ひらがなが読めない!?小学校入学で気づいた学習の困り。学校で受けている5つの合理的配慮は【読者体験談】
監修:室伏佑香
東京女子医科大学八千代医療センター 神経小児科/名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程
おしゃべりは上手なのに「あ」が読めない⁉小学校入学直後発覚した娘の困りごと
私には小学1年生、7歳の娘がいます。娘が小学校に入学して間もない5月末、国語の音読の宿題に取り組んでいたとき、娘が「あいうえお」の「あ」を読めないことに気づきました。
「どうしたの?これは『あ』だよ」と教えても、娘は「分からないよ!」と困ってパニックに。教科書に並ぶ「あ」「い」「う」の文字を前に、親子でただ戸惑うばかりでした。普段はおしゃべりがとても上手で、コミュニケーション能力も高いのに、なぜ読めないの?私は背筋が凍りました。娘の目には、文字がどんなふうに映っているのだろう、と。
娘は1歳半健診の際に発達遅延を指摘されたので、週5日、療育センターに通わせていた時期があります。そのおかげで発達障害についての知識は多少ありましたが、未就学時には診断はつかず、小学校入学前の就学時健診でも、もともとある弱視以外に特に指摘されることはありませんでした。
私はすぐにインターネットで検索、「もしかしたらLD・SLD(限局性学習症)なのでは?」と思いました。もしそうなら、診断を受けられる病院や地域の発達支援に早くつながらなければ、と考えたからです。
しかし、ちょうど娘が小学校に入学するタイミングで引っ越したばかりだったため、新しい地域の発達支援についての知識がまったくなかった私。県が公開しているLD・SLD(限局性学習症)を診察してもらえる病院リストに掲載されていた病院をかたっぱしから調べました。ですが——。
一日も早く診断をもらい、配慮が欲しい……のに地域の病院は全滅⁉
まず、Webサイトがある病院は全てWebサイトを確認。その時点でクリニックは軒並み初診受付をしていないことを知りました。それなら総合病院だと電話をすると、クリニックからの紹介状がないと受診できないと断られました。引っ越ししてきた経緯とクリニックが初診受付をしてない旨を話しましたが、ダメでした。
(どうすればいいの!)
実は引っ越しする際、この地域の発達支援は遅れている……という嘘か誠か分かりませんが、そんな噂を聞いたことがあった私。こういうところが積み重なって噂になっているのかも……と困惑しました。
もう越境するしかない!と、隣接県の病院の調査を開始しました。いちいち医療費還付請求などをするのは面倒ですが、娘の大事な時間には変えられません。
そしてついに隣接県のクリニックで予約を取ることができました。幸いにも電車で一時間程度で行ける場所でした。
初診で娘の様子や生育歴、簡単な親からの聞き取り調査、娘が書いた学校のプリントなど持っていった結果、すぐにLD・SLD(限局性学習症)の強い疑いあり、とお医者様が判断してくださいました。
「発達検査がまだなので診断書は出せませんが、病院と医師の名前を出していいので、学校や住む地域の教育センターに支援・配慮を求めるようにしてください」とアドバイスをいただき、少しでも早く娘に合理的配慮を思った私は、教育センターに連絡し、面談をしました。
やっとできた発達検査。LD・SLD(限局性学習症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、DCD(発達性協調運動症)と4種の確定診断が出た娘
教育センターで発達検査は実施してないと言われたので、検査は隣接県のクリニックで行うことになりました。毎日毎時間、キャンセルで空く時間はないかと病院の予約アプリに張り付き、なんとか早めの日程で予約をを確保。実施した検査はWISC-VとSTRAW-Rです。
検査の結果、ワーキングメモリが低めの総IQ107。知的障害(知的発達症)のないLD・SLD(限局性学習症)と診断がでました。また同時に、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、DCD(発達性協調運動症)も確定診断がつきました。言われてみれば確かにそれぞれの症状はあるのですが、そこまでと重複してると思ってなかったので、驚きました。
診断も出たため、教育センターから学校に娘の支援について連絡が行き、夏休み前、特別支援コーディネーター、教頭先生、担任の先生、私の4人で面談が行われ、学校での合理的配慮の始まりとなりました。
私がLD・SLD(限局性学習症)を疑い始めてから、わずか3ヶ月でここまで来ました。すごいスピード感です。もし受け身で待っていたら、もしかしたら3学期になっても具体的な支援方法にたどり着けず、勉強につまずきを感じてしまっていたかもしれません。頑張ってよかったと心から思いました。
娘が受けている具体的な配慮は5つ!来年度も通常学級でと言われ
