真面目でコーチの指示をちゃんと聞くのに理解が遅い子、ポジショニングなど動きを理解させるにはどうしたらいい?
真面目で勉強はできるタイプだけどサッカーの理解が遅い子。説明に耳を傾けているのにいざやってみるとその子だけポジショニングやスペースの使い方がわかってない......。
難しい伝え方をしているつもりはないけど、その子がイメージできるようにするにはどんなアプローチをしたらいい? とのご相談をいただきました。
ジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上のあらゆる年代の子どもたちを指導してきた池上正さんが、指示を理解してもらうためのアプローチを伝授します。
(取材・文 島沢優子)
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<<小学校入学と同時にサッカーを始める新一年生、未経験の子たちを指導するときは何 から教えればいい?
<お父さんコーチからの質問>
はじめまして。担当しているのはU-10です。
理解が遅い子への対応について教えてください。
おとなしい子で、真面目です。私を含め、コーチたちの話にもしっかり耳を傾けています。
が、レクチャーしたことができないのです。ポジショニングや空いたスペースの使い方、どこに動けばいいのか、などを説明してからトレーニングしても、その子だけキョトンとしています。
強豪チームでも何でもない、普通の少年団ですが、ほかの子は割とすぐに出来るので、そんなに難解な内容でもないと思いますし、伝え方も難しい言い方はしてないつもりです。
親御さんも「何事も真面目でコツコツやるタイプ」と言っていて、学校の成績は良いみたいなのですが、イメージする力が弱いのでしょうか。
医学的な相談をしたいわけではないのですが、ほかの子より理解が遅い子への良いアプローチをご存じだったら教えていただきたく思います。
やんちゃで話を聞かない子ならまだ納得ですが、真面目で話も聞いている、自主練もコツコツするタイプと自認してるため本人の落ち込みも見えてしまい......
(話を聞いてない子たちのほうが練習の意図や本質を理解するのが早かったりするのがまた......)
<池上さんからのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
5つほどアドバイスします。
■頭の中で咀嚼できていない可能性がある、内容を理解しているか確認しよう
1つめ。指導者はできない子を責めてはいけません。
ご相談文の最後のほうに「本人が落ち込んでいる」と書いてあります。落ち込んでいるのなら尚更「みんなができるのにどうしてお前はできないのか」と責めるような言動はやめてください。
2つめは、その子に問いかけること。できないことをこの子は自覚しています。どう理解するか、例えばこれもその子に質問する必要があるでしょう。
「こういうふうな説明したけど、理解できたかな?」と。どう理解できたか言ってもらってその理解度を指導者側がまずは把握するのが重要です。
よくあるのが「多分わかってないだろう」みたいに憶測だけで止まってしまうケース。これからどうするかを一緒に考えよう、という姿勢をコーチがまず見せましょう。
すごく真面目でよく聞いているけれども、ひょっとすると単に聞いてるだけで、自分の頭の中でもう一度それを咀嚼する、つまり理解する作業ができていないかもしれません。
したがって、ぜひ「理解してますか?」といった問いかけをしてみてください。
例えば「これはどうしたらいいのかな?」と尋ねて、一度その子の言葉で表現してもらいます。
それはみんなが見ている前で言うのではなく、その子ができないときに、そのときもしくはその後で話をするほうがいいでしょう。
他の子たちがすでに練習を進めているのなら「ちょっと練習やっといて」と告げ、その子をつかまえて対話してください。
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■実際の動きを見せて「こういうことをしてほしい」と伝える
3つめ。みんなの動きを一緒に見てもいいでしょう。
例えば「さっき説明したことってさ、ほらあの子こんなふうにしたでしょう? こういうことをしてほしいんだよね」と伝えましょう。それは一回だけでなく繰り返し行うこと。コーチは根負けせずに付き合ってあげる必要があります。
私が過去に教えたなかにも、私が言った説明を聞いて「はい」と返事をしてすぐやろうとするのにできない子どもはたくさんいました。
ほかの子どもたちにはそのまま練習を続けさせて、その子に話を聞いて、これはこういうことで、こうしていかないといけないんだと一度頭の中で考えてごらんよという話をしました。
頭の中が整理できたらプレーしてみる。そうすると、動き出しは遅いのですができるようになりました。ちょっと待ってあげて、考える時間を与えます。並ぶ順番を後ろにして、他の子がやっているのを見せてからやってもらいました。
そういった工夫をしてほしいのですが、どうしても子どもにベクトルが向く指導者は少なくありません。あいつはダメだ、みたいになりがちです。
そうならずに丁寧に教えて行けば、ひとり一人が上手くなっていくのでチームの底上げになるのでぜひ理解してほしいところです。
■理解度に合わせてグループ分けをするのも1つの方法
4つめ。なかなか理解できない子がいたとしたら、グループ分けをしてもいいでしょう。
その子たちは理解できるようなことから始めてあげる。つまりメニューを少しだけ簡単にします。
複雑すぎて、考えなきゃいけないことがいっぱいあって、その中から何を選びますか? というのは難しいけれど、いくつかの選択肢の中から何を選びますか? といったものからスタートします。
練習のすべてではなく、そのように習熟度別で行う時間帯があってもいいと思います。
■成長には個体差がある 各個人の進化、変化を見るようにしよう
5つ目は、基本的な教育観を持つこと。すべての子どもが楽しめて成長できるようにすることを心がけてください。子どもたちには違いがあります。
例えば4月生まれと早生まれでは理解する力や身体的な発達が異なります。そういった個体差がある。認めることが大切です。理解が遅いというのは、他の子と比べるから遅いだけ。そのような考え方です。
この教育観を持てれば「最初はこうだったけど、今はこうなったね」と子どもの進化、変化をきちんと見てあげられます。その変化をしっかり見ることができ、なおかつ指導者としてそれを楽しめるようになってほしい。
よくいわれる「スモール・ステップ」を待てる、気づける、楽しめる指導者を目指してください。
それとは逆に「他の子はできているのに、この子は遅い」「全体の練習が進まない」とイライラすることがあってはいけません。トレーニングをスムーズに続けるために「この子をどうするか」という受け止め方ではなく、こういう子がいることこそ他の子にとってもすごくいい経験になることを知ってほしいです。
誰かが何かを出来ないことをほかの子どもたちが受容して、カバーする。そんなチーム、いいと思いませんか?
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■理解できているか個別に確認することが大事
最後に少しまとめましょう。
その選手に個別に質問をし、どのように理解したかを確認することが重要です。
他の選手と比較するのではなく、その子自身の成長に焦点を当て、丁寧に付き合ってください。個別の声かけや、その子のペースに合わせた指導が重要です。
指導者は、他の選手との比較ではなく、その選手自身の成長に焦点を当てること。
子どもたちの自然な運動欲求を活かしながら、楽しくサッカーを学べる環境作りを目指してほしいと思います。
池上 正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさい サッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。