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AI技術で、次世代に証言の継承を!

TBSラジオ

先週、ノルウェーのオスロで行われたノーベル平和賞の授賞式。日本被団協の田中熙巳さんのスピーチに胸を打たれたという方も多いと思います。

その田中さんも92歳。スピーチでは、「10年先には、直接の被爆体験者としての証言ができるのは、数人になるかもしれません」ともおっしゃっていました。

被爆者との対話を疑似体験できる 『被爆証言応答装置』

こうした中、広島市は被爆体験継承の新たな手法として、『被爆証言応答装置』の製作を始めました。どんな装置なのか?広島市被爆体験継承担当課長、西田満さんのお話。

広島市市民局平和推進課 被爆体験継承担当課長 西田満さん

「『被爆証言応答装置』というものは、あらかじめ撮影した被爆者のインタビュー映像の中から、利用者の質問内容に含まれる単語などをAIが認識して、適切な回答を選んで、音声入りの映像を再生する仕組みで、被爆者との対話を疑似体験できるようなもの、ということでございます。

そのために、今いらっしゃいます被爆者の方に、合計で200問を超える質問をしまして、その回答を、今、撮影をしているところでございます。

小中高校生に被爆者の講話を聴講して、作成していただいた質問など、全600問を超える中から分類して、重複などを調整して約200問としておりますので、かなりですね、色んな質問にも対応できるものと、考えております。」

こちらの質問に、映像の被爆者の方が答えてくれる、というものなんです。

5人の被爆者の方にご協力いただき、一人ずつ、200問以上の質問に答えてもらうのですが、今、その撮影の真っただ中。みなさん、なんとしても後世に伝えたいと、4日間にもわたる撮影を、本当に熱心に取り組んでくださっているそうです。(一人は英語で回答。日本語の発言には字幕が付きます。)

5人で1000を超える回答。この大量の回答の中から、AIが、質問の回答として適切なものを選び出してくれる、ということになります。

ほんとの人に質問するより、AIの方が質問しやすいです!

体験者の高齢化で記憶の断絶が危惧される、と、こうしたAI技術を活用した対話システムを作る取り組みは、他の地域でも行われています。

今年、発生から65年となった伊勢湾台風の被害地域もその一つ。この地域での中高生へのアンケート結果では、50%くらいの子たちが、伊勢湾台風を知らない、と答えたそうで、その危機感から製作に至りました。

そして、この秋、AI対話システムを使って、小学生に防災講習をしたということなので、実際の反応はどうだったのか、聞きました。中部地域づくり協会地域づくり技術研究所、所長の犬飼一博さんのお話です。

中部地域づくり協会地域づくり技術研究所 所長 犬飼一博さん

「子どもたちからの感想は『本を見て勉強するよりも分かりやすい』『インターネットを使って調べても分かるんだけど、それよりも分かりやすくていい』とか、あと、『本物のおじいさんと話してるみたい』とか。

あと、今の子たちは、なんか人と対話するよりもAI、画面と対話する方が話がしやすいっていうのもあるらしくて、『ほんとの人に質問するより、AIの方が質問しやすいです』とかね。これは先生も同じことをおっしゃっていますね、人と話が苦手な子もいるので、そういう子たちにはこういうのもいい、っていう、そんなご意見もいただいてます。

そう、私も、ねえ、画面の方が話、しにくいんですけどね、今の子はどうも、そういうところはちょっと違うみたいですね。なので、子どもたちにはとっても良く受け入れられてるのかな、と思います。そうですね、使ってみた感じでいきますと、今後の活用には、かなり期待が持てるかなという気がしています。」

実際の人に聞くより、質問しやすいんですね!意外な感想でびっくりしましたが、そういうものなんでしょうか。

この伊勢湾台風のAI対話システムは、画面で話すのは作り物のキャラクター。これは、伊勢湾台風の被害地域は非常に広いため、特定の一人にしてしまうと他の地域で使えなくなってしまうので、あえて、キャラクターにしてどこでも使えるようにしました。

(伊勢湾台風・AI対話システムの回答画面がこちら。 写真はすべて地域づくり技術研究所提供)

そして、こちらも、実際に伊勢湾台風を体験した人の話や、防災講習で子どもたちから寄せられた870問の質問に、実際の記録や資料を調べて、犬飼さんたちがまとめたものを【回答】とし、その中から適切な答えをAIが選ぶ、としています。

犬飼さんは、AIは優秀。どこかから情報を引っ張ってきて組み合わせてしまう、というのをしてしまうので、それを避けるため、何度もテストをして、間違った回答を消す作業を繰り返してきました。(かなり大変だった、と)

(伊勢湾台風・AI対話システムを体験する子どもたちの様子。画面に集中しているのが分かりますね!)

あくまでもノンフィクションのみ。必ずブレてはいけない!

これは、広島市も同じで、もしも録画した映像に無い質問があった場合は、『わかりません』『お答えできません』とする、と言います。それはなぜなのか。再び、広島市の西田さんのお話です。

広島市市民局平和推進課 被爆体験継承担当課長 西田満さん

「やはり、今の子どもたちにとっては、原爆投下というのは、ほぼ80年前のことで、もうホント昔々の話で、あまり実感が無いという状況だと思います。

そこにですね、生成AIを入れちゃうと、もうすべてフィクションになっちゃう、ということがありますので、生成AIという要素は一切排除して、あくまでもノンフィクションのみと考えております。

未来になって、被爆者がこう言うであろう、というのをフィクションで構成するのは非常にまずいな、と。1945年8月6日に広島で起こったことをですね、起こったことをそのまま後世に、我々は伝えていく責務がありますので、それはですね、必ずブレてはいけないな、と考えております。

まあ、そうですよね。被爆者の全国の平均年齢が85歳超えておりますので、ほんと我々も、今やっておかないと、未来永劫悔いることになるので、ほんとに今できることを、全力で注力してるところでございます。」

生成AIではなくて、AIを使ったものなんです。

生成AIが創造した「こう言うだろう」という回答が入ってしまったら、それは証言ではなく、物語の世界になってしまう。お二人とも、正確性を担保しながら、この技術をうまく活かしていきたい、と口をそろえておっしゃっていました。

様々な場面で、生成AIやAIが活用される時代ですが、その結果、事実がどうなのか、というのがあいまいになってることも多くなります。そんな中で、そこをハッキリ区分けするという、この考え方は大変重要だな、と思いました。

・広島の『被爆証言応答装置』は、被爆80年を迎える来年の夏の完成を目指しています。5台製作する予定。1台は広島平和記念資料館、1台は国立広島原爆死没者追悼平和祈念館に設置。残りの3台は学校への貸し出し用。

・伊勢湾台風のAI語り部の機械は、名古屋大学の減災連携センターで、今週末21日土曜日まで行われている、伊勢湾台風から65年の特別企画展に置いてあります。また、名古屋市の港防災センターに常設されています。また、学校などで行う防災講座で使うものもあります。

(TBSラジオ『森本毅郎・スタンバイ!』取材・レポート:近堂かおり)

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