「早く平穏な日常を」イランへの思い 名張出身の杉森さん
1か月滞在 帰国後に情勢悪化
「戸惑いと恐怖の中で過ごす人たちに、平穏な日常が一日も早く訪れるように」。ペルシアンアートのオンラインショップを運営し、SNSで「イランの良さを伝える杉森」として情報発信を続ける三重県名張市滝之原出身の杉森健一さん(36)=東京都在住=は6月1日までの約1か月間、イランに滞在していた。イランとイスラエルの対立が激化する中、現地の友人らの安否を気遣い、日本からできることを模索している。
1979年のイスラム革命に端を発するイランとイスラエルの対立は、核開発や代理戦争、安全保障などの問題が複雑に絡み、今年6月22日にはアメリカがイランの核施設を攻撃したことも報じられた。情勢の悪化が懸念される中、外務省は同月17日、イランの危険度を最も高いレベル4の「退避勧告」に引き上げ、現地にいる日本人の帰国や国外への避難を進めてきた。23日には米トランプ大統領が停戦合意を発表し、イランとイスラエル双方が「勝利」を主張する状況が続いている。
杉森さんは大学卒業後、広告代理店や海外旅行情報を発信するメディアなどで働き、2020年に独立。イラン国内で活動するクリエイターの作品を中心に取り扱う他、旅行情報の発信やイベント企画なども手掛け、特に独立後は毎年1、2か月単位で現地を訪れてきた。
今年の1か月間の滞在では主に首都テヘランや国内東部を巡り、5月下旬には名張で暮らす両親と現地で合流。「海外で着物を着る」という母親の夢を一緒にかなえ、中部の主要都市イスファハンなどを訪れた。更に、日本とイランの相互理解や友好親善への取り組みが評価され、5月27日に在イラン日本国大使館から在外公館長表彰を受けた。
そんな記憶が打ち消されるような情勢に転換したのは、帰国の約10日後。同16日に攻撃を受けたイラン国営放送の建物は「現地の取材で5月下旬にすぐ近くを訪れたばかりで、ショックが大きい」と振り返る。互いの標的は軍関係とされているが、軍高官も住むテヘラン市街地にも攻撃があり、安全が脅かされる事態に。テヘランに住む杉森さんの友人家族も郊外へ避難せざるをえなくなった。SNSで「良さ」発信
「自分と同じ世代や若い世代は、イラン・イラク戦争(1980‐88年)のことをほとんど知らない。これまでもイランとイスラエルで軍関係の施設を攻撃し合うことはあったが、市民が巻き込まれることは無かった。多くの人が、どこに逃げればいいのか、どうすれば安全か、分からないまま不安の中で過ごしている」。直接的な支援や協力ができない現状がもどかしい。
杉森さんは言う。「多くのイラン国民は、決して戦争や他国への攻撃をしたいわけではない」。信じられないことが次々に起き、刻一刻と変わる情勢を、遠く離れた日本から注視し、SNSなどを通じて発信し続けている杉森さんは「今は大変な事態になっているが、混乱が落ちつけば、イランの素晴らしい伝統文化やホスピタリティーを多くの人に感じてもらえる取り組みをしたい」と思いを語った。
杉森さんのインスタグラム、Xは、いずれも「@persianized_ken」。