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「スチームパンク自販機」を探しに行ったら、コーヒーに対するアツい想いを知ることになった

ロケットニュース24

自動販売機なんて全部一緒。私(佐藤)にもそう思っていた時期がありました。神奈川・川崎市の西生田にある、コーヒー豆の自販機は違うぞ、全然違うぞ!

その自販機はまるで19世紀に造られたんじゃないか? と思うようなスチームパンク仕様でめちゃくちゃカッコいい! あまりのカッコよさに、コスプレして自販機と記念撮影したくなってしまう。その特徴的な自販機を探し歩いていたら、コーヒーに対するアツい想いを知ることとなった。

【写真】直火焙煎の豆は色が濃く艶やか

・自販機1号機は……

取材前に私は、スチームパンク自販機についての情報をそう多く持っていなかった。「トランサイド珈琲」という豆を売っていて、自販機は小田急線読売ランド前駅の近くに2台、登戸駅にも1台ある。SNSでたまたまスチームパンクな自販機の画像を見かけただけで、それ以上のことはわからなかったのだ。

とりあえず現地に行くしかないと思い、まずは読売ランド前駅にやってきた。

お店を訪ねることはあっても、自販機を訪ねることはあまりない。厄介なのは自販機の場合、住所がわからないことだ。とにかく自販機1号機があるという「カフェ・ド・シュロ」に行ってみることに。この立て看板によると、ここから30秒のところにあるようだが。

案内にしたがって歩いて行くと、古民家を改装したようなお店にたどり着いた。店構えからスチームパンクを感じられないけど、ここに1号機があるはず。

店の大きな看板の横を見ると、百葉箱(ひゃくようばこ:気象観測用の箱)が置いてあるのかと思ったら……、これ自販機だ!

1号機はスチームパンクじゃなかった。販売商品は200グラムのコーヒー豆が1種類と、お店のマグカップのみだ。

スチームパンクが見たかったのに残念だ。仕方ない、次の自販機に行こう。……と思ったけど、せっかく来たのでコーヒーを1杯頂いていくとするか。

お店に入ると、外観からは想像つかないほどステキな設えで、店の奥にピアノが置かれていて、1階にはテラス席と暖炉がある。吹き抜けの階段を上がると2階にメインの客席があって、大型のスピーカーとレコードプレイヤー。書棚には本がズラリ。

この時はレコードがかかっていなかったが、店構えからして手入れが行き届いてそうな様子。きっとこのスピーカーは良い音がするはず。

自販機のアテは外れたけど、店の雰囲気にすっかり上機嫌になって、私はカフェ(コーヒー、税込650円:ケーキセットで100円引き)とガトーショコラ(税込780円)をお願いした。

ここで出しているのがトランサイド珈琲。まずはひと口すすると、一発でその美味しさにやられた! めっちゃ好きな味。口当たりがさっぱりとしてキレがあるのに、舌の上にザラリとした余韻を感じさせる。

苦味に重量感があり、飲んだあとも味と香りが残り、芳醇なワインのような長い余韻がつづいていく。液体が喉を通って胃袋に降りていくときに、一緒に気持ちも鎮まっていくのもわかる。

改めて香りを嗅ぐと、その香気に刺激されて頭の中で何かが弾けるような気がした。酒じゃないのに、コーヒーで酔えそうだ。気持ちが良くなる!

苦味一色の口の中に、ガトーショコラをひと欠片放り込むと、乾ききった大地に雨が降るように甘味が染み渡っていく。ほとんど黒で支配されていたオセロが、1枚の白石でことごとくひっくり返るように、舌の上を甘味が駆け抜ける!

このコーヒーとガトーショコラのマリアージュは危険だ。うっとりしてしまうじゃないか。もう私はトリコだった。今ならわかるぞ、「コーヒールンバ」のお坊さんの気持ち(恋を忘れたお坊さんがコーヒーを飲んで恋心を思い出すという内容)。

とにかくこのコーヒーを買って帰らないわけにはいかない! 家でも飲みたいもの! できれば、スチームパンク自販機で買いたい。

・3号機の場所はわかりにくい

2号機は登戸にあって、3号機は近くにあるはず。さっそく行きたいのだが、ひとつ問題がある。「棕櫚亭」ってところにあるらしいんだけど、この漢字の読み方がわからないので、GoogleMapsで検索できない……。

いろいろ手を尽くしてようやく読みが判明。「シュロ」というそうだ。したがってこれは「シュロ亭」と読む。シュロとは常緑高木のヤシ科の植物のことをいうそうだ。恥ずかしながら知らなかった。カフェ・ド・シュロに行ったのに気づかないなんて、なお恥ずかしい……。

それでその棕櫚亭は地図上でここにある。

駅の南側の川向うってことだけど、どう行ったらいいかな。一旦駅に戻ろう。

地図の指す方に進むとなると、このマクドナルドの向こうか? この先行けるの? 人が出入りしているから行けそうだな。

あ、川があって橋がかかっている。地図で見ると大きそうな川でも、実際に行ってみるとかなり小さいことはよくある。ここもそのパターンのようだ。

もしかして、あの向こう側の建物か?

