酉の市、神社の最寄り駅に飾られる「大熊手」を鑑賞したい
東京近辺では、11月になるとあちらこちらの神社で「酉の市(とりのいち)」がおこなわれる。江戸時代から続く酉の市は、日本武尊(やまとたけるのみこと)を祀る大鳥神社(大鷲神社、鷲神社)が、11月の酉の日に市を出したことに由来する。
大きな飾り熊手を眺める
この酉の市で有名なのが、「差し物」と呼ばれるさまざまな縁起物を付けた飾り熊手であろう。酉の市は、神社の境内で農機具や農産物を打ったのがはじまりであるとされ、そのうち「福をかき込む」イメージの熊手が、縁起物として残ったと考えられる。
各地の酉の市では熊手を売る露店が軒を連ね、大きな熊手を購入した人を囲んで手締めが行われている。一方私自身はというと、「熊手は前年よりも大きなものを、毎年買い替える」という話も相まって、どうにも飾り熊手に手を出す勇気が持てない。そこで神社が頒布しているシンプルな熊手を買い求め、「いわば公式グッズ(?)だし」と己を納得させている。
とはいえ、人が買い求めた大きな飾り熊手を眺めるのは楽しい。神社近くの飲食店やオフィスなどに飾られていることも多いが、最も身近に飾り熊手を見ることができるのは、実は酉の市を行う神社の最寄り駅ではないだろうか。
駅に飾られている熊手はいずれも立派で、さまざまな差し物も付けられている。果たして駅によってその差し物や熊手の大きさに違いはあるのだろうか。参拝者数の多さなどから「関東三大酉の市」と称される、浅草の鷲(おおとり)神社・長國寺で行われる「浅草 酉の市」、新宿の「花園神社大酉祭」、府中の「大國魂神社 酉の市」の最寄り駅を見ていきたい。
駅の大熊手のバリエーションを楽しむ
新宿については、数年前には最寄りの新宿駅や西武新宿駅、新宿三丁目駅で飾り熊手が見られていたようなのだが、大規模な再開発の影響か、2024年は確認した限りでは発見できなかった。
大國魂神社の最寄り駅、JR府中本町駅と京王線府中駅には、それぞれ大熊手が飾られていた。
設置場所の関係からか府中本町の方が柄が長いが、手の部分はほぼ同じ大きさであり、差し物もお福面、升、鶴、海老、七福神、鯛、亀など、全く同じつくりになっている。やはり、違う鉄道会社の駅で差をつけるのは良くないと考えてのことだろうか。
そう思って浅草に赴いたところ、実にさまざまなバリエーションの大熊手が飾られていたのである。そもそも「浅草 酉の市」の熊手が飾られているのは、最寄りの地下鉄日比谷線入谷駅のみならず、つくばエクスプレス浅草駅、東武線浅草駅、さらにはJR上野駅や鶯谷駅とかなり範囲が広い。やはり歴史ある酉の市の影響力だろうか。
いずれの駅の熊手にも「商売繁昌 構内安全」の札が付けられているが、大きさは上野駅のものが最も大きいようである。
一方、東武線浅草駅改札の熊手は、3つ並べることにより大きさを演出している。
差し物も、各駅で個性が出ている。鶯谷駅では巾着・小判・酒樽、升が中央にあしらわれており、作った人は酒好きなのかもしれない。
つくばエクスプレス浅草駅の差し物はお福面に金の米俵、小判に打出の小槌と、いかにもお金が貯まりそうだ。
鷲神社に最も近い入谷駅の大熊手は、他ではあまり見られない神輿やだるま、赤青の鯉があしらわれていて個性的だ。「なぜこの駅ではこの差し物を選んだのだろうか」と考えてみるのも楽しい。
巣鴨駅の超巨大な熊手
冒頭で「熊手は年々大きくしていく」という話に触れたが、果たしてどこまで大きくできるものなのだろうか。そんなことを考えてJR巣鴨駅のホームに降りると、ガラスケースに超巨大な熊手が飾られていた。
巣鴨大鳥神社のものであるようだが、大きすぎて柄がない。柄のない熊手は果たして熊手なのだろうかという疑問は残るが、ますます商売繫昌はできそうだ。
2024年は酉の市が三回行われる年で、「三の酉」は11月29日(金)に開かれる。各地の酉の市に赴き、最寄り駅の大熊手を鑑賞してみてはどうだろうか。
イラスト・文・写真=オギリマサホ
参考文献:松沢光雄『酉の市と熊手』(1979・古今書院)/日本招福縁起物研究会『開運!招福縁起物大図鑑』(1997・ワールドマガジン社)
オギリマサホ
イラストレータ―
1976年東京生まれ。シュールな人物画を中心に雑誌や書籍で活動する。趣味は特に目的を定めない街歩き。著書に『半径3メートルの倫理』(産業編集センター)、『斜め下からカープ論』(文春文庫)。