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勉強しない、やる気が出ない…思春期の学習、どこまでフォローする?発達障害のある小中学生の家庭学習【公認心理師・井上雅彦先生にきく】

LITALICO発達ナビ

勉強しない、やる気が出ない…思春期の学習、どこまでフォローする?発達障害のある小中学生の家庭学習【公認心理師・井上雅彦先生にきく】

監修:井上雅彦

鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー

実は難しい……!家庭学習のフォローやサポート

毎日の宿題やテスト勉強などの家庭学習は、お子さんが一人で行うことはまだ難しく、保護者のサポートが必要な場合も少なくありません。発達ナビのQ&Aコーナーでも、以下のような声が寄せられています。

子供の宿題の取り組み態度について質問させていただきます。

小1の息子は家に帰ってすぐ宿題をやらず、やりなさいと促しても始めるまでに1時間以上、
やり始めても集中出来ずにプリントを破いたり落書きしたり。

トータルでかなりの時間がかかります。

https://h-navi.jp/qa/questions/20531

みなさんのお子さんは宿題を家で出来ていますか?小学校3年生のADHDの男の子、支援学級(国語、算数のみ)在籍です。家でなかなか宿題ができず1、2年生の頃は授業の中で宿題をやってもらっていました。診断はされていませんが、LDの傾向があり書く事が苦手です。3年生になって宿題の量、授業内容も増えほぼ学校で宿題が出来ない状態で家で宿題をやらせていますが、漢字ドリルだとノートに3〜4ページで息子にとってはかなり多く、集中力も続かない為終わりにする事が出来ません。

https://h-navi.jp/qa/questions/161727

さらに小学校高学年以降の思春期は、保護者だからこそサポートしにくくなることもあります。サポートの仕方や加減に悩むご家庭も多いのではないでしょうか。

今回はそのような小学校高学年以降のお子さんの学習サポートについて、鳥取大学大学院教授で発達障害を専門とする井上雅彦先生にお伺いしました。

勉強しないときもあれば、過集中になることも……発達障害のある中学生にちょうどいい勉強計画とは?

A:大人であっても、やる気になったときにはできるけれど、そうでないと後回しにしてしまうことはありますよね。よりその傾向が強いタイプのお子さんもいると思います。

対応としては、例えば1日1つ最低限やることをお子さんと一緒に決めて、終わったらカレンダーにチェックするなどもいいかもしれません。「ちょうどいいペース」の見通しを一緒に立てていきます。カレンダーにチェックすることで、本人のがんばりが「見える化」されるので、お子さんのモチベーション維持にもつながります。

ここでのポイントは、無理のない計画を立てることです。最低限やることは、最初はできるだけ苦手教科や嫌いな教科ではなく、好きな教科や得意なものを選び、毎日無理なく継続できる難易度や量にするといいでしょう。保護者としては、「もっとやってほしい!」「もっとできるのでは?」と感じることもあるかもしれませんが、勉強の負担が大きくなると取り組むこと自体を嫌がるようになることもあります。無理なく継続できるよう、お子さんと話し合って、課題の難易度や量を調整していくことも大切です。

また、お子さんが普段1時間かかる課題を15分で終えられたという日もあるかもしれません。こんなとき、保護者の皆さんだったらどうしますか?「今日はもう1枚くらい追加できそう」「こんなに簡単にできるなら、次から量を増やしてみよう!」のように考えるかもしれませんね。

しかしお子さんにとってはどうでしょうか。せっかく集中して早く終えたのに課題が増えてしまった、ということになれば、「頑張ったのに損した」という体験になりかねません。集中して早く終えられたときこそ、たくさん褒めて「集中できたから、いつもよりたくさん遊べるね!」などのように、お子さんにとって「頑張って良かった」という経験にできるといいですね。

やる気がでない日は勉強しなくてもいい?約束が守れなくなってしまうのではないか心配

A:保護者としては「毎日ペースを乱さずに勉強してほしい」という思いがあるけれど、お子さんとしては「金曜日は勉強したくない」ということですね。

お子さんとしては、金曜日の放課後はもうお休みの気分だからやる気が起きなかったり、遊びたかったりするのかもしれません。一週間の疲れがたまっている場合もあると思います。

一方で保護者としては、毎日の習慣づけが大事で乱さないほうがいいという考えもあるかもしれませんね。これはどちらの考えが正しい・誤っているということではなくて、親子の間で意見が食い違っているということなのかもしれません。

その場合は、どこかに「妥協ライン」を作っていくことが必要だと思います。例えば、お子さん自身は本来やりたくないけれども、金曜日も取り組むことにするならば、それに見合う特別ボーナスがあってもいいかもしれませんね。例えばいつもよりゲームの時間を20分増やす・お気に入りのアイスを食べられるなど、お子さんと決めていくといいでしょう。ほかにも、毎週金曜日ではなく、「第1・第3金曜日はノー勉強デー」のようにするのも「妥協ライン」の一例です。

こういった家庭学習のルールについては、ひとつの「正解」があるわけではありません。保護者としての考えや望みはあると思いますが、それが「絶対」でもないものです。子どもの将来を想うからこその「こうしたほうがいい」という考えはあっても、それにこだわってしまうと、特に思春期はお子さんと衝突してしまうこともあるかもしれません。

また、年齢が上がってくると、どのようなペースで取り組むといいか?をお子さん自身がつかんでいくことも大事だと思います。

例えば、定期テストに向けて2週間前からコツコツ取り組むことは苦手だけれど、直前にスイッチを入れて集中して、それなりに点数を取っているお子さんもいます。集中できない長期間より、短期間でも集中して取り組むことで学習の成果につながることもあるでしょう。

中学生くらいになると、自分でペースをつかんでいくお子さんもいますが、なかなか難しいこともあるでしょう。本人の様子を見ながら、「こんな風にやってみたらどうかな?」「ちょっとここを変えてみる?」といったように、自分に合う方法を試していくイメージで一緒に考えていくこともいいかもしれませんね。

子どもがなかなか勉強しない・やる気が出ないときには?

わが子が課題の締め切りやテストの直前に、慌てて少し無理をして勉強している姿を見ると、親としては「コツコツ取り組んでおけば……」と思うのも自然な気持ちだと思います。

ただ大人が「コツコツ取り組んだほうが良い」と分かるのは、これまでの経験あってのことです。お子さんは、どのようなペースで取り組むと良いかを経験から学んでいる最中でもあるのです。

今回ご紹介したような工夫をしてみても、勉強になかなか取り組めないという場合には、課題の難易度や学習環境を今一度見直してみることも大切です。特に各教科について「何がどこまでできているか」「どこにつまずいているか」「どのようなサポートが必要か」は、学校や塾などを頼っていくのもいいでしょう。思春期は特に、ご家庭だけで抱えないこともポイントです。

また背景に読み書きの困難さがある場合があります。専門機関などに相談し、読み書きの困難さがあることが分かった場合には、書く宿題は少なめにして、タブレットなどで答える割合を増やすというような合理的配慮を検討してもいいかもしれません。

(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

SLD(限局性学習症)
LD、学習障害、などの名称で呼ばれていましたが、現在はSLD、限局性学習症と呼ばれるようになりました。SLDはSpecific Learning Disorderの略。

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