していくことになった。
「センラのワンマン始まりました。ありがとうございます!今日はちょっとねぇ、大人数やし緊張するかと思ってたんですけど。もちろん緊張もなくはないんですよ?でも、けっこうウキウキウォッチングな感じで(笑)。まぁ、センラのワンマンが初めての人もいらっしゃるかもしれませんので、最初に大事なことをお伝えしておきましょう。まず体調第一です。せっかく椅子のある会場なので、いつでも座っていいよ。トイレも好きに行きなさい、あんまり我慢せんように(笑)。最低限のマナーとか以外は、参戦にあたってのルールとかは特にないんでね。センラのワンマンではこれをしないといけない、みたいなのはありません。気軽な気持ちで観て欲しいです。俺も気軽にライブしてると思うから(笑)」(センラ)
ライブ冒頭でのダンディな雰囲気とは一転して、ひとたびMC となれば途端に親しみやすいキャラがダダ漏れするあたりは実にセンラらしい。
「あとね。今日はこころなしかカメラがたくさん入っていたりするんで、時にはカメラに向かって歌うこともあると思いますが、僕はあくまでも“君”に向かって歌います。しっかりと感じ取ってください」(センラ)
この言葉を受けて始まったのは、これまた『Brun』収録曲の「翻弄の一途」と「甘噛み」で、前者では途中にラップ的なアプローチがありつつセンラの繊細なファルセットが活かされていった。また、実質的に『Brun』なるアルバムタイトルと最も密接な関係性を持つと思われる歌詞内容が印象的な後者では、ドラマティックかつビタースウィートな味わいが場内へ広がっていったのは言うまでもない。
そんなチョコレートをイメージさせる「甘噛み」の次に「ティラミスユー」、さらには浦島坂田船の「10 CARAT CHOCOLATE」と、しっかりお菓子関連楽曲を並べてあったセトリはなかなか心憎い構成で、センラーたちがこのセンラの心遣いに対して歓喜する様子もうかがうことが出来た。
また、センラーたちがいっそうの大歓声をあげる展開となったのは10曲目に歌われたバラード「pianissimo」で、なんとここではセンラがステージセンターに持ち込まれたキーボードの前に座って“弾き語り”を始めることに。ワンコーラス分を終えてからはハンドマイクに持ち替えての歌唱となったが、このくだりはボーカリストどころか音楽家・センラとしての一面が披露されることになったのではなかろうか。
だがしかし。オモロイこと好きな関西人・センラが単にしっとりじっくり聴かせて終わることなどあるはずもなく。次いでのお色直しタイムをかねた幕間動画では、ヒョウ柄のトンチキ衣装をまとったセンラが颯爽と登場し、自ら作詞・作曲を手掛けたという謎曲「バリバリチョコレートサンデー」のMVを撮って行く過程を追ったドキュメントと、完成MVがセンラーたちを横転&爆笑させる事態が発生。センラのサービス精神旺盛な遊び心は、つくづくエンターテイナーすぎると思う。
前半戦でのジェントルな出で立ちとはガラっと違う、カジュアルな秋コーディネートを着こなしたセンラが後半戦の1曲目として歌い出したのは、アルバム『Brun』収録の「オランジェット」。動きやすい格好となったこともあるのか、ここからの流れでは多くの曲で歌いながらのダンスが取り入れられており、曲調的にも聴いていて自然と心が弾んでくるものや、ダイナミックな躍動感を感じるものが多かった。ツアー直前に動画がアップされた「Werewolf」も、音源で聴く以上にライブで映えていたように思う。
「2年前にやった『SENRA LIVE TOUR 2023 -GOSSIP-』の時も、東京ガーデンシアターでのライブがありましたけど。今日はここで久しぶりに画面を使って、みんなからもらった“マシュマロ”を読んでみたりしようかな」(センラ)
リスナーからあらかじめ募集していたというテーマは、アルバム『Brun』にちなんでの“チョコレート”だったのだとか。幼い頃の微笑ましいエピソードから、紗々チョコレートにまつわる話などをまじえ、「恋は当たって砕けろ、からのチョコレートを手で粉々に砕くシーンをもう一度ください」という投稿に応えて、懐かしい『SENRA LIVE TOUR 2021 -À la mode-』の際に流された幕間映像が、部分的にではあったが4年の時を経て公開される超レアな一幕もはさまれた。当時のことを知る人にとっても、知らない人にとっても、これはさぞかし嬉しいはからいだったはず。
「2021年っていうと、絶賛コロナ禍でしたから。あの時はZepp Tokyoでキャパ半分にして、椅子を入れてやったんかな?今思うとドえらいライブでした(笑)」(センラ)
もはや遠い昔のことのようにも思えるけれど、意外と最近でもある当時の話でひとしきり盛り上げたあとは、再びライブ本編に戻ってジャジーな「シックスセンス」で東京ガーデンシアターいっぱいに色気さえ漂わせながら歌声を響きわたらせていくセンラ。本当に“普通に”歌っていればただカッコいいボーカリストなのだが、彼の過剰なまでのホスピタリティはこのあともなお炸裂していく。
「楽しんでいこうぜ!」という煽り言葉から始まったのは「脳内シェイカー」で、会場内がお祭りモードへと染まっていく中、センラは途中で“チャレンジタイム”と称してホッピングで跳ねながら、突然ステージ上に設営されたバスケットゴールに対してフリースローを決めるゲームに挑戦。一度は失敗するも結果的には見事にゴールを決め、センラーたちをおおいに沸かせることとなった。
それでいて、その数曲後には「プロポーズ」をシリアスな面持ちで熱唱してもみせるセンラは、観る者の情緒をやすやすとかき乱してくるから困ってしまう。喜怒哀楽のうち怒こそないとはいえ、オーディエンスを喜ばせ、楽しませ、歌でほろりとさせることも出来るセンラは、聴き手の心に対してどこまでも深く踏み入ることが出来るアーティストなのだろう。
「2年前にここでやった時は、これが最初で最後くらいに思っていたところがあったんですよ。でも、またこうしてやらせていただくことになって、ほんまにこれだけの方たちに来ていただいたっていうのは……とてもありがたいです。多分、普段はこたぬきやったり、志麻リスやったり、坂田家やったりね。CREWのみんなの中でも、それぞれいろいろあるわけじゃないですか。おそらく、ここには「センラーの友だちがワンマン行くって言ってるから」って一緒に来てくれた子たちもきってといてると思うんですよ。要するに、俺だけの力だけでこんなにたくさんの人たちが集まってくれたんじゃなくて、ほかのメンバーや支えてくれてるスタッフ、バンドメンバーさん、ほんとにこれは“みんな”のおかげなんだと僕は理解しております。ありがとうございます!」(センラ)
舞台上ではある意味での支配者としてワンマンライブの空間を自在に操る立場を持つセンラが、今に至ってもこれだけ謙虚な一面を持ち続けている理由。それはもしかしたら、彼の社会人としての経験が影響しているのかもしれない。驕ることなく誠実であり続ける彼だからこそ、表現することが出来ているものも多々あるに違いない。
かくして、このライブの本編ラストを飾ったのは2025年1月からTVドラマ『私は整形美人』の主題歌として、地上波でも流されていた「美しくあれ!」。くわえて、アンコールでは「フリィダム ロリィタ」も歌われたのだが、最後の曲を歌い出す前にセンラはこうも語っていた。
「そういえば、今回のツアーのテーマをなんでチョコレートにしたかって説明したっけ? アルバムでいうと『Lüge』から始まって『VERITE』とか『GOSƧIP』とか、最近はちょっと深いテーマが多かったのよ。だから、いったんここで自分の好きなもの=チョコレートのことを考えてみようぜ、と。今回はライブでもやりたいことをするライブにしよう、っていうかたちで実際やりたいようにやらせてもらってます(笑)。でも、自分のやりたいことって、結局センラーに喜んでもらいたいからやってるんだなっていうところにあらためて行き着いたというか。結果としては、キレイなところにおさまりました。フゥーーッッ!(笑)」(センラ)
なるほど。情報過多なくらいに詰め込まれたエンタテインメントの数々には、そこまで明確な裏付けがあったとはさすがの一言。しかも、つい照れ隠しで自らを茶化して笑いに持っていってしまうところも含めてなんとも微笑ましい。
「いつも俺の活力、理由になってくれてありがとう」(センラ)
ラストソング「cute you」の軽やかな調べが、深まりゆく秋の夜に鮮やかな差し色を添えていったのだとしたら。センラの描き出す次の季節は、果たして何色をしているのだろう。やがて来る日のことを、今から心待ちにしていたい。
文=杉江由紀
撮影=加藤千絵[CAPS]、堀卓朗[ELENORE]