スサノオが剣の血を清めた滝!?岡山とヤマタノオロチの不思議な関係「血洗滝神社」「石上布都魂神社」(赤磐市)
ヤマタノオロチといえば出雲の神話として知られていますが、スサノオノミコトがヤマタノオロチを退治したあとに血の付いた剣とその身を清めたと伝わる「血洗の滝」が岡山県赤磐市にあります。さらに、ヤマタノオロチを退治した剣は吉備にあったと『日本書紀』に記されています。なぜ出雲ではなく吉備なのでしょうか?ゆかりの地を訪ねて、その謎に迫ってみたいと思います。
「血洗の滝」「血洗滝神社」(赤磐市是里)
まずは、赤磐市是里にある「血洗の滝(ちあらいのたき)」と「血洗滝神社(ちあらいのたきじんじゃ)」を訪れてみます。駐車場に車を停めてから10分ほど歩くと階段があり、下りた先に滝と神社があります。
すでに鳥居が見えていますが、ここから先は空気がガラリと変わります…。体感温度が一気に5度くらい下がる感じ、と言えば伝わるでしょうか。
階段を下りると、鳥居の先には思わず目を疑うほどの神秘的な光景が広がっていました。それでは、「血洗の滝」と「血洗滝神社」のようすをじっくりとご覧ください。
厳かな空気に包まれた境内の様子。
以前は拝殿もあったそうですが、今は本殿(祠)のみです。そして、滝そのものがご神体とされています。
まるで一幅の絵画のような光景に息をのみます…。
こちらが「血洗の滝」です。向かって右側にある石柱は、出雲大社ゆかりの人物が滝のことを詠んだ和歌の歌碑だそうです。
鳥居の下の水面は静かに澱んでいました。
この滝で清めたとされるスサノオノミコトの剣は、一般的には「十握剣(とつかのつるぎ)」と呼ばれ、さまざまな神話で活躍します。
※神話に登場する剣の名称は何通りもあって非常に複雑なので、今回の記事では「スサノオノミコトの剣」という表記で統一します。
まさに神話の舞台という感じで圧倒されました…。ちなみに、ここから約1.5kmほど東には「宗形神社」があるのですが、ご祭神の「宗像三女神」はスサノオノミコトの剣から生まれた神様です。とかく、スサノオノミコトの剣とゆかりが深い地域なんですね。
本殿(祠)は老朽化が進んでいたため、地元有志によってクラウドファンディングが実施されて2024年に建て替えが完了したばかりです。とても素敵なお話ですね。もとの部材を可能な限り再利用したそうなので、新しいけれど落ち着いていて、周囲にしっかり溶け込んで見えます。
みなさんもぜひ一度現地を訪れて、自然と伝統が混然一体となった神秘的な空間を体感してみてください。
「石上布都魂神社」(赤磐市石上)
『日本書紀』には、スサノオノミコトがヤマタノオロチを退治した剣は吉備にあったと記されていて、その場所は「石上布都魂神社(いそのかみふつみたまじんじゃ)」のことだと考えられています。剣はその後、現在の奈良県にある「石上神宮(いそのかみじんぐう)」へ移されたそうですが、話はこれで終わりではありません。明治時代に「石上神宮」の禁足地が発掘されて、なんと伝承の通りの剣が出土したそうです!伝説の剣が実在するなんて、まさに歴史のロマンですね。
「石上布都魂神社」は以前に「おか旅」で紹介された記事がありますので、現地の詳細についてはそちらをご覧いただければと思います。
神話に秘められた謎
ヤマタノオロチは“剣”で退治され、そこから新しい“剣”が生まれ出るなど、随所に“鉄”との関連が見え隠れしています。また、不思議なことに『出雲国風土記』にはヤマタノオロチは出てこないため、出雲に古くから伝わる民間伝承ではない可能性があります。このように謎の多いヤマタノオロチ伝説ですが、少し視野を広げて海外の神話と比較してみると、「英雄が竜(のような化け物)を退治してお姫様を助けたり宝を得たりする」という典型的な竜退治神話であることに気が付きます。類似した話は世界各地に存在し、そのなかには「酒を飲ませて泥酔したところを退治する」というものまであるのです。
まとめ
ここまでをふまえて、私なりに簡単な仮説を立ててみました。
「製鉄の技術と一緒に大陸から伝わってきた竜退治の話をもとにヤマタノオロチ伝説が生み出され、“たたら製鉄”に携わる人々に広まったのでは?」
現に、出雲ではヤマタノオロチの伝承地と“たたら製鉄”のさかんな地域がピタリと重なります。おそらく赤磐市周辺も“たたら製鉄”のさかんな地域で、剣にまつわる伝承は製鉄に携わっていた人々によって大切に守られてきたのではないでしょうか。今回ご紹介した場所は、そんな想像をめぐらせながら訪れてみると、さらに深く楽しめるのではないかと思います。