学校で娘が受けている合理的配慮をご紹介します。
・音読は一人でさせない
・電子読み上げではない読書を強要しない
・タブレットによる黒板の撮影許可
・必要な場で担任の読み上げ補助
・タブレット端末によるマルチメディアデイジー教科書の使用、それに付随してヘッドフォンの使用許可
文字で見ると多く感じるかもしれませんが、LD・SLD(限局性学習症)の特性が分かっていれば、思い至るような内容だと思います。
実はこれらの配慮は私が調べ、考えました。当時、地域にはLD・SLD(限局性学習症)に対応してくれるところがなく、学びの支援を外部に求められませんでした。本当なら、専門の人に娘の学習支援方法を一緒に考えて欲しかったのですが……頼れる人もいなかったので、自分なりに調べて娘に必要な支援というものを探し続けました。
家では毎日数時間、娘の宿題を手伝っています。夏休み中、LD・SLD(限局性学習症)用の触読トレーニング教材に取り組んだら、字そのものを判読する力は劇的に伸びました。文章の理解ではなく「あ」を「あ」と読む力です。文章の理解は読み上げがないと難しいため、私が代わりに読みました。
娘はほかにASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、DCD(発達性協調運動症)もありますが、本来の運動能力自体が高く、勉強にも読めない関係以外で困りごともないため、特に配慮はありません。ただ、机の中が片付かない、多動性などがあるため医師に相談し、コンサータを服用して対応中です。
「待つ」のではなく、積極的に動いてよかった!やっとLD・SLD(限局性学習症)を支援してくれる放課後等デイサービスも見つかりました
地域の病院とつながることができず、相談できる先もなく、ここまでたどり着くのは本当に大変でした。運が良かった部分もあるかもしれませんが、何よりも「待つ」のではなく、自分から積極的に動いて正解だったと感じています。また、小児神経専門医の先生がいる病院に絞って探していたのもあってか、素晴らしい先生に診ていただき、私たち親子が困らないようアドバイスをいただけて本当に感謝しています。
先日、学習支援個別計画を立てて支援してくれる放課後等デイサービスをついに見つけました。この放デイは訪問支援も行っているので、学校と保護者の間に入り支援方法を一緒に考えてくれるそうです。ようやく、私が娘に欲しかった学習の支援に繋がれる気がします。
2年生への進級も迫ってきましたが、学校からは娘は通常学級でと言われています。娘には、特性を理由に学習したいことを諦めなくていいように、代替法をしっかり学びながら健やかに育ってほしいです。
イラスト/SAKURA
エピソード参考/ハツネ
(監修:室伏先生より)
娘さんが、診断に至るまでの経緯や、支援につながるまでのご家族の努力などについて、詳しく共有くださり、ありがとうございました。学習の困難さの原因は、LD・SLD(限局性学習症)以外にも、知的発達症、ADHD(注意欠如多動症)などさまざまであり、その判断には、問診、行動観察、発達・知能検査などを含めた適切な評価が必要となります。LD・SLD(限局性学習症)は、知的発達に比して、学習に必要な特定の機能(読む・書く・聞く・話す・計算する・推論する)に困難さがあることを言います。知的障害(知的発達症)では、全般的な知的発達の遅れがある(全体的にゆっくり)であり、発達・知能検査や読み書きの検査などで学習障害と区別しますが、平仮名を憶えられない、すらすら音読ができない、読み書きを嫌がるなどの症状は、知的障害(知的発達症)、LD・SLD(限局性学習症)のいずれでもみられることがあり、検査を行わないと判断が難しいこともあります。
ADHD(注意欠如多動症)では、授業の話に集中できない、自分の興味のあることに興味が惹きつけられてしまうなどの症状が学習の困難さにつながることもあります。それぞれ、適切な支援の方法が異なるため、まずはそのお子さんの困難さの原因を正確に理解することがとても重要になります。LD・SLD(限局性学習症)への支援としては、語彙を増やし、文字と音の関連を理解する力(音韻認識)を高めるトレーニングに加え、合理的配慮を取り入れることも重要です。書いてくださっている通り、読みのサポート(ルビの付与、拡大表示、読み上げソフトやデジタル教科書の活用)や、視聴教材やプリントの活用、タブレットでの黒板の撮影、テスト時間の延長などが望まれます。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如・多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。
SLD(限局性学習症)
LD、学習障害、などの名称で呼ばれていましたが、現在はSLD、限局性学習症と呼ばれるようになりました。SLDはSpecific Learning Disorderの略。