35歳、年収650万円……「このままでいいのか」の正体は?停滞感を打破する“棚卸し”の極意
35歳、年収650万円。順調にマネージャーまで昇進したものの、ふと感じる「このままでいいのか」という漠然とした不安。
「チームは成長しているのに、自分自身は停滞している気がする……」
「あと10年、20年、今のままで通用するのか」
「転職するなら今かもしれないけど、一歩が踏み出せない……」
そんな多くの中堅層が抱えている“停滞感”は、実は次のステージへの重要なサインだったりします。
大手金融機関が主催するビジネスセミナーで講師も務める、ブランディング専門家の松下一功さんに、 キャリアの停滞感を打破する「棚卸し」の方法 について聞きました。
(前後編の前編。後編:12月2日公開予定)
【松下一功(まつした いっこう)】
経営コンサルタント、共感ブランディングの提唱者。株式会社SKY PHILOSOPHY 会長。40年近く、企業アイデンティティーやブランドコンセプトの確立を専門とし活動。
35歳マネージャーが抱える「成長鈍化」の正体
私は10年近くビジネスセミナーでブランディング講師を務めていますが、参加される30代半ばから40代のマネージャー層の多くの方々が、同じような停滞感を抱えています。
理由は、マネージャーになると、 長らくプレイヤー時代に行ってきたものとは全く異なる業務が課され、それに必要な新しいスキルが求められるから です。
具体的には、部門間の調整、全社戦略への関与など多岐にわたりますが、何よりも求められるのは「チームをまとめて成果を出す」ことです。
プレイヤーとしてどれほど優秀だったとしても、この新しいミッションにはすぐに対応できるわけではありません。しかも、やり方に正解はありません。
だからこそ、無我夢中で突っ走っているうちは気にならなくても、ふと立ち止まった時に、「自身の成長が止まったのではないか」という焦りを感じてしまうのです。
では、 正解のないマネージャーの仕事で、どうやってチームをまとめ、成果を出していけばいいのでしょうか 。その鍵となるのは 「共感力」 です。
マネージャーに求められる新しい力「共感力」
かつてマネージャーは「𠮟咤激励しながら部下を引っ張り、成果を出す」存在でした。
しかし、今の時代、そのやり方は通用しません。
「チームとして成果を出す」というゴールは変わりませんが、メンバーそれぞれの考え方を理解し、一人ひとりが主体的に動けるよう支援する、というようにプロセスは大きく異なります。そのためには、メンバー一人ひとりと信頼関係を築くことが不可欠です。
つまり、 相手の立場に立ち、状況を理解しようとする姿勢 が大切なのです。
私はこれを 「共感力」 と呼んでいます。そして、メンバーや会社、お客様の思いを知ろうと真摯に向き合う中で、必然的に「自分はどうなのか」を振り返るようになります。
現代は「個の時代」です。それぞれの「個」が輝かなければなりません。チームをまとめ、会社の方針を体現し、プレイヤーとしても成果を出す。マネージャーは最もバランスが難しい立場なのです。
こうして自分を振り返ると、「このままでいいのか」という問いと共に、自然と選択肢が見えてきます。今の会社に残って現在の道を究めるか、転職して新たな挑戦をするか、起業という道を選ぶか。
この振り返りは、決してネガティブなものではありません。むしろ、次のステージへ進む準備ができた証拠です。
では、どうやって自分にとって最適な道を見つければいいのでしょうか。その鍵となるのが、「棚卸し」という作業です。
なぜ「棚卸し」をするべきなのか
「棚卸し」というと、多くの方は「自己分析」や「キャリアの振り返り」をイメージされるでしょう。
しかし、 本来の棚卸しは「行動価値」を見つけるための作業 で、単なる自己理解でもなければ、これまでの経歴を年表にすることでもありません。
なぜ成功したのか、なぜ失敗したのか。その時にどんな行動を取ったのか。そこから気づいた教訓は何か。これらを掘り下げていくことが、本当の棚卸しなのです。
例えば、産休明けの時短勤務期間に過去最高の営業成績を達成した人がいたとします。結果だけでも十分素晴らしいのですが、もう一段階、「なぜ短時間で大きな成果を出せたのか」を深掘りしてみます。すると、その人が「もともと短時間集中型だった」のかもしれないし、「まわりの人に積極的に相談したから」といった「達成できた背景」が浮かび上がってきます。
