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キス科とは似ても似つかない<メギス>ってどんな魚? 「めぎす」とも呼ばれる<ニギス>との違い

サカナト

メギス(提供:椎名まさと)

今シーズンも日本各地で底曳網漁業が解禁され、深い海の魚が魚市場に並ぶ楽しいシーズンがやってきています。

その底曳網漁業のターゲットのひとつ、全国の広い範囲で漁獲される「ニギス」という深海魚は、小さいものの味がよく人気の高い魚です。

また、本種は「めぎす」という名前でも呼ばれることがあるものの、標準和名で「メギス」と呼ばれる魚はまた別の魚を指します。

「めぎす」とも呼ばれる標準和名「ニギス」、そして標準和名「メギス」とはいったいどんな魚なのでしょうか?

※この記事の魚の名前のうち、標準和名はカタカナ表記、地方名などはひらがなで表記します。

「めぎす」と呼ばれる魚

秋になり底曳網漁業のシーズンが開幕しました。

大きなタラのような魚、細かいハダカイワシ、体が鎧のような鱗におおわれたキホウボウ、トゲトゲのエビ・カニ、脆い魚など、この底曳網漁業ではさまざまな生物が漁獲されます。

底曳網で漁獲されたニギス(提供:椎名まさと)

中でもニギスという魚は小さく脆い、いわゆる「あしが早い」魚です。

一方、ニギスは鮮度の低下が早いものの、味がよいことから食用として積極的に利用されてきました。

キスに似た魚?

ニギスGlossanodon semifasciatus(Kishinouye, 1904)は原棘鰭上目・ニギス目・ニギス科・ニギス属の魚で、青森県から九州沿岸まで広い範囲に生息している魚です。

名前に「ギス」(キスの変形)とあり、漢字でも「似鱚」と書かれることがありますが、キスの仲間(棘鰭上目スズキ目キス科)とは分類学的にかなり離れており、「目」やその上の「上目」の段階で異なっています。

ニギス(提供:椎名まさと)

ニギスは海底に大きな群れをつくって生息しているようで、底曳網漁業において極めて多量に漁獲される魚です。

実際、筆者が以前底曳網の船に乗船した時もニギスの大群にあたり、ひと網で600箱ほどのニギスが網に入ったということがありました。味のほうも極めて美味であり、刺身、塩焼き、揚げ物、なめろう、そして干物など様々な料理で食べられます。

ニギスとキスの見分け方

ニギスとキスはいくつかの外部形質で見分けることが可能です。

まず、ニギスの背鰭は1つで、その鰭は軟条のみであることに対し、キス科の背鰭は2つで、鰭は棘条と軟条からなります。

さらに、ニギスでは腹鰭がやや後方にあることに対し、キス科ではニギスよりも前方にあることも特徴です。

また、大きな特徴としてニギスは背鰭の後方に脂鰭(あぶらびれ)と呼ばれる鰭条のない鰭があることが挙げられます。

ニギスの特徴(提供:椎名まさと)

このニギスは、高知県では「おきうるめ」、新潟県などでは「おきぎす」などと呼ばれるほか、北陸地方や男鹿などで「めぎす」という地方名で呼ばれることがあります。

キス科の魚に似ているシルエットですが、眼がキス科の魚よりもやや大きいからでしょうか。しかし、標準和名で「メギス」と呼ばれる魚はまた異なる種を指すのです。

これが「真のメギス」だっ!

標準和名でメギスLabracinus cyclophthalmus Muller and Troschel, 1849と呼ばれるのは、主に高知県沿岸や琉球列島に分布する魚。『日本産魚類検索 第三版』準拠の分類においては、スズキ目・メギス科・メギス属の魚となっています。

見た目はハタの仲間に似ていて顔つきもいかつい印象を与えますが、大きさはハタ科と比較して小ぶりで、大きくても全長20センチほど。体はピンクないし茶褐色で、美しい色をしています。

鹿児島県喜界島で釣れたメギス(提供:椎名まさと)

生息環境は浅い岩礁(潮だまりにも入る)やサンゴ礁域であり、深海に生息するニギスとは縁遠い魚です。また、ニギスと異なり、日本国内において食用として市場に出ることはまずないでしょう。

メギスと近縁種ガンテンメギス

近年の図鑑では、日本産メギス属は1属1種とされてきましたが、標本を精査した結果、従来メギスとされてきたものの中に、もう1つ異なる種が含まれていたことがわかりました。

この種はガンテンメギスLabracinus ocelliferus(Fowler, 1946)と呼ばれるもので、日本国内においては徳之島、与論島、沖縄県に分布しています。

ガンテンメギスの雄(提供:椎名まさと)

ガンテンメギスはかつて沖縄県産の個体をもとに新種として記載され、1955年に書籍『魚類の形態と検索』の中で松原喜代松博士により標準和名がつけられていました。

ガンテンメギスの雌(提供:椎名まさと)

しかし、やがてメギスと同種とされると、標準和名や学名が使われなくなっていたものです。

メギスとガンテンメギスの見分け方として、体側にある小さな斑点模様があげられます。

メギスの黒点は体側の上半部または上半部前方にのみ見られる(青い矢印)(提供:椎名まさと)

メギスでは体側の上半部、または上半部前方にだけにあるのに対し、ガンテンメギスでは体中に斑点が散らばっていることが特徴です。

ガンテンメギスの黒点は体側の上半部(青い矢印)だけでなく、体の全体に見られる(水色の矢印)(提供:椎名まさと)

このほか頬部鱗列数によっても見分けられるとされますが、体側の斑点からの見分けのほうが容易と思われます。

観賞魚として飼育されるけれど……

メギス科の魚の多くの種は美しい色彩をしており、観賞魚として販売されている種もいます。

とくに紫色が強く美しいクレナイニセスズメ属のクレナイニセスズメや紅海やその周辺にのみすむオーキッドドティバック、黄色と紫色というツートーンカラーがめだつバイカラードティバックなどの種が代表です。

いずれも、その鮮やかな紫色の色彩がマリンアクアリストを魅了してきました。

紫色が美しいクレナイニセスズメ(提供:椎名まさと)

しかしながら、近年この魚を飼育している方は意外なほど少ないような気がします。というのもこの種はかなり強い性格をしており、ほかの魚に対して攻撃的になるからです。

そのため、特に似たような形の魚である、ハゼやカエルウオ、ハナダイの仲間などを攻撃し最悪の場合死なせてしまうこともあるのです。同種やその近縁種についても同様で、激しく争うためこの仲間はひとつの水槽に1匹のみにしておきたいところ。

また、きれいな水で飼育しないと弱ったり、色があせたりすることもあります。

もちろん、飼育することができなくなっても、絶対に海へ放流してはいけません。基本的に飼育しきれなくなった魚はペットショップなどに引き取ってもらうようにしましょう。

(サカナトライター:椎名まさと)

参考文献

伊藤大介・武藤望生・本村浩之.2021.メギス科Labracinus cyclophthalmus Muller and Troschel, 1849(メギス)の新参異名とされていたL. ocelliferus (Fowler, 1946)(ガンテンメギス)の形態的・遺伝的根拠に基づく有効性と再記載. Ichthy, Natural History of Fishes of Japan, 6: 9?24.

松原喜代松. 1955. 魚類の形態と検索.石崎書店.東京.

中坊徹次編. 2013.日本産魚類検索 全種の同定 第三版.東海大学出版会.秦野.

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