「“処刑トラップ”の痛々しさを楽しんでほしい!」シリーズ最高傑作『ソウX』監督が語る濃厚ドラマと強烈ゴア描写
『ソウ』シリーズ最高傑作ついに日本上陸
“ソリッドシチュエーション・スリラー”として売り出され、驚天動地のエンディングで度肝を抜いた『ソウ』(2004年)。ストイックでインテリな殺人鬼、ジグソウことジョン・クレイマーのモットーは「命を粗末にするものに鉄槌を!」だった。ところがシリーズを重ねるごとにその影は薄くなっていき、奇妙な処刑トラップと終盤に流れる劇伴「Hello Zepp」が売り物の、いわば「ファン向け定食」なフランチャイズ映画になっていった。
シリーズは7作目『ソウ ザ・ファイナル 3D』(2010年)で一旦完結したものの、「やっぱり処刑トラップと言えば『ソウ』だろう!」と、改めて『ジグソウ:ソウ・レガシー』(2017年)と『スパイラル:ソウ オールリセット』(2021年)が制作された。とはいえ、やはり完成度の面で初期シリーズには及ばず、一部のファンには熱狂的に支持されるも、批判の声も少なくなかった。
『スパイラル:ソウ オールリセット』が予想以上に振るわなかったためシリーズの存続自体が危ぶまれていたが、実は『スパイラル~』制作以前から企画が温められていたのが、10月18日(金)に日本公開を迎える最新作『ソウX』だった。“このままで終わるわけにはいかない”と、1作目からプロデューサーを務めていたマーク・バーグとオーレン・クルーズは『ソウX』の制作に着手。そしてこのたび、本国から約1年越しに日本公開を果たすこととなった。
『ソウX』は過去シリーズと何が違う? 監督インタビューが実現
「でも、いつも通りなんでしょ?」と思うなかれ、『ソウX』は、いままでのシリーズと一線を画している。オープニング処刑がないのだ。この時点で『ソウX』は他の作品と全く違っている。
中心に描かれるのは、脳腫瘍で余命わずかのジョン・クレイマーがひたすら悩む姿。絶望し、ジグソウたる役目を果たしながら、自助グループに通う。延命を願う彼は、医療詐欺に遭い、復讐心に火がつき、彼の中のジグソウが目覚め……そんな筋立てなのだ。
『ソウX』はドラマ部分に多くを割いている。この中で“あの無慈悲な”ジョン・クレイマーが泣いたり、微笑んだりするのだ。これまでの『ソウ』シリーズで彼が感情を露わにしたことがあっただろうか? あまりにもドラマティックな展開に海外評は1作目を越える勢い。もちろん、後半ではいつもより“痛い”処刑シーンが待っている。
シリーズ開始20年目にして生まれ変わった『ソウ』シリーズ最新作の監督は、ケヴィン・グルタート。初期シリーズ6作すべての編集を手がけ、『ソウ6』と『ソウ ザ・ファイナル 3D』で監督を務めた、いわば『ソウ』の見届け人といっていいだろう。そんなグルタート監督に、本作についてお話を伺ってみた。
「トビンの目は、間違いなくジョン・クレイマーだね(笑)」
―本作はジグソウというより、ジョン・クレイマーの物語になっています。監督は『ソウ6』~『ザ・ファイナル』と監督されてきましたが、これらの作品ではジグソウのキャラクターよりもトラップ(罠)の描写がメインでした。今回、思い切りジョンを描くことができた感想をお聞かせください。
楽しかったよ!『ソウ』といえばトラップなんだけれど、『ソウ』が元から持っている物語やジョンのキャラクターを掘り下げられると思ったんだ。でも迷いもあった。ジョンを出し過ぎると“恐怖感”が薄れてしまうのではないか? とね。殺人鬼の背景を描くと、どうしても同情してしまうから。でも皆が一番観たいのはトビン・ベル(ジョン・クレイマー=ジグソウ)だと考えた。だから、トビンなら巧くできると確信して撮影に挑んだんだ。
―私もトビンの魅力が爆発していると思います。『ソウ』シリーズで、こんなに感情を揺さぶられるとは思いませんでした。現場での彼はどのような感じなのですか?
トビンはね、とても優しくてフレンドリーな役者なんだけれど、仕事になるとめちゃくちゃシリアスなんだよ。とりわけジョン・クレイマーというキャラクターについては厳しくて、脚本を渡して「これお願いします!」とはいかないんだ。
「ジョン・クレイマーならどうするか?」を聞いて、トビン自身が脚本を直すことも多々あったよ。現場に入ってからも、トビンのアイディアひとつで何カットも撮り直したりね(笑)。後半のゲーム対象者たちが目覚めるシーンなんかは、特にそうだった。彼は舞台俳優出身だから、あの自由に動ける工場セットを気に入ってくれたみたいだよ。
―トビンもジョン・クレイマーを演じて20年ですから、何かストイックな変化があったのでしょうか?
うーん、逆かな。トビンはもともと歴史や哲学が好きで、スポーツジムにも通っているからね。役者として自分の中にジョンを見いだした、と言った方がいいかな。でも、強く意見を言うときの彼の目は、間違いなくジョン・クレイマーだね(笑)。
「トラップの痛々しさを皆に楽しんでほしいな!」
―監督はホラー映画において、家族や師弟関係、友人などとの心理的な葛藤を描くことが得意とお見受けします。以前に撮られた『ジャッカルズ』(2017年)や『ジェサベル』(2014年)にも、その傾向がありました。本作ではドラマ部分にもゲーム部分にも程よい心理的葛藤が入れ込まれており、バランスが非常にいいですね。こだわりはありますか?
そう思ってくれているとは……嬉しいよ! 僕はホラー映画をたくさん撮っているけれど、観客の皆には観終わった後に“恐怖”だけじゃない、もっとエモーショナルなものを感じてほしいんだよね。
ホラー映画を撮るときに一番気にしているのは、“異常な出来事”を取り除いても物語が成立するか? なんだ。それで成立するなら映画として“基本ができている”ことになる。そこで“異常な出来事”で物語性を拡大していく……そんな作り方をしているんだ。
―『ソウX』では“異常な出来事”がトラップになると思うのですが、今回はかなりプラクティカル・エフェクト(※非CGの特殊効果)をたくさん使った痛々しいトラップが盛りだくさんでしたね。
やっぱりプラクティカル・エフェクトが最高だと思うよ。もちろんCGも使うんだけど……。今回は、フレンドリーなトラップを目指したんだ。『ソウ』はシリーズを追うごとにトラップが大がかりになりすぎて、1~2人では作れないようなものばかりだったから(笑)。痛々しさを皆に楽しんでほしいな!
――ドラマ映画としてもゴア映画としても完成度が極まり、世界的評価を得た『ソウX』。ついに迎えた日本公開を、ぜひ楽しんでほしい。
文:氏家譲寿(ナマニク)
『ソウX』は2024年10月18日(金)より全国公開