・スチームパンク自販機!

あ、ここが棕櫚亭だ! ということは、ここに3号機があるはず。

あった~! これだ。間違いない。トランサイド珈琲の看板もあるしな。とても自販機とは思えないな。

映画のセットみたいだ。シルバーの本体に適度に施されたエイジング塗装が歴史を感じさせる。実際に時が経ってるわけじゃないけど。

本体だけじゃなくて、その周りにもしっかりコンセプトを感じさせる装飾がある。たとえば何気なくおかれた薪(まき)は、このマシンの燃料って設定なんじゃないかなあ。

薪をハッチに放り込んで、マシンを駆動させるってことなのかも。詳しい説明はどこにも記されていないけど、イマジネーションをかき立てられるから見ているだけで楽しい

正面のフレームの黄色いライトがパンクしてて良いですな。夜見たら絶対キレイでカッコいいはず。販売商品は百葉箱1号機と同じく、コーヒー豆とマグカップのみだ。

このハンドルはコーヒーミルのものかな。やっぱスチームパンクにはハンドルは必要だよなあ。

ほとんどがフェイクだけど、ここの小さな扉はフェイクではないですよ。

この中には持ち帰り用の紙袋が収められている。ヒミツの扉を開ける演出まで施されていて秀逸だ!

ちゃんと豆を買うのでひとつ頂きますね。

で、実際にお金を投入すると、ちゃんと1300円って表示された。こいつ、動くぞ!

では、緑にランプを1つ押しましょう。ポチッとな!

出てきた~! 豆はジップロックに入ってました。さすがに中身までスチームパンクにはできないよな。実用性を考えてジップロックを使っているのでしょう。

トランサイド珈琲のInstagramによると、自販機はすべて空間プロデュース・内装デザインの「アトリエ・ダレル」の亀山裕昭氏の手掛けたものなのだとか。

亀山氏はテレビドラマや『マスカレード・ホテル』や『コンフィデンスマンJP プリンセス編』などの映画作品の作画担当を務め、数々の受賞歴を持っている。その実力はこの自販機を見ればよくわかるだろう。素晴らしい作品である。

・想いの重さ

もう1台、初代のスチームパンク自販機(自販機2号機)は、登戸駅の近くに設置されている。

駅から徒歩約3分のところ、登戸ゴールデン街の看板のすぐ下だ。「登戸ゴールデン街」とは、昭和レトロをコンセプトにした飲食店ビルで、こちらの内装も亀山氏が手掛けたそうである。

2号機もいいですねえ。シルバーが基調の3号機よりもコッチの方が年代モノ感が出ている

全面サビ色で、軽く100年は経過しているような佇まい。

横から伸びた煙突から、黒煙が吹き出しそう。その下のハッチに薪を放り込むっていう設定かな。

足元にあるのはストーブ? その上にさりげなくコーヒーミルがくっついている。全体が調和しているので、コーヒー用品が隠れキャラのように自然に馴染んでいる。

これにもちゃんとハンドルが付いています。思わず回したくなってしまうのは、人の性(さが)か。

コーヒー用の紙袋はココ、これがヒミツの扉です。

本当は何の役割も持たない配管やメーター・バルブ類のはずなのに、ちゃんと役割を果たしているように見えてくるから不思議だ。

品揃えはこちらも同じく、豆とマグカップです。

よく見ると、トランサイド珈琲の歴史が貼り出されている。

1995年にカモノハシさん(先代:カモノハシに似ていたそう)が始めた珈琲焙煎工場。ブラジルを中心としたブレンドを直火焙煎したものを「トランサイド珈琲」と名付けたという。

カモノハシさんは「自分が飲みたい味の珈琲を焙煎するだけで十分だ」ということに行きつき、この味になったのだとか。カモノハシさんが他界した後に、カフェ・ド・シュロがその味を引き継いでお店と自販機で提供している。

スチームパンク自販機は見た目の印象が強いけど、販売しているコーヒーには、先代の熱意とそれを引き継ぐカフェのオーナーの思いがこもっている。トランサイド珈琲に感じる味の重さは、きっとその想いの強さのあらわれではないだろうか。機会があれば1度味わって頂きたい。奇抜な自販機もさることながら、その味にも驚かされるはずだ

・今回訪問した店舗の情報

店名 カフェ・ド・シュロ
住所 神奈川県川崎市多摩区西生田1丁目20-1
時間 11:00~17:00 土日祝10:00~17:00(食事メニューは11:00~14:00)
定休日 火曜日

参考リンク:Instagram @cafe_do_shuro.2009、@transside_coffee、アトリエ・ダレル、トランサイド珈琲
執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24
Screenshot:GoogleMaps

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