これこそが「行動価値」であり、その人の 「本質的な強み」 です。それに気づくための作業が、キャリアの棚卸しなのです。
棚卸しで得られるものとは
棚卸しで得られるものは、人によって種類も成果の大きさも異なります。ただ共通しているのは、自分の立ち位置が明確になることです。なぜ、今ここにいるのか、何を大切にしてきたのかが見えてきます。
そうすると、目指すべき道と、その道を歩む覚悟が決まります。「この道でやっていこう!」と腹がくくれるのです。さらに、 自分の信念が明確になれば、もうブレることはありません 。
私が過去にコンサルティングした方々も、棚卸しを通じて大きな転機を迎えました。
・ある大手企業の人事マネージャー
順調に出世街道を歩んでいましたが、上層部との理念の不一致に悩んでいました。その後、棚卸しを通じて、「同じ理念を持つ人と働くこと」への絶対的なこだわりが自分の軸だと発見し、独立を決意しました。今では理念を共有できる仲間と、健全な会社を経営しています。
・世界トップクラスのある保険営業マン
なぜ自分が大企業ばかりを顧客にできるのか分からずにいました。しかし、棚卸しの結果、幼少期に父の事業が失敗して家族が苦しんだ体験から、「企業を守ることで、そこで働く人とその家族を守りたい」という信念を持っていたと気づきました。これにより、営業成績がさらに向上しただけでなく、会社の顔としてセミナーやメディアにも登場するようになりました。
このように、 棚卸しをすることで自分の強みや価値観が整理され、進むべき道が明確になる のです。
【実践】あなたの「行動価値」を見つける棚卸しワークシート
棚卸しの重要性が理解できたところで、簡単なワークをやってみましょう。
これは、私がコンサルティングをする際に使用しているオリジナルの「棚卸しワークシート」で、順番に空欄を埋めていくだけで自分の行動価値を見つけ出せます。
※特許出願中 個人利用にとどめてください
このワークシートは、下から 「原点」「転機」「信念」「使命」「未来」 の順に書き込んでいきます。
まずは、自分の原点となる出来事、転機となった経験を書き出します。ここに当てはめるのは、人生の中で一番印象的だった成功体験、失敗体験が当てはまります。
次に、成功できた理由、失敗した原因を思い出します。「なぜそうなったのか」を掘り下げることで、自分の行動と考えを思い出してくるはずです。それが「信念」です。
最後に、「信念」から導き出される「使命」を記入し、あなたが理想とする「未来」を記入します。
実際の記入例をお見せしましょう。これは、過去にコンサルティングを行った、ユニフォームのレンタル・クリーニング事業を展開する、株式会社M&Sの代表取締役社長・齋藤さんのものです。
<ワークシート記入例>
齋藤さんは学生時代の「野球部のエースだったけれど、ケガのためにレギュラーから外されてマネージャーになった経験」を転機として挙げました。はじめは渋々マネージャーをしていましたが、いつの間にか仲間のサポートが楽しくなり、試合の成績も上がったそうです。
この経験から「みんなが輝くことが自分の喜び」という本質的な価値観を発見し、「一人ひとりの強みを見つけて輝かせることで、チーム全体を成功に導く(裏舞台でも輝く)」という信念にたどり着きました。
齋藤さんの詳しい背景や、その後のキャリアの変化については、次回の後編で詳しくお伝えします。まずは、ぜひこのワークシートを使って、あなた自身の棚卸しを始めてみてください。
棚卸しワークシートと記入事例 ダウンロード(PDF)
後編:12月2日公開予定
プロフィール
松下一功(まつした いっこう)
経営コンサルタント、共感ブランディングの提唱者。株式会社SKY PHILOSOPHY 会長。40年近く、企業アイデンティティーやブランドコンセプトの確立を専門とし活動。2011年より「真のブランディングを世に伝える」ことをミッションに、講演、講師、コンサルティングを行う。2024年、著書『共感ブランディング®ドリル』で、自身の体系的オリジナルロジックを一般公開。ブランディングのわかりやすい実践書として高評価を得ている。
取材・文:安倍川モチ子
編集:求人ボックスジャーナル編集部 内藤瑠那