鎌倉市大船に商住一体型の複合施設「kuguru」がオープン予定。ブルースタジオが考える”なりわい暮らし”とは
鎌倉市大船に賃貸住宅「kuguru」が2026年春オープン
鎌倉市大船といえば、往時は松竹大船撮影所を中心に「映画のまち」としてにぎわった地域だ。いまでもJR大船駅前には、精肉店・鮮魚店・青果店などの個人商店が連なる商店街があり、商店と地域に住む人々との間には密接な関係性が息づいている。
そんなまちの一角、山蒼稲荷神社に隣接する敷地に計画されたのが、賃貸住宅「kuguru(くぐる)」だ。松竹株式会社から依頼を受けた、株式会社ブルースタジオが「暮らしと商いが共存する"なりわい暮らし"」をコンセプトに掲げ、商住一体型の複合施設としてプランニングした。
今年6月8日には、建物の上棟を機に、「棟上げまつり」と題したイベントを開催。プロジェクトの説明会とともに地元の飲食店の出店、餅まきなども行われた。当日は近隣からも多くの来場があり、地域からも高い関心が寄せられていることがうかがえた。
これからテナントや入居者の募集を行い、2026年春にオープンの予定だ。
当日の説明会では、松竹の森口和則執行役員も挨拶。松竹大船撮影所の歴史を紹介しながら、「kuguru」の意義を「松竹大船撮影所を通して地域とのつながりを深めた大船で、新たなにぎわい創出と地域コミュニティの拠点となることを目指したい」と説明した。
個性ある店舗が軒を連ねて、歩いて楽しい参道に
「kuguru」は、大船らしい"顔が見える商い文化"を受け継いでいきたいということから、「のれんをくぐる」というイメージ、そして地域に愛されつづけてきた山蒼稲荷神社の「鳥居をくぐる」というイメージから着想を得たネーミングだ。
建物は、神社の鳥居と本殿をつなぐ参道を挟むように2棟で構成される。松竹通りに面した店舗専用の2区画と、そのほか5区画の店舗兼用住宅から構成される商住一体型の複合施設だ。建物の外側には、神社の鳥居をイメージした木造の門型フレームが連なる。
事業主・貸主は松竹で、企画・建築設計監理はブルースタジオ。どちらの棟も木造2階建てで、367.74m2の敷地に延べ床面積379.95m2の規模の建物が計画された。
店舗兼用住宅の店舗スペースとなる土間の広さは2種類ある。約5畳の「なりわいタイプ」は1階の一部を店舗スペースに使える、いわば"商い初心者"向けで、3戸。1階全体(約15畳)を使う「あきないタイプ」は本格的に店舗をオープンさせたい人向けで、2戸ある。いずれも2階は住居スペースとなっている。
「なりわいタイプ」では、こだわりの雑貨や手作りのお惣菜などを並べる場、教室や手仕事の工房など、趣味や生活の延長としてコンパクトな店舗スペースを利用することで、自分のペースで商いを楽しむことができる。
また「あきないタイプ」では、カフェやギャラリーなどを住みながら商う暮らしが想定されている。
「神社の参道に、なりわい賃貸住宅と店舗が連なることで、それぞれの個性がにじみ出て活気やにぎわいが生まれるといいと思います。ちょっと寄り道したくなる、歩いて楽しい参道を計画しています」と、ブルースタジオのクリエイティブディレクター、大島芳彦さん。
8月24日には入居希望者向けの現地説明会も実施。竣工は2025年11月を予定している。
地域の歴史や記憶、文化を大切に。なりわい賃貸住宅が新たな人々の交流の場を生み出す
1階に店舗、2階に住居というスタイルをベースに、働き方と暮らし方の新たな形を提案する、「なりわい暮らし」のプロジェクト。ブルースタジオでは、大船以外にも、これまで各地でさまざまな形の「なりわい暮らし」のプランを提供してきた。
たとえば2024年10月に竣工した「種音(たね)」(東京都練馬区)は、大家自らが店舗部分でカフェを営み、入居者のコミュニティづくりをサポートする、地域密着型の店舗兼用賃貸住宅だ。畑で野菜を育て、屋敷林に守られて暮らすという、地域の原風景を受け継いだ「働く」「住む」の形が表現されている。
店舗兼用賃貸住宅「hocco」(武蔵野市)は、小田急バスの折り返し場を有効活用した建物だ。店舗部分には、お菓子やお惣菜など気軽に立ち寄れる店舗が入り、地域の交流地点として機能している。
今年4月末に竣工した「meedo」(調布市)も小田急バスの折返場を利用した店舗兼用賃貸住宅だ。豊かな湧水と緑に恵まれた地域の記憶を生かし、井戸から引かれたじゃぶじゃぶ池のある広場を設けた。さらにそこを囲うように、近隣の方も利用できるキッチン付きシェア店舗も設置。入居者のほか、近隣の人々も行き交い、かつての商店街のようなにぎわいを取り戻しつつある。
世帯が孤立していく日本社会。"なりわい"を通じて人とまちの輪をつくる
ブルースタジオが「なりわい暮らし」というコンセプトに取り組むきっかけになったのは、2020年に手がけた「鵠ノ杜舎」(神奈川県藤沢市)という賃貸住宅だ。「ゆっくりと日常を耕す舎」というコンセプトのもと、テラスハウスタイプの10棟を小道を挟んで並べた。
各住戸には広いデッキポーチ、裏側には専用庭を設けている。各戸の玄関はガラス窓と木の引き戸になっていて、通りの向こう側の人の暮らしが垣間見える。敷地内には井戸端広場という畑に面した広場があり、建物のすぐ裏手には貸し農園の畑が広がっている。
建物が完成して、入居者が生活を始めるようになると、そんな環境に影響されて、それぞれの人生が変化していったという。たとえばある入居者は、会社を退職し、リモートワークをしながら、必要なときだけ都心へ行くという生活になった。
通勤時間がなくなった分、サーフィンをしたり、畑仕事を始めたりする余裕も生まれ、畑で育てたハーブをマルシェで販売するようにもなった。この賃貸住宅で暮らすようになって、今までの働き方や暮らし方を見つめ直すようになり、住まいで「なりわい」を営むようになったというわけだ。
「2020年の国勢調査では、単独世帯は全体の38.1%、つまり日本に住む4割近くの人が一人暮らしをしている状況です。そして、高齢化の日本にあっては、今後この割合は大きくなると考えられています。高齢化地域や子育て世代の見守りなど、"なりわい"を通じて、人とまち、社会を結びつける"なりわい暮らし"の必要性は、これからさらに高まっていくと考えています」(大島さん)
人口減少、高齢化が進む日本の社会では、これまで営まれていた人とまちのあり方が、従来のままでは維持できなくなってきている。そんな現状に対して、ブルースタジオの提案する「なりわい暮らし」がどのように機能していくのか。期待を持って見守りたい。
■取材協力
・株式会社ブルースタジオ:https://www.bluestudio.jp/
・松竹株式会社:https://www.shochiku.co.jp/
■kuguru
・公式instagram:https://www.instagram.com/kuguru_official/
・先行受付:https://www.bluestudio.jp/rentsale/rs014088.html