新潟で大雨により電車がストップ!どうしよう……じゃあ『ぽんしゅ館 唎酒番所』でAIソムリエが選んだ酒を飲んで待とう!
旅には予期しないトラブルが付きもの。いや、それがまた旅の醍醐味である。新潟で酒場旅をしていた私は、さっそく予期しないトラブルに見舞われた。JR白新線に乗って隣町の新発田(しばた)市へ行こうと思っていたのだが、大雨の影響で在来線と新幹線ともに完全にストップ。ホテルのチェックアウトをした私は、新潟駅を彷徨(さまよ)うことになる。
駅の案内板には、当初「午前中再開見込み」となっていたが、ふたたび確認に来ると「再開未定」となり、最終的には「12:30頃再開見込み」となった。
再開時間は分かったが、これは困ったぞ。現在の時刻はまだ12時前、すでに駅構内や周辺をさんざん歩いていて、もはや新潟駅には飽き飽きだ。さてどうしたものか……いや、あそこがあったな。
新潟駅には『ぽんしゅ館』がある。以前新潟を訪れた際にも、真っ先に『ぽんしゅ館』の角打ちを訪れていた。
『唎酒番所』の方といえば、完全角打ちスタイルで、常時100以上ある日本酒から少しづつ唎酒ができることで有名だ。
「CoCoLo新潟」のメッツ館の入り口前で、一升瓶を掲げた赤ら顔のおじさんの人形が目印。私もこの後しばらくして、このおじさんのように酔っぱらってしまうだろうか………中へと入る。
店内は新潟の日本酒に関わるさまざまなおみやげが並び、思わず立ち止まって目移りする。流石は日本酒の国・新潟だ。新潟だけでもこんなに種類があるのか……おや、あれは?
出たっ! まさしくここが『唎酒番所』だ。出入り口には日本酒が所狭しと並び、木製の看板と酒林が、ここがショッピングビルの中だということを忘れさせる。これは楽しみだ。
さっそく中へとお邪魔すると……うわっ、これは絶景だ! 縦長にのびた店内の壁半分には、まるで“ガチャガチャの森”のように日本酒の自販機が並んでいる。
ウッディーな店内にはうっすらとジャズが流れており、ランプのような照明が静かに照らしている。なんだか、おしゃれなバーのようだ。ああ……こんな雰囲気、大好きだ。早くここで飲(や)りたいが……店員さんらしき姿がない。
確かここでのシステムは、現金をメダルに変えてそのメダルを使って自販機から少しずつ日本酒を注いでいくはずだ。
とりあえずは、目の前にあったお猪口を手に取ってみると、
「あっ、そちらは使用済みのお猪口です!」
店の奥の方から店員のお姉さまがやってきて慌てて言った。あぶない、確かに返却口と大きく書いてある。私はこういうおっちょこちょいをよくやる。
おっちょこちょいのお猪口を戻して、お姉さまに言って新しいお猪口と、メダルをいただく。やっと「日本酒めぐり」の始まりだ。
まず君から。新潟市の高野酒造「越路吹雪 純米酒」をチョイス。自販機にお猪口をセット、メダルを挿入すると適量が満たされていく。
香りは芳醇で申し分ない。まずはひと口、ツイー……、辛口がキッチリと効いていて旨い。クイッ、クイッと飲みやすく、あっという間にお猪口が空く。よし、次いってみよう。
おや……? 店内の奥に見慣れぬものがあると近づいてみると、自分にぴったりの日本酒を「AIソムリエ」なるものが選んでくれるという、なんとも近代的なシステムを発見。これは面白そうだ。
いくつかAIに質問されるらしく、まずは「日本酒でどんな気分になりたいか?」の質問。私はいつだって「気合を入れたい」の一択だ。
続けて「あなたにとって気合を入れたいとはどんなイメージ?」か。無論、ここは「心躍る太鼓の音」しかないだろう。
チェックが終わると、画面は検索モード。そこで割り出されたのが上越市の代々菊醸造「吟田川(ちびたがわ)特別純米」だ。
「ちびたがわ」というかわいらしい名前に心躍るが、正直「これだよこれ!」とは言い難い。とにかく飲もう。ほほう……酸味が強めで、まったりと舌に染み渡る。しばらく飲み続けていると、なんだか体の内側からドンドコドンドコと脈打つような感覚が! これぞまさしくAIの選んだ通り「気合の入った心躍る太鼓の音」とでも言いましょうか!? いやいや……単に酒が回ってきているだけか。
気合の入ったところに「利き塩」の一角を発見。日本酒に塩、これぞ理想的な飲兵衛の飲り方じゃないか。
昆布塩、竹炭塩、味噌やニンニクを含んだ珍しい塩がいくつも並び、選定に迷う。これもAIに選んでほしいところだが、ここは越後の国。縁起の良さそうな「越後金色」を選ぶ。
手の甲にのせてペロリ……旨いっ! 普通の食塩のような塩っ辛さはまったくなく、辛さより旨味が強い。いい塩には、本当に旨味があるのだと驚いた。
旨味を口に含んだまま、またもやAIソムリエに教えを乞う。次になりたい気分は「癒やされたい」だ。私はいつだって「癒やされたい」の一択だ。
それから「癒やされたい」のイメージは……う~む、これは悩ましいところ。ここは直感で「黄金の実り」にしよう。
そして選ばれたのが長岡市の恩田酒造「舞鶴 鼓」である。これが特に旨かった! とにかくとても芳醇で、それなのにスーッと抜けるようなのど越しの良さが特徴的。これ、おみやげで買って帰ろうかしら。
最後だけはAIに頼らず、やはり新潟の日本酒の代表格「八海山 大吟醸」を飲んでおかなくては。もはや日本中どこでも飲めるほどの銘柄ではあるが、酒も料理も産地でいただくのが一番。
スッと飲めちゃうヤバイやつ、少々辛めだけどまるで色が見えるほどフルーティー。これですよ、これ。20歳くらいに、初めて飲んだ日本酒も八海山だった。その産地でいただけるという喜びといったらありません。
ああ……目の前には、まだ他に100銘柄以上の日本酒が並んでいる。それでもこれはほんの一部だ。途方もない、いや、恐るべし新潟の日本酒。
さて、こちとらホロ酔いだ。今日の目的は新発田市に行くことである。現在の時刻は13時前。いい時間だ、おそらく運転再開したであろう改札口へ向かうが……
ついに「再開見込み、なし」になっていた。
……天気の神様か、それとも日本酒の神様がお許しにならないようだ。このまま待とうか、それとももう一度、『唎酒番所』へ戻ろうか……悩ましい。
ぽんしゅ館 唎酒番所 新潟驛店(ぽんしゅかん りきさけばんしょ にいがたえきてん)
住所: 新潟県新潟市中央区花園1-96-47
TEL: 025-240-7090
営業時間: 9:00~21:00
定休日: 不定
※文章や写真は著者が取材をした当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。
取材・文・撮影=味論(酒場ナビ